第12話 5回目の死

 「ねぇねぇ!アリエル!これ見て!上手く出来たと思うんだけど、ここが難しくて……」

 「どこですか?あぁ、ここはこうしたらいいんですよ。ちょっとこっち来て見ててください」


 「ねぇねぇ!アリエル!これ、どうしたらいいと思う?」

 「私はこっちの方がいいと思います。その方が魅力が引き立つと思いますよ」


 「ねぇねぇ!アリエル!今度お姉様と演劇に出かけるんだけど、どのドレスがいいと思う?」

 「あの演目は叶わない恋の話らしいのであまり派手なのはやめた方がいいと思います」 


 

 結論から言ってケーキ作戦の効果は絶大だった。

 なんと僅か3ヶ月という短期間で私とアリエルとの関係は3回目のとき以上のすこぶる良好なものとなっていった。


 『パーティの残り物を持ち帰るなんて、はしたないことをするな!』


 あの後珍しく父の怒りを買ってしまったが、それでもアリエルとの関係が強くなったのであるならば十分おつりが返って来るくらいだ。


 再びあの楽しい充実した日々がやって来た。

 私は毎日が楽しくて仕方がなかった。


 しかし、再び出来た友人との穏やかで平穏な日々長くは続かなかった。


 

 ◇◇◇



 「おやすみなさい。ちゃんと朝起きてくださいよ」

 「失礼ね。ちゃんと起きるわよ!それじゃあ、おやすみなさい」


 いつも通り、アリエルと夜の挨拶を交わすとベッドにもぐりこんだ。


 明日は何をしよう。

 どこへ行こう。

 毎日が楽しみでワクワクが止まらない。

 すぐに夢の中へと誘われた。


 

 ドン!



 突然大きな音が部屋に響き渡り、私は夢の世界から現実世界へ引き戻された。

 この音に聞き覚えがあった。


 確か部屋の扉が勢いよく開かれた時の音だ。

 一気に目が覚めた。

 どうして今そんな音がするんだろう?

 あれは起こったとしてももっと後だったはずだ。

 飛び起きるとすぐに扉の方を見た。

 「はっ!?」

 私は言葉を失った。

 扉の前には全身血まみれになったアリエルの姿があった。


 「逃げて、ください……。クーデターです」


 「クーデター……」

 呆然として言葉を失った。


 何故?

 わけがわからなかった。

 これでは3回目の世界とまったく同じではないか。

 頭の中が真っ白になった。


 「いたぞ!ユリア王女だ!」

 そう叫びながら剣を構えた複数の男が部屋の前に現れた。

 「ユリア王女。拘束させていただきます」

 見覚えのあるの男が縄を手に部屋に入ろうとした。


 「ここから先には行かせません!」

 すぐさま血まみれのアリエルが両手を広げて男の前に立ち塞がった。


 あぁ……。ダメだ。

 これでは以前と全く同じではないか…。

 またアリエルを失ってしまう。

 そんなのは嫌だ!

 前回と違い、今回は体が勝手に動いた。


 「邪魔だ!どけ!」

 男が叫びながらアリエル目掛けて剣を振るった。

 「早くお逃げ……」

 アリエルの言葉はそこで止まった。

 部屋中に真っ赤な血しぶきが勢いよく飛び散った。


 「いやーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

 絶叫がこだました。


 しかし前回とは違い叫び声を上げたのは、アリエルの方だった。

 アリエル目掛けて剣が振り下ろされる直前、私は彼女を突き飛ばした。

 突き飛ばされたことにより、アリエルに剣が当たることはなかった。

 しかし変わりにその剣は突き飛ばした私の体を直撃した。


 「どうしてですか!ユリア様!」

 血まみれのまま横たわる私にアリエルは泣きながら駆け寄ってきた。

 その後ろで男たちが何やら叫んでいたが、私にはどうでもよかった。

 薄れゆく意識の中、何度も私の名前を呼び続けるアリエルの姿がうっすら見えた。


 「アリエル……、よかった……」

 それだけ呟くと私の意識はなくなった。



 ◇◇◇



 「おはようございます」


 ぶっきらぼうな声が聞こえ、目が覚めた。

 そこには不機嫌そうな顔をしたメイドの姿があった。

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