第14話 国王の糾弾
「何ていうことをしてくれたんだ!」
事態を知った父は大激怒した。
幸い私の怪我は大事に至るようなものではなく、顔にも傷がつくようなことはなかった。しかし頭を包帯でぐるぐる巻きにされた姿はなんとも痛々しい姿となってしまっていた。
「大変申し訳ありません!」
顔面蒼白のまま、アリエルは父の前で土下座して謝罪した。
しかし必死の謝罪を受けてもなお父の怒りは納まりそうになかった。
「お父様、アリエルは悪くないわ。私が少し彼女の気持ちを考えずに身勝手な行動をとってしまっただけなの。だからアリエルを許してあげて!」
必死に今にも切りかかりそうなほど興奮状態にいる父をなだめた。
「お前の気持ちはよくわかった。しかし王族に手を上げ、あまつさえ怪我までさせてしまった以上ただで済ませるというわけにはいかない。お前だってそれくらいはわかるだろう?」
「それはわかっています。でも私はアリエルが処罰を受けることを望んでいません。どうか、どうか寛大な処遇をお願いします」
王族に手を上げた場合、その結末に関係なく処刑されるのが通例だ。つまり今のままではアリエルは確実に処刑されることになる。
それだけは何とか避けたかった。
すると私の必死のお願いを受け、父は腕を組んで考え込み始めた。
アリエルは助かるかもしれない。
微かな希望の光が見えた。
しかし、
「王族とは常に国民から敬われる存在。それを蔑ろにするのはべラス王国民として失格です。陛下、娘に嫌われたくないというお気持ちがあるのかもしれませんが、ここは他の罪人と同じように平等に裁くべきです。でなければ国民に示しが付きません」
脂ぎってテカテカな顔をした小太りの男が私の希望の光を吹き消した。
彼はリマン公爵。国王派を代表する貴族の一人で王城のすぐ目の前に広がる城下街を領地として与えられる。
貴族は城から近い場所に領地が与えられているほど国王からの信頼が厚いとされていることからも、父からの信頼度の高さがうかがえる人物である。
「そうだな」
側近の言葉に父は静かに頷いた。
これはマズい。せっかく最悪の展開を回避出来そうだったのに…。
まったく何てことをしてくれたんだ!
静かにリマン公爵を睨みつけた。
「ユリアよ。そんな目で公爵を見るでない。お前だって公爵の言い分はわかるだろ」
「それはそうですけど……」
それ以上何も言うことは出来なかった。
確かにリマン公爵の言い分もよくわかる。絶対的権力者である王族に手を上げても何のお咎めなしとなればそれこそクーデターを容認するということになってしまう。その方が国にとっては一大事だ。
つまり判決はほぼ決まっていた。
「アリエル・マグネル。第3王女ユリアへの殺人未遂の罪で処刑とする!」
アリエルは下された判決を聞くと静かに涙を流した。
その後すぐ衛兵によって両腕を掴まれると牢獄送りとなった。
放心状態でうな垂れるアリエルを私はただ黙って見送る事しかできなかった。
◇◇◇
アリエルの処刑は翌日に行われた。
私への配慮かその事実が私に伝えられたのはそれから数日後のことだった。
「そう…。わかったわ」
新たなメイド長となったアニーから報告を聞くと窓の外の景色を見つめた。
「元気を出してください」
寂し気な私にアニーは気づかいの声をかけてくれた。
しかし私の心にポッカリと空いた穴はそう簡単には埋まらなかった。
◇◇◇
「ユリア様!これ見てください!上手く出来たと思うんです」
「そうね」
「ユリア様!これ、どうしたらいいと思いますか?」
「さぁね、私にはわからないわ。自分で考えて」
「ユリア様!今日の陛下との演劇の観覧衣装はどのドレスにしましょう?」
「別にいつものでいいわ」
毎日健気にアニーは声をかけて続けてくれた。
それはまるで以前私がアリエルに対して行っていたものと瓜二つだった。
あの日以来ずっと上の空な日々が続いていた。
それがいけないことだということを私は過去に経験していたはずだった。
しかしそれを直すということをすることはなかった。
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