第8話 4度目の誕生日パーティ
「どうかしましたか?」
驚いたように目を丸くしたまま固まる私を見てメイドは怪訝な表情をした。
「早く起きてください」
いつも通り舌打ちをすると早く起きるよう急かした。
「あぁ。そっか……」
何となくではあるが、私はこの状況を理解始めていた。
◇◇◇
「誕生日おめでとう、ユリア。今日で16歳だね」
朝食の席に姿を現した父は私の誕生日を祝福した。
「さぁ、ささやかなプレゼントだ」
父がパチンと指を鳴らすと、大量の薔薇の花束を抱えた執事達がぞろぞろとやって来た。
「どうだい?驚いただろう」
父は満面の笑みをたたえ、娘へのサプライズ成功を自画自賛しているようだった。
「さぁ、今日はパーティだ。すべての貴族がお前を盛大に祝福したいと言っているよ」
「ユリアは本当にみんなに愛されているわね」
両親は嬉しそうな笑顔で私を見つめていた。
□□□
やっぱりそうだ。私はどういうわけか同じ世界を繰り返している。
そう確信した。
初回と2回目で私は処刑され死んでしまった。
そして3回目となる前回は突如起こったクーデターで逆上した人物に殺されてしまったのだ。
そして何故か再び16歳の誕生日パーティの日の朝に死に戻ってきたのだ。
しかし今回は大きな収穫があった。
確かに殺されるという運命はこれまでと同じではあったが、前回の世界では初めてアリエルという友人が出来た。それは今までの人生で一番充実した日々だった。
もう一度あの日々を過ごしたい。
前回はどうしたんだっけ?
そんなことだけを考えながら、私は4度目の誕生日パーティへと向かった。
□□□
「ユリア王女。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
城では私の16歳の誕生日パーティが開かれていた。
会場にはこの国のすべての貴族が勢ぞろいしていた。
小太りで脂ぎった顔に悪趣味な服装をした中年男性と厚化粧と香水臭い中年女性が次々と祝福の声をかけに私の元にやって来た。
私の中では4回目となるこのやり取りに私は完全に飽きていた。
「ふぁ~」
時折ついあくびが出てしまう。
早く終わってくれないかな…。
とにかく退屈な時間だった。
そんな退屈な時間の開始からおよそ2時間が経ったころだった。
何やら会場が急に騒がしくなった。
「きゃあ!素敵!」
会場から女性たちの歓声が聞こえてきた。
歓声の正体はすぐにわかった。
ヤツが来たのだ。
しかしここでは何も身構えることはない。
過去を振り返ってもこの場で彼が何か行動を起こすことはなかった。
何も心配することなんてない。
そう思って私は目の前に現れるイケメン貴族と向き合うことにした。
のだが、
「お久しぶりです、ユリア王女」
「はっ?」
思わず腑抜けた声が出てしまった。
それは始めて聞く挨拶の言葉だった。
初回も2回目も3回目も、彼がこんなことを言ったことは一度もなかった。
一体どういうことだ?
私はわけがわからずポカンと口をあけて目の前のイケメンの顔を見つめていた。
「申し訳ありません。私たち、どこかでお会いしたことがありましたでしょうか?」
私は少し困り顔をして訊ねた。
「これは失礼しました。幼少期に一度お会いしたことがあったのですが、さすがに覚えていなくて当然ですね」
フィードル伯爵は少し鼻で笑うようにして言った。
お前にはそんなことを覚えている頭はないだろう?と言われているような気がした。
馬鹿王女などと罵られたときのことを思い出し、少し腹が立った。
とは言え、腐っても相手は貴族。
貴族同士顔合わせの機会はあっただろうから実際幼少期に会ったことはあるだろうと思うので、彼の言い分はきっと正しいのだろう。
しかしそんな昔のことを私が覚えているはずは当然なかった。
「フィードル伯爵、遠いところを良く来てくれた」
すると突然私の背後から父が現れた。
前回は現れなかったのに、何故今回は現れたのだろう?
何か規則性でもあるのだろうか?
しかしもしあったとしても今の私には皆目見当がつかなかった。
「王女殿下のご生誕祭に駆けつけるのはこの国の貴族として当然の勤め。本日はご招待いただき、まことにありがとうございます」
フィードル伯爵は今回は父に対してこのセリフを発した。
「しかし、久しぶりとは随分気安く話かけるじゃないか?」
どこか父は不機嫌そうだった。
「申し訳ありません。年が近いこともあって勝手に親近感を抱いておりまして」
親近感だと?私はそんなものを抱いたことなど一度もない。
私は父の後ろに隠れるようにして無言の抗議をした。
「勝手なことを。二度と娘にそのような口を利くな」
父はどうやら私の訴えを理解してくれたようだ。
さすがは父親といったところだ。
「以後気を付けます」
フィードル伯爵は私たちに向かって頭を下げると、会場の中へと消えていった。
「ふん。嫌らしい男だ。ユリアよ、またあの男が言い寄ってっ来るようなことがあったらすぐに言うんだぞ」
父はそういうと私の頭に軽く手を当てるとすぐに会場の中へ入っていった。
どうやら父は私がフィードル伯爵から口説かれているとでも思ったのだろう。
確かに彼は顔がいい。頭もいい。超優良物件だ。
しかし今の私にはそんな気は一切なかった。
その後はこれまで通り彼が私に近づくということはなかった。
こうして今回も特に変わったことが起きることもなく、私の誕生日パーティは終わりを迎えた。
◇◇◇
「お疲れ様でした」
パーティを終え、自室へ戻った私をメイドのアリエルはいつも通りぶっきらぼうな態度で迎えた。
「いつもありがとう、アリエル」
遅い時間まで待っていてくれたメイドに私は労いの言葉をかけた。
「!?どうしたんですか?そんなこというなんて?変なものでも食べたんじゃないでしょうね?」
アリエルは恐ろしいものを見たかのような目で私を見た。
ここまでの反応は前回とまるっきり一緒だった。
「私はあなたに感謝しているの。だから当然の言葉を送っただけのことじゃない」
私は前回と同じ言葉をアリエルにかけた。
アリエルと過ごした日々が楽しかった。
もう一度、彼女との楽しい時間を過ごしたい。
こうして私は前回と同じくアリエルに猛アタックを開始することにした。
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