第8話 暗黒の結界

暗闇の中、足音だけが響いている。ヴォイドの力が残響を残しながら、空気を重く沈ませていた。俺とレイナはひたすら前に進んでいたが、その先に何が待っているのかは、誰にもわからなかった。


「健吾……大丈夫か?」


レイナの声が微かに響く。彼女も疲れているはずだ。シャドウとの戦いで、俺たちはすでに限界に近づいていた。だが、この先にある真実を知るためには、立ち止まるわけにはいかなかった。


「大丈夫だ、レイナ。まだやれる。もう少し進んでみよう。」


俺は自分を奮い立たせ、歩みを再開する。ヴォイドの残響が導くこの道の先には、きっと新たな何かが待っている――それは確信めいたものだった。


道を進んでいくうちに、周囲の空気が一変した。闇がさらに濃く、まるで生き物のように俺たちを包み込む。その中心に、何かが待ち受けているのを感じた。


「ここだ……」


レイナが立ち止まり、前方を睨むように見つめた。そこには巨大な結界が広がっていた。薄く光るその結界は、ただの魔法のバリアとは異なる。まるで、異次元そのものが結界を形成しているようだった。


「これは……ヴォイドの結界か?」


俺は不安げにその場に立ち尽くす。結界の中に漂う圧倒的な力――それはシャドウが操っていたものよりも、さらに深い闇を孕んでいるように感じた。


「この結界の向こうに、ヴォイドの本質がある。」レイナは冷静に説明する。「シャドウが手に入れた力は、この結界を超えた先にある。だが、この結界は通常の手段では突破できない……」


レイナが言葉を続ける前に、突然結界が揺れた。まるで反応するかのように、周囲の闇が渦を巻き始める。


「来るぞ……!」


レイナが短剣を構えたその瞬間、結界の中から無数の影が現れた。まるで異次元から引きずり出されたような不気味な姿――それは、シャドウとは異なるが、同じヴォイドの力に支配された存在だった。


「なんだ……こいつらは……!」


俺は慌てて構えを取ったが、その数は圧倒的だった。影たちは音もなく滑るように動き、俺たちに向かってくる。


「ヴォイドに囚われた者たちだ。彼らはヴォイドの残響に取り込まれ、自我を失った……もはや生き物ではない。」


レイナは冷静に状況を説明しながら、次々と影を切り裂いていく。その動きは流れるようで、彼女の戦闘技術の高さが伺える。


俺も負けじと剣を振るい、目の前の影を斬り裂いた。しかし、倒しても倒しても次々と新たな影が湧き出てくる。


「一体どれだけ……!」


焦りが募る。影たちは止まることを知らず、俺たちを圧倒していた。レイナも息が上がり始め、疲労が見え始めていた。


「健吾、このままでは持たない……!」


レイナがそう言った瞬間、結界の中からさらに巨大な影が姿を現した。それはまるで、ヴォイドそのものが形を成したかのような存在だった。


「これは……」


俺は言葉を失った。目の前に現れたその影は、圧倒的な力を放っていた。シャドウとは異なるが、同じヴォイドの力を宿している。


「これが……ヴォイドの守護者か。」


レイナがその名を口にしたとき、巨大な影がゆっくりと動き出した。その動きは遅く見えたが、すぐに俺たちの前に迫り、強烈な一撃を繰り出してきた。


「くっ……!」


俺たちはその攻撃をなんとかかわしたが、その威力は恐ろしいほどだった。地面が裂け、空気が揺れる。


「このままでは……勝ち目がない……」


俺は無意識にそう呟いた。だが、次の瞬間、俺の中で何かが目覚めた。


「……違う。俺たちにはまだ、やるべきことがある。」


俺は自分に言い聞かせ、剣を強く握りしめた。ヴォイドの残響を見抜く力――それが俺にはある。シャドウとの戦いで得たものを、ここで活かす時が来たのだ。


「レイナ、俺があいつの動きを見極める。その隙に、結界を破る方法を見つけてくれ。」


レイナは一瞬驚いたように俺を見たが、すぐに頷いた。


「分かった、任せて。健吾、無茶はするなよ。」


俺は彼女の言葉に軽く笑みを返し、巨大な影に向き直った。俺には、これを乗り越えるしか道は残されていない。影の動きを見極めるため、俺は全身の感覚を研ぎ澄ませた。


「来い……!」


影が再び攻撃を仕掛けてくる。だが、俺はその動きがスローモーションのように見えた。次の瞬間、俺は剣を振るい、影の一撃を受け流す。


「今だ、レイナ!」


俺が影を引きつけている間に、レイナは素早く結界に向かって駆け出した。彼女の短剣が結界に触れた瞬間、結界全体が光り始めた。


「これで……!」


だが、その時――


「アルベルト様の計画は、ここで終わらない。」


不意に聞こえた声に、俺たちは驚愕した。振り返ると、そこにはヴォイドリーパーズの一員が立っていた。その手には、異様な力が集まっていた。


「結界が破られるわけにはいかない。お前たちはここで終わるのだ。」


男は冷酷な笑みを浮かべ、手に集まったヴォイドの力を解放しようとした。その瞬間、結界が激しく揺れた。


「まずい……!」


俺たちは必死に抵抗しようとするが、ヴォイドの力は圧倒的だった。結界の中に巻き込まれ、俺たちは意識を失いそうになった。


だが――


「健吾、今だ!お前の力を使え!」


レイナの声が微かに聞こえた。俺は最後の力を振り絞り、ヴォイドの力を見抜く感覚に身を任せた。


「これで終わりにしてやる……!」


俺は剣を掲げ、全力で結界に向かって突き進んだ。その瞬間、結界が砕け散り、ヴォイドの力が消滅した。


---


暗闇が消え去り、静寂が戻ってきた。俺たちは倒れ込みながらも、勝利を確信した。


「終わったのか……?」


レイナは疲れ切った声でそう呟いた。俺も同じ気持ちだった。だが、これが本当に終わりなのか、まだわからない。


「アルベルトが……次に何を企んでいるか……」


俺は空を見上げ、微かな光を感じながら、次の戦いへの覚悟を新たにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る