第21話 追加ミッション
パーティを終え次々に馬車へ乗り込り帰路につく貴族たちを笑顔で見送る。
さぁ、次のミッションだ。
「あ、ありがとう……ございます……」
いつも通り、パティシエは私の言葉に大号泣していた。
いつも通りケーキの取り分けをしてもらっている間、ケーキを頬張りつつ何気なく会場の様子を見ていた。
「あら?」
今まで特に気にしてもいなかったことに目が留まった。
片付けをしている使用人たちの後ろのテーブルには山盛りになったままの大量の料理が残されていた。
ケーキは廃棄処分されるとパティシエは言っていた。ということは…、
「ねぇ、もしかしてあの料理も廃棄処分されてしまうの?」
「えっ!?……あっ、はい。そうなります」
パティシエは一瞬手を止め料理の山を見た後当たり前のように言った。
「なんですって!?」
驚ろきの声が思わず漏れた。私の驚く声に片づけをしていた使用人たちの手が止まった。
見た感じ料理は100人前くらの量が残っていた。あれだけの量を捨てるつもりなのか?これまでの経験から、私には信じられないことだった。
この国のしきたりというかマナーとして、パーティでは料理を切らさないように多く作るというのが良いこととされていた。そのため王族のパーティでは毎回とんでもない量の料理が作られていた。
そんなことは知っていた。しかしパーティの終了後、余った料理がどうなるのかまでは知らなかった。
『すべての発端は食糧不足。あれさえなんとか出来ればここまで薬物に溺れる者が多く出ることはなかったでしょう』
貧民街の男たちの姿と町医者の言葉を思い出した。
王族や貴族は月に2~3回はこのようなパーティを開いている。
おそらく毎回あの量の料理が廃棄されている。
もったいない!
極貧の拘束生活で食べ物がないということがどれほど苦しいことかを知っている。空腹は人を絶望させ、不幸にさせる。
貧民街の人々が置かれている絶望を知っている。彼らはそこから抜け出すために禁断の薬物に手を伸ばし、その身を破滅させた。
国全体が貧しいのなら理解出来る。しかしそうではない。
あるところには大量の食材があり、大量に廃棄されている。その一方で食事がなく餓死寸前になっている人たちがたくさんいる。
後者の存在を知っている身として、まだ食べられる食事が廃棄されることが許せなかった。
「どうしてそんなことをするの…?」
「えっ!?」
ポツリと呟いた私の言葉にパティシエは驚きの声を漏らした。
「だってあんなにたくさんの量の料理が捨てられてしまうのよ。あなたもそう思わない?」
「……それは、そうですが」
パティシエは手を止め本当に困ったように周囲に助けを求めるような視線を送っていた。
貧民街に一体どれだけの人がいるのかはわからないが、あの量の食事があれば幾分かは彼らにとって救いにはなるだろう。
「捨ててしまうぐらいなら貧民街の方々にどうにかして配れないものかしら?」
「「えっ!?」」
私の呟きにパティシエとパティシエの視線に気づいた年配男性が同時に驚きの声を上げた。年配男性は胸に付いた☆のバッジと着用している服装から彼が使用人を束ねる責任者だということがわかった。
「ユリア様。今、何と?」
年配男性は目を見開いて驚きの表情で私を見た。
しまった。貧民街があるということはまだ公にはされていないのだ。
前回の世界で貧民街の存在が明らかになったのは私が貧民街で被害にあったことがきっかけだった。つまり今の時間軸ではまだ貧民街の存在は知られていないのだ。
「あぁ、ごめんなさい。何でもないわ。今の言葉は忘れて」
慌てて口を手で覆った。
完全に失言だった。つい気持ちが先走りすぎた。
無駄な廃棄を防ぎ、必要な人のもとに届けることが出来る。
我ながらなかなかいいアイデアだと思ったのだが…。
これ以上変に動くのは止めた方が良さそうだ。悔しいが諦めることにした。
「本当に何でもないの。それよりケーキの方はもう詰め終わりましたの?」
「えっ、あっ。はい、こちらに準備が出来ております」
ハッと我に返ったパティシエはケーキの箱を私に手渡した。
本当のなんでもなかったというように出来るだけ自然な笑顔を浮かべて受け取った。
しかし年配男性はいまだポカンとした表情のまま固まっていた。
「どれでは皆様、本日はどうもありがとうございました。まだお仕事が残っていると思っていますけど頑張ってください」
急いで逃げるように会場を後にした。
◇◇◇
「お疲れ様でした。って何ですかその大荷物?」
いつものようにアリエルに大量のケーキの入った箱を手渡し事情を話した。
「彼女たちもきっと喜ぶと思います。本当にありがとうございます、ユリア様」
アリエルはメイドっぽく主人に頭を下げた。
「私は本当にあなたたち全員に心から感謝しているの。だから当然のことをしただけよ」
寝たきりで身動きが取れなくなった前回の世界。メイドたちは嫌な顔一つせず懸命に私のお世話をしてくれた。そして最期の時、皆大粒の涙を流してくれた。
これまで以上に気持ちを込めて感謝の言葉をかけた。
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