第8話 怨念ノート

 洞窟内の手がかりを探し始めてから数十分。交代で場所を入れ替えながら手がかりを探すが、中々見つからないでいた。


 あきらの集中力も途切れ始めており、自分で作ったのか草の塊を蹴鞠の様にして暇を持て余している。荒れているので、早めに終わらせたいんじゃなかったのか。


 マリアさんはというと疲れを見せることなく散乱した床をクロールの手で掻き分けている。あれでは、手がかりは見つからないのでは。


 ここまで来たのだから何か見つけなければと気を引き締め直す。ふと視線を左下に向けると、ノートの様なものが落ちていた。表紙と裏表紙はなく、中身の書ける部分だけ剥き出しになっている。

 ページを開いてみると、田畑の収穫記録や食べ物の状態が事細かに記されていた。床を見ると他にも数冊ノートが残されている。一冊ずつ手がかりがないか注意しながら読んでいくと、何冊目かの後半のページに差し掛かったとこで、内容が変わった。


 ——忌まわしき……。


 所々塗り潰されているところもあるため、全てを読むことはできない。しかし、荒々しい筆跡で書かれたその文字からは、何者かへの恨みの念を感じた。


「ねえ二人とも、これを見つけたんだけど」


 少しの不気味さを感じながら二人を呼び、続きを読んでいく。




 ——この時が来てしまった。もう助からないのではないか。

 —まだできることはある。対策を練ろう。


 でももう子供達は——。


 あの人は何もしてくれないの。私たちを助けてくれるんじゃないの——。

 —やっぱりそうだ。俺たちを裏切りやがって。


 ——でも、何かあったのかもしれないよ。


 だってもう何も育たないし、影響は止められないのよ——。


 やっぱり他の場所に——。

 ——いまさら足掻こうとしても遅いのよ。


 まさか私たちを諦めたっていうの——。




 ———信じたのが、間違いだった。




 異なる種類の筆跡と多くの疑念が書かれている内容は、読んでいるだけで不安にさせられた。


 思わず言葉を失う。


「……これは交換日記のようになっていたのでしょうか。会話している所もありますし」


 マリアさんは言葉を選んだ挙句、確認するように話し出した。


「それにしても酷い内容だな。裏切るだとか、もう終わりだとか、悲観的なことばかり書かれてる」


 あきらは少しあっけらかんとしつつ、神妙な顔つきで答える。


「……ここで何があったんだろう」


 恐怖を感じつつも、怖いもの見たさからかページをめくる手は止まらない。綴られた言葉の羅列を読んでいると、ある一文に目が留まった。


——もうあの力はおしまいなのよ。


 ……。


「あの力ってなんだよ。超能力みたいなものを持ってたとかじゃあるまいし」


「その可能性は捨てきれません。世界は私たちが思っているよりも広いですから」


 確かに超能力の線もあるだろう。しかし、この国での力といえば。


「この国が持つ、あの不思議な力のことじゃないかな。あきらが言ってた、あらゆる食材、作物を育てられるっていう話の」


 聞いたことがない、というマリアさんにあきらが説明をしている間、再び考え始める。


 大昔、この新緑の国で何があったのか。ここにいる人たちは何に対して絶望しているのか不思議な力は一体何なのか。

 そしてこの国の現状にどう繋がっているのか。まだまだ分からないことは沢山ある。でも、もうこれ以上の調査は続けられそうにない。手がかりも思いの外出てこなかった。


 残念だが、ここまでか。


「なあ、ここからはさ守護者にも話を聞いてみたらどうだ?」


 あきらの一言に、疑問を投げかける。


「守護者って何?聞いたことない」


「守護者というのはそれぞれの国に存在する、守り神のようなものです。彼らは人間であったり動物であったりと様々な姿をしています。遥か昔から今にかけてずっと私たちの国を守り続けているのですよ」


 あきらもマリアさん知っているということは、それほど有名な人物なのだろうか。


「私、本屋で色々本を読んだりしてたけど、どの本にも守護者のことは載ってなかったよ」


「守護者は基本的に表に出ることはない。よほど大きな事件や出来事がない限り、他国にまで守護者の情報が伝わることはないから、その存在を知らないまま一生を終える者もいる」


「それに、新緑の国の守護者様は生死、行方が共に不明で、既に亡くなっているのではという説もありますから」


「でもさっきあきらは守護者にも話を聞いてみたらって言ったよね。あれはどういうこと?」


 あきらは少し何かを決めかねているように一点を見つめたあと、真っ直ぐに私の方を見た。


「俺は守護者がどこにいるのかを知ってる」





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