第7話 3度目の死
「ねぇねぇ!アリエル!これ見て!」
「何ですか?私は忙しいんです!必要ないことで呼ばないでください!」
「ねぇねぇ!アリエル!これ、どうしたらいいと思う?」
「知りませんよ!自分で考えてください!」
「ねぇねぇ!アリエル!今度お父様と演劇に出かけるんだけど、どのドレスがいいと思う?」
「いつものでいいんじゃないですか」
「ねぇねぇ!アリエル!リマン公爵の家に大きな犬がいるんですって?アリエルは犬派?猫派?」
「どっちでもいいです」
この半年間、私はアリエルと以前よりももっと親しくなろうとした。
そこでとにかく彼女に話かけまくることにした。
しかし返ってくるのはそっけないものばかりで、片思いの日々が長い間続いた。
それでも私は挫けなかった。
来る日も来る日も続けていると、ついにアリエルの態度に変化が見られ始めた。
「ねぇねぇ!アリエル!これ見て!上手く出来たと思うんだ!」
「そうですね。随分様になってきたんじゃないですか」
「ねぇねぇ!アリエル!これ、どうしたらいいと思う?」
「ユリア様はどうお考えなんですか?」
「ねぇねぇ!アリエル!今度お母様と食事に出かけるんだけど、どのドレスがいいと思う?」
「お妃様は赤色のドレスを選ばれるみたいですよ。どうします?」
「ねぇねぇ!アリエル!トーマス伯爵の家に子犬が産まれたんですって!アリエルは犬好き?」
「嫌いではないです」
これまでのそっけないものから、少しずつではあるがコミュニケーションが生まれつつあった。
山が動き始めた。
そう感じた私はその後もアリエルに猛アタックを続けた。
「ねぇねぇ!アリエル!これ見て!上手く出来たと思うんだけど、ここが難しくて……」
「どこですか?あぁ、ここはこうしたらいいんですよ。ちょっとこっち来て見ててください」
「ねぇねぇ!アリエル!これ、どうしたらいいと思う?」
「私はこっちの方がいいと思います。その方が魅力が引き立つと思いますよ」
「ねぇねぇ!アリエル!今度お姉様と演劇に出かけるんだけど、どのドレスがいいと思う?」
「あの演目は叶わない恋の話らしいのであまり派手なのはやめた方がいいと思います」
「ねぇねぇ!アリエル!ニクソン子爵の家の庭に野生の兎が巣を作ったんですって!アリエルは兎って好き?」
「兎は食べたことないのでわかりませんが、私は牛が好きです」
「いや。食料としての話じゃないんだけど……」
約1年以上の月日をかけ、ついに冗談まで言ってくれるまでの関係となることに成功した。
一緒にお茶を飲むこともあったし、買い物も一緒に楽しんだ。
時には彼女の相談にも乗ったこともあった。
こうして私はますますアリエルとの絆を深めていった。
思えばお城暮らしの私には友人と言える人など一人もいなかった。
初めて出来た友人の存在は私の日常を大きく変え、新たな彩りを与えてくれていた。
もう何も怖くない。心配なんてない。
これからもずっとこんな日々が続くのだろう。
それは本当に幸せな日々だった。
しかしそんな私にある運命が近づいていることを、私はすっかり忘れていた。
◇◇◇
それは18歳のある日のことだった。
「おやすみなさい」
アリエルが夜の挨拶をして部屋を後にすると、私はベッドに潜り込んだ。
窓からは月が綺麗に見えていた。
こんな日には外を散歩してみたくなる。
しかし急にいなくなってしまってはアリエルに心配をかけてしまう。
高鳴る気持ちを抑えて布団に潜り込むとすぐに眠気に襲われ、私はすぐに夢の中へと落ちて行った。
ドン!
突然大きな音が部屋に響き渡った。
「何!?」
ただならぬ物音に驚いて飛び起きた。
室内を確認すると入口の扉が開いていた。
さっきの音は扉が勢いよく開いた音だったようだ。
扉の隣に一人の人影が見えた。
人影に目を凝らすと私は言葉を失った。
そこには全身血まみれになったアリエルの姿があった。
「逃げて、ください……。クーデターです」
「クーデター……」
呆然として言葉を失った。
城の中でドンドン、パンパンと激しい音があちこちから響き渡っていた。
どうして?
クーデターが起こる予兆なんて一切なかった。
それに今回私は何もやっていない。
いろんなことが頭の中を駆け巡り、ただ呆然として現状を把握出来ずにいた。
そんな時だった。
「いたぞ!ユリア王女だ!」
「!?」
突然剣を構えた複数の男が部屋の前に現れた。
「王女。拘束させていただきます」
一人の男がニヤつきながら縄を手に持って部屋に入ろうとした。
どうやら狙いは私のようだ。
逃げなくては。
そう思うのだが突然の出来事に上手く体が動かなかった。
「申し訳ありませんが、ここから先には行かせません!」
すぐに血まみれのアリエルが両手を広げて立ちふさがった。
少しでも私が逃げる時間を稼ごうとしてくれているようだった。
しかし妨害するアリエルに対して男たちは容赦がなかった。
「邪魔だ!どけ!」
そう叫ぶと躊躇なく彼女目掛けて剣を振るったのだ。
「早く逃げてください!ユリア様!」
迫る剣にも動じず、アリエルは叫んだ。
その直後、彼女の体が二つに引き裂かれた。
ドカドカっと音を立てて二つに裂けた肉塊が床に崩れ落ちた。
「いやーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
私は目の前で起こった惨劇に絶叫した。
どうしてこんなことになっているのだろう?
わけがわからなかった。
そんな私の感情は関係いとばかりに男たちは躊躇なく荒々しく部屋に踏み込んで来た。
「いや!来ないで!」
動かない体を必死に動かし、何とか窓際まで移動した。
「大人しくしていればそこの馬鹿女のようにはなりませんから。まぁ、捕まった後はもっと酷い拷問を受けてももらうことになるんですけどね」
男たちはニヤつきながら私に近づいてきた。
「こっちに来ないで!」
逃げろと言ったアリエルの願いを叶えるため、私は最後の抵抗を試みた。
窓際に置かれていた花瓶を手に取ると男たち目掛けて投げつけた。
当たれば隙が出来るかもしれない。
その隙に逃げよう。
狙い通り、投げつけた花瓶は一人の男の腹に直撃した。
「痛えな、この野郎!」
しかし花瓶が直撃した男に隙が出来ることはなかった。
逆上した男は私目掛けて素早く剣を振り下ろした。
痛いというより熱かった。
ギロチンで首を刎ねられたときと同じ感覚だった。
壁には赤い鮮血が飛び散り、床には血だまりが出来上がると、私の体はその海の中に沈んだ。
「おい!誰も殺して良いなんて言われてないぞ!」
「先に手を出してきたのはあっちの方だ!俺は悪くねぇ!」
男たちの怒号が飛び交う中、私の意識はなくなった。
◇◇◇
「おはようございます」
ぶっきらぼうな声が聞こえ、目が覚めた。
そこには不機嫌そうな顔をしたメイドの姿があった。
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