第17話 7度目の死?

 「ねぇねぇ!アリエル!これ見て!上手く出来たと思うんだけど、ここが難しくて……」

 「どこですか?あぁ、ここはこうしたらいいんですよ。ちょっとこっちに来て見ててください」


 やはりケーキ作戦の効果は絶大だった。

 今回も3ヶ月ほどという短期間で私とアリエルとの関係はすこぶる良好なものとなった。


 『パーティの残り物を持ち帰るなんて、はしたないことをするな!』

 やはり父の怒りを買ってしまったが、アリエルとの関係が強まるのならば十分おつりが返ってくるくらいだった。

 そして今のところ特に何かが起こるような予兆もなく穏やかな日々が続いていた。


 ◇◇◇


 「ユリア様、おやすみなさい。ちゃんと朝起きてくださいよ」

 「必ず起きるわ。絶対に朝に起きるから!」

 力強く宣言した。


 「それは結構なことですけど…。どうしたんですか、急に?」

 「なんでもないわ。おやすみなさい!」

 「はい、おやすみなさい?」

 不思議そうな顔をしたアリエルと夜の挨拶を終えのは姉たちとの演劇を観覧した日のことだった。

 5回目の世界。この日の夜に事件は起こったのだ。


 遠ざかっていくアリエルの足音を確認するとベッドから勢いよく立ち上がった。

 ベッドから降りると窓際にまず移動した。

 窓を開けると事前に用意していた脱出用のロープを外へ向けて垂らした。

 次に寝巻きから動きやすい服装に着替える。

 クローゼットの中に隠していた食料が入ったリュックを取り出すとベッド脇に置いた。そして腕組みをしてベッドに腰掛けた。


 血まみれのアリエルやって来たら有無を言わさず連れ出しすぐに一緒に脱出する。今度は二人で逃げるのだ。準備は万端だった。

 「さぁ、どこからでも来なさい!」

 こうして私の長い夜が始まった。はずだった……。



 「おはようございます」

 ぶっきらぼうな声が聞こえ、目が覚めた。

 そこには不思議そうな顔をしたメイドの姿があった。


 「へっ!?何で!?」

 慌てて飛び起きた。

 何が悪かったんだ?というか、いつの間に朝を迎えていたんだ?

 窓から差し込む朝の陽ざしに私はパニックになった。

 どうやら知らず知らずのうちに眠ってしまっていたようだ。

 というかこの朝は一体いつの朝だ?

 あれほど気合を入れ、長い夜の戦いに備えていたつもりだったのに……。

 頭の中が真っ白になった。


 「どうしたんですかユリア様?そんな服を着て?今日は早朝からどこかに行かれる予定ってありましたっけ?」

 「へっ?服装?」

 不思議な顔をして私を見るメイドの指摘を受け、身なりと周囲を確認した。

 私はいつもの寝巻ではなく動きやすい服装を着用していた。ベッド脇には食料の入ったリュックが置かれていた。


 「ねぇ、今日って何月何日?」

 「えっ?今日ですか?」

 戸惑うアリエルには構わず彼女の両肩をがっしりと掴むと、今日の日付を訪ねた。否、訊ねずにはいられなかった。


 「今日は王国歴1008年10月5日ですけど」

 「王国歴1008年10月5日……」

 それは姉たちと演劇を見た翌日の日付だった。16歳の誕生日の日付ではない。

 「よかった……」

 どうやら私は襲って来た睡魔負け、ただ眠ってしまっていただけだったようだ。

 

 私は生きていた。


 「私……、死んでないんだ。ハハハハハ」

 ベッドへ背中から倒れこんだ。

 変な笑い声が出て止まらない。


 生きている。

 その安堵感から自然に涙が流れた。


 「……あの、ユリア様?大丈夫ですか?」

 アリエルは不気味がり戸惑いと困惑の表情を浮かべていた。

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