第10話 情報過多

「あなた様があの、守護者様なのですね」


マリアさんが驚いた声を上げ、あきらはアルマと隣に並んだ。


「気になることは山ほどあるだろうけど、とりあえず座りなよ」


 椅子に腰掛け、アルマさんに尋ねる。


「どうして守護者であることを隠していたんですか」


「直球だね。その理由は後でちゃんと話すよ。まずは君が今まで集めた情報を教えてくれないか」


 有無を言わさない謎の圧を感じ、ひとまず彼に集めた情報を話す。その間、彼は真剣な眼差しでこちらを見つめていた。


「……ここまでが私の集めた情報です。まだ不作の謎は解けていないんですけど」


「いや、もう大丈夫だ。こんなに沢山調べあげるのは大変だっただろう、ありがとう」


彼は少しの間目を伏せ、息を軽く吸い込み吐き出すと再びこちらを見つめ返した。


「実はこの不作の原因はもう分かっている。君に頼む前にね」


「どうして私にあのように話したんですか」


「それは君にこの不作の原因を調べさせたい理由があったからだ」


 彼は堪えるように言った。


「この世界は危機に直面している。この不作はまさにその予兆だ」


「予兆、ですか」


「そう。とその前に、イプシロンという組織について話しておこう」


 イプシロン……?


「それは正体や目的が不明の組織だ。ただ、彼らはそれぞれの国が持つ不思議な力、通称ロードを吸収して集めている。新緑の国だと、あのどんな食物でも育てられる力のことだね」


「今回の不作の原因もロードが吸収され始めているということですか」


「その通り。だが、吸収されたことがあるのは今回がニ度目だ。一度目は400年前。君たちがあの洞窟で見つけたノートに、色々書いてあっただろう。あの時だ」


 頭の中で整理する。

 イプシロンは各国が持つ不思議な力、ロードを吸収してまわっている。一度目は400年前に、二度目は今回。


「あのノートには裏切った、もうおしまい、という言葉が書かれていました。一体何があったのですか」


「少し長くなるが、できるだけわかりやすく説明するよ」


 アルマさんは昔話を語るように話し始めた。




 その昔、地中で作物を育てたほうが良く育つと信じられていた。

そのため、人々は地中で生活していた。しかし、徐々に成長しなくなって、人々は食料不足の不安に駆られた。

 そんな彼らを助けるのが、私たち守護者の役目だ。私たちは代々守護者になる家系だから、当時は私の先祖が守護者だった。

 人々はもちろん守護者に助けてもらえることを願う。しかし、結局助けは来ず飢え死にしてしまった。

 一方、守護者は何をしていたかというと、人々を助けようと奮闘していた。

でも、中々イプシロンを退けることは難しく、困難を強いられていた。なんとかイプシロンを倒した頃には皆飢え死にしていて、残されていたのはノートだけだった。




 彼の説明に言葉が出なかった。助けに行った時には、既に遅かったなんて。どんなに悲しかったことだろう。


「その守護者様はどうなったのですか」


 マリアさんが、絞り出したような声で尋ねる。


「その守護者は、森に引き篭もるようになったそうだよ。今は本屋になったけどね」


「そして代々受けがれて今はアルマさんの代、ということですね」


「そう。この家に生まれたからには逃れられない運命だね」


アルマさんは仕方がないという風におどけて見せた。その声色は無理矢理明るくしているようにも聞こえる。


「話を戻そうか。君に原因を調べさせようとした理由。それは君に協力してほしいからだ。

この世界はイプシロンに犯され始めている。そしてそれは私一人の力ではどうにもできない」


 アルマさんは再び真剣な表情で言う。


「……具体的にはどうしろと?」


「君には各国の守護者に会って、この危機に立ち向かうよう招集をかけてもらいたい」


「ちょっと待ってください。アルマさんにはそれができないんですか」

 

 急な展開に、頭がついていかない。簡単そうに言っているが、ただの一般人である私には荷が重すぎる話だ。彼が言っているのは、即ち、世界をイプシロンから救えということだ。


「すまないが、今の私には力が残っていない。先祖がイプシロンとの戦いで、守護者の力を大幅に失ってしまったからね」


 申し訳なさそうにいうが、驚きと困惑で返答できない。軽々しく引き受けられる問題ではない。


「……」


「お願いだ。君にしかできないんだ。あきらも着いて行く。守ることはできるだろう」


 あきらは目を合わせず、黙っている。


「……少し考えさせてください」


「ああ、分かった」





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