第6話 3回目の誕生日パーティ

 「何をやってるんですか。早く起きてください」

 呆然としたまま固まる私を見てメイドは舌打ちをした。


 「アリエル……なの?」

 そこにいるメイドの姿に思わず目を疑った。

 「はぁ?何ですか急に?私がアリエル以外の誰に見えるんですか?」

 呆れたようにアリエルは私を見て言った。


 「ご、ごめんなさい……」

 最初にその言葉が口をついた。

 次に目から大量の涙が零れ落ちた。


 「!?どうしたんですか?」

 さすがのアリエルもこの状況に戸惑いを隠せなかった。

 「ごめんなさい、アリエル!私、あなたのことを……ウェ~~ン」

 あふれ出した涙は止まらず私は彼女の胸の中で泣きじゃくった。



 ◇◇◇



 「誕生日おめでとう、ってどうした?目が真っ赤じゃないか!?」

 朝食の席に姿を現した父は私の赤く充血した目を見て驚きの表情をした。


 「いえ、なんでもありません。少し怖い夢を見てしまったんです」

 鼻を啜りながら答えた。


 「あぁ何ていうことだ!今日はユリアの16歳の誕生日だと言うのに……」

 父はそう言うと目元を手で覆った。

 自分でいうのもなんだが父は私に甘い。

 それは私が一番末の娘だからだろう。


 「でも大丈夫。そんな最悪な気分、すぐに忘れさせてあげるよ」

 目元から手を放すと父はパチンと指を鳴らした。

 すると大量の薔薇の花束を抱えた執事達がぞろぞろとやって来た。


 「どうだい、驚いただろう?さぁ、ささやかなプレゼントだ。これで怖い夢なんてすべて忘れてしまうよ」


 あれ?これ知っている。

 あれはすべて夢だったはずなのに……。


 どういうわけか父のする行動を私はすべて知っていた。


 ◇◇◇


 「ユリア王女。お誕生日おめでとうございます」

 「ありがとうございます」

 これまで通り、城では私の16歳の誕生日パーティが開かれていた。

 会場にはこの国のすべての貴族が勢ぞろいしていた。


 小太りで脂ぎった顔に悪趣味な服装をした中年男性と厚化粧と香水臭い中年女性が次々と祝福の声をかけに私の元にやって来る。

 私は3度目となる16歳の誕生日パーティを過ごしていた。

 


 パーティの開始からおよそ2時間が経ったころだった。

 何やら会場が急に騒がしくなった。


 「きゃあ!素敵!」

 会場から女性たちの歓声が聞こえてきた。

 しかし私はすぐにその歓声の正体を理解した。


 「ユリア王女。お誕生日おめでとうございます」

 直後、凛とした声が響いた。


 「遠いところをわざわざありがとうございます。フィードル伯爵」

 私はにっこりと笑みを浮かべて挨拶に応えた。

 そこにいたのはやはりフィードル伯爵ことガブリエル・フィードルだった。


 「王女殿下のご生誕祭となれば駆けつけるのはこの国の貴族として当然の勤め。本日はご招待いただき、まことにありがとうございます」

 フィードル伯爵は前回父に対して発したセリフを今回は私に向かって発した。

 一瞬あれっと思ったのだが別におかしなところは特に見当たらなかった。

 夢の中の出来事とはいえ、アリエル同様無実の罪で処刑させてしまったという後ろめたさから少し過剰に反応してしまっただけだろう。

 そう思うことにした。

 

 結局フィードル伯爵はそれだけ言うと会場の中へと消えていった。

 その後は私に近づくということはなく終始自らに近寄ってきた貴族令嬢の相手をしていた。

 

 こうして特に変わったことが起きることもなく、私の3回目となる誕生日パーティは終わりを迎えた。


 ◇◇◇


 「お疲れ様でした」

 パーティを終え、自室へ戻った私をメイドのアリエルはいつも通りぶっきらぼうな態度で迎えた。

 「いつもありがとう、アリエル」

 遅い時間まで待っていてくれたメイドに私は労いの言葉をかけた。


 「!?どうしたんですか?そんなこと言うなんて?」

 アリエルはまるで恐ろしいものを見たかのような目で私を見つめた。


 「もしかして何か変なものでも食べたんじゃないでしょうね?」

 心配するところが違うような気がするがまぁいい。

 私はにっこりと笑顔を浮かべたまま答えた。


 「あなたに感謝しているから、当然の言葉を送っただけのことじゃない」

 「……そうですか?でも何だか今日は朝からちょっと変じゃないですか?」

 それでもなおもアリエルは不気味なものを見るような目で私を見た。


 「そう?いつも通りだと思うけど」

 本当にいつも通りというようにして言った。

 しかし心の中は違っていた。


 前回、私はアリエルを無実の罪で殺してしまった。

 彼女は最後まで無実を訴え続けていたと言うが、私は彼女を信じなかった。

 だから今回は彼女に優しくなろうと思った。


 彼女の境遇を知るとフィードル伯爵に通じるとは考えにくいが、そもそも彼女との絆があれば王族を裏切るなんていう心配はそもそもしなくていいはずだ。


 「私はいつもあなたに感謝してるしあなたのことを信頼しているのよ」

 そう言ってアリエルに向かって笑いかけた。

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