第13話 アリエル攻略大作戦
「何をやってるんですか。早く起きてください」
メイドは舌打ちをすると私を早く起きるよう急かした。
しかし私はただ呆然とメイドの顔を眺めていた。
「何ですか?私の顔に何かついてるんですか?」
メイドは眉間にしわを寄せ嫌そうな顔をした。
「あぁ……、ごめんなさい」
私は気持ちの整理がつかず現実を受け止めきれなかった。
◇◇◇
父から送られた16歳の誕生日のお祝いの言葉もサプライズもすべてが上の空だった。
すべてが上手くいっていたはずだった。
なのに何故クーデターが起きたのだろう?
本当にわけがわからなかった。
「本当にどうしたんだ?体調でも悪いのか?」
「……えっ?あぁ、申し訳ありせん。何でしょうか?」
ハッと我に返り、慌てて笑みを作り聞き返した。
「心配だわ。こんなこと初めてじゃない?一度お医者様に診てもらった方がいいんじゃない?」
母は心配そうに言った。
「そうだな。もしものことがあっては大変だ。今日のパーティは大事をとって止めておいた方がよさそうだな」
両親は私のことを心から心配していた。
「……」
普通ならここで大丈夫ですと言うところなんだろう。
しかし今の私はそんなことを言う余裕がまったくなかった。
黙ったまま俯く私を見て両親はさらに心配そうな視線を私に向けた。
こうして6度目の誕生日パーティは中止されることになった。
◇◇◇
「ねぇねぇ!アリエル!これ見て!」
「何ですか?私は忙しいんです!必要ないことで呼ばないでください!」
「ねぇねぇ!アリエル!これ、どうしたらいいと思う?」
「知りませんよ!自分で考えてください!」
誕生日パーティ中止から約3ヶ月。
すっかり元気を取り戻した私はアリエルに猛アタックを行っていた。
前回であればすでにすっかり打ち解けていたはずの時間が経ったのだが、今回はまったくその領域には達していなかった。
今のペースは3回目のとき、つまり初めてアリエルと仲良くなったときとほぼ同じだ。
確かあのときは打ち解けるまでに1年以上の時間を要した。
今回もそれくらいの時間が必要となりそうだ。
はっきり言って私は焦っていた。
何か手っ取り早く進む方法はないかと必死に考えた。
ところが結局いい案は思いつかず、今までよりしつこくアリエルに猛アタックするということにした。
しかしこの選択がすべての間違いだった。
◇◇◇
「ねぇねぇ!アリエル!これ見て!すごく可愛いと思うの?アリエルにも似合うと思うの?お揃いにしない?」
「ねぇねぇ!アリエル!これ、どうしたらいいと思う?あなたの意見を聞かせて頂戴?」
「ねぇねぇ!アリエル!今度お父様と演劇に出かけるんだけど、もしよかったら一緒に観にいきましょ?」
「ねぇねぇ!アリエル!リマン男爵の家に大きな犬がいるんですって?アリエルは犬派?猫派?それとも私派?なんちゃって!」
私は毎日矢継ぎ早にアリエルに声をかけ続けた。
とにかくもう一度、あの関係になりたかった。
しかし焦りからか私の行動は完全に空回っているということにまったく気づいていなかった。
最初の頃は軽くあしらう程度に答えてくれていたアリエルだったのだが、次第に顔を引きつらせるようなった。
そして次第に「はい」とか「えぇ」とか「いえ」いう簡単な相槌程度の返事でしか返してもらえなくなっていった。
何でも言い合える間柄を一度経験してしまったが故に、中々心を開いてくれない彼女に私は少し苛立ちさえ覚え始めていた。
そして、事件は起きた。
◇◇◇
「ねぇねぇ!アリエル!これ見て!」
いつものように私はアリエルにアタックを開始していた。
いつもなら「何でしょうか?」くらいは最初に返してくれたのだが、今日は違っていた。
「もう!いい加減にしてください!仕事の邪魔です!あっちに行っててください!」
アリエルは突然怒鳴り声を上げたのだ。
強い拒絶。
私の中で何かが壊れる音がした。
「どうして?私はこんなにあなたと仲良くしたいと思っているのに、どうしてあなたは私をそんなに邪険に扱うのよ!?」
つい私も怒鳴り声を上げてしまった。
「はぁ?仲良くしたい?私とあなたは主人とメイドの関係です。必要以上に仲良くなんてする意味ないでしょ?」
ショックな一言だった。
まさかアリエルからそんな言葉が飛び出すなんて思ってもいなかった。
「どうしてそんなことを言うの!?私たちはそんな関係じゃなかったじゃない!私はあなたを友人だと思っているのに!」
「知らないですよ、そんなこと!本当にさっきから何なんですか!気持ち悪い!」
それはそうだろう。
彼女も同じように死に戻りを繰り返していたとしたら話は別なのだろうが、私の言っていることはあくまで私の記憶の中にあるだけのアリエルなのだから彼女が知ったことではない。
ハッと我に返った。
「あっ、ごめんなさい」
素直に謝った。
しかし、
「もう私に話しかけないで!」
アリエルの元に一歩近づいた私の体を彼女は両手を伸ばして突き飛ばした。
「!?」
普段から仕事で重い物を持ったりしているからか、彼女の力は想像以上に強かった。
踏ん張ることが出来ず私は押された勢のまま部屋の壁に激突した。
その衝撃により壁に飾られていた私の肖像画が入った額縁が壁から落下した。
運が悪いことにその下には私がいた。
ガシャン!
落下した額縁の角が私の頭を直撃すると大きな音を立ててガラスが砕け散った。
衝撃により私は床に倒れ込んだ。
ガラスは室内に飛び散り容赦なく倒れこんだ私の体にも降りかかった。
「どうかしましたか!?すごい音がしましたけど?」
慌てて近くの部屋にいたメイドが私の部屋に駆け込んできた。
「大丈夫。なんでもないわ。額縁が落ちてしまっただけよ」
私は痛む頭を押さえながら答えた。
「!?ユリア様!?」
私の姿を見たメイドは血相を変えた。
「す、すぐに医者を呼んできます!絶対に動かないでください!」
そう言い残すと慌てて医者を呼ぶよう周囲に叫んだ。
そんな大袈裟な。
全然大した事はない。私はそう思っていた。
しかし目の前にいるアリエルは真っ青な表情をして固まっていた。
どうしたんだろう?
そう思っていたところポタリポタリと地面に血が滴った。
あれ?これは誰の血だ?
頭を押さえた手を見ると、掌は真っ赤に染まっていた。
「あれ?」
ジンジンと頭が痛みだした。
どうやら額縁が当たったことにより私は大怪我をしてしまっているようだ。
慌ただしい駆け足が聞こえて来ると医者が駆け込んで来た。
血まみれの私の姿を見た医者はすぐに医務室へ運ぶよう指示を出した。
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