第7話 終わりなき影
光が差し込む天井を見上げ、俺は全身に走る痛みに耐えながら、ゆっくりと体を起こした。ヴォイドコアの封印が無事に完了し、戦いは終わったはずだった。だが、心の中にはまだ安堵というよりも不安が渦巻いていた。
「健吾、大丈夫か?」
レイナが心配そうに駆け寄ってくる。彼女もまた疲労の色が濃い。戦いの痕跡は二人の体にも残り、地面にはシャドウの倒れた姿が静かに横たわっていた。あの絶望的な戦いを乗り越え、俺たちは生き残った――それは事実だ。
だが、俺の胸には不穏な感覚がまだくすぶっていた。
「シャドウは……完全に倒したのか?」
俺は痛む体を抱えながら、恐る恐る口を開いた。シャドウがただの敵とは思えなかった。あの最後の瞬間――彼の眼差しにはまだ何かが潜んでいるように感じたのだ。
レイナはシャドウの体に目を向け、冷静に頷く。
「彼はもう二度と立ち上がることはない……少なくとも、今の肉体ではな。」
「少なくとも?」俺は疑問を口にした。「それって……まだ何かがあるってことか?」
「ヴォイドリーパーズはただの組織じゃない。彼らの存在自体が、ヴォイドという異次元の力と強く結びついている。シャドウもその力に依存していた。そして、ヴォイド自体が滅びない限り……シャドウの意思も、どこかに残っている可能性がある。」
レイナの言葉は、ただの推測ではない。その冷静な目は、確かな根拠に基づいていた。ヴォイドという異次元の力……それは目に見えない存在でありながら、確かにこの世界に影響を与え続けている。
「なら、俺たちは……何をすればいい?」
シャドウを倒して終わりじゃないのか?という思いが頭をよぎる。だが、レイナの表情は変わらない。
「この戦いは、ただの序章に過ぎない。ヴォイドの力を完全に封じ込める方法を見つけるためには、まだ探すべき場所がある。そして……シャドウが今の肉体を失ったとしても、その残滓は、いずれまた何かの形で現れるかもしれない。」
その瞬間、シャドウの倒れていた場所から、黒い霧のようなものが立ち上り、ゆっくりと形を変え始めた。
「これは……」
俺は後退りし、驚愕の表情でそれを見つめた。シャドウの体が消滅する代わりに、空間に不気味な紋様が浮かび上がる。それは、見ただけで心が寒くなるような異次元の印だった。
「ヴォイドの残響だ……」
レイナは短く呟き、俺に向き直った。
「この印は、シャドウが最後に残したものだ。ヴォイドの力は決して簡単に消えるものではない。彼の意志はまだこの空間に囚われている。」
「どうすれば……?」
俺の言葉に、レイナは少しの間黙り込んだ。そして、決意を秘めたような鋭い目で答えた。
「この印を辿ることだ。この先には、ヴォイドの本質に関するさらなる謎が眠っている。そして、それが私たちがこの世界を守るための唯一の手がかりになる。」
俺は深呼吸をし、心の中で決意を固めた。ヴォイドという存在がどれほど強大で、どれほど不可解であっても、俺たちはそれに立ち向かわなければならない。シャドウとの戦いは終わったが、真の戦いはこれから始まるのだ。
「行こう、レイナ。この戦いを終わらせるために。」
俺たちは再び歩みを進めた。ヴォイドの残響が導く道を辿りながら――
---
――その頃、別の場所――
「アルベルト様……すべてが計画通りです。」
暗い部屋の中、ヴォイドリーパーズの一員である部下が跪き、報告を行っていた。目の前には、王国の宰相として知られるアルベルトが、不敵な笑みを浮かべている。
「シャドウが倒されたことは、予想の範囲内だ。羽瀬川健吾……なかなか興味深い人物だが、所詮は小さな駒に過ぎん。」
アルベルトは静かに立ち上がり、部屋の窓から外を見下ろした。その視線は、この世界のすべてを掌握するかのように、冷酷でありながらも冷静だった。
「シャドウが消えた今、次に動くのは私の番だ。ヴォイドの力はまだ完全に解き放たれてはいない……だが、その時は近い。」
「アルベルト様、それでは……」
「すべては計画通りだ。彼らがヴォイドの本質に辿り着く頃には、すでに私の手の中だろう。」
アルベルトの言葉に、部下は無言で頷き、その場を立ち去った。部屋にはただ、アルベルトの冷たい笑みだけが残っていた。
「さあ、羽瀬川健吾……私の駒として、その役目を果たしてもらおうか。」
---
――再び、ヴォイドの道――
俺たちは暗い道を歩み続けていた。目の前には、ただ続く暗闇が広がっている。だが、その先には必ず何かが待っているはずだ。
「健吾……」
レイナがふと口を開いた。その声には、不安と決意が入り混じっている。
「もし、この先に何があっても、私たちは共に戦う。それを忘れないで。」
「もちろんだ。俺たちはもう、ここまで来たんだ。何があっても、一緒に戦う。」
俺の言葉に、レイナは微かに微笑んだ。そして、俺たちは再び歩き出した。暗闇の中で、微かな光を求めて――
だが、その先に待つのはさらなる試練だった。
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