第7話 〇〇メイド
例の洞窟に向かうことになり、ついに当日となった。あきらと共に待ち合わせの大木へと向かう。森林の中に一際大きく聳え立つ大木は昔から、この迷いやすい山中のある種のシンボルとなっている。
あきらと待ち合わせ場所で待機していると、マリアさんが大荷物を片腕に抱えてやってきた。文字通り、片腕で。
「お二人とも、お待たせしました。この荷物を運ぶのに少々手間取ってしまいまして」
メイド服をはたきながら、笑顔で話す彼女は全く疲れているようには見えない。
あきらが得体の知れない生き物を見るような目でマリアさんを見ている。
「いえ、こちらこそ準備をお任せしてしまってすみません」
「構いません。これもメイドの役目ですから」
彼女が運んできた荷物の中身を見てみると、三人分の防寒着、安全靴、手袋、ヘルメット、その他諸々と、替えの物品も用意されていた。これらを一人で運んでくるのは大変だっただろう。心の中で敬意を表する。
「普段はこれと同じくらいの重さをつけて修行していたので、ようやく修行の成果を出せました。荷物を抱えながら山道を歩くのも、とても良い負荷です。このような機会を頂けたこと、誠にありがとうございます」
日常茶飯事だったらしい。
「さて、お二人にはこれらの防具を着用して頂き、私と共に洞窟に入って頂きます。まずは、目的地の洞窟までご案内します」
そう言いながら、再び彼女は荷物を持ち上げた。あきらが未確認生物を見たかのような目をした。
—————
マリアさんの後ろを着いて行くことおよそ一時間。例の洞窟は、超巨大な魚が口を開いたような入り口をしていた。これくらいの大きさなら少ししゃがめば、入ることは可能だろう。
防具をしっかりと装着して、互いに安全確認する。
マリアさんを先頭に、私、あきらの順に内部に入った。ライトを片手に少しずつ奥へと進んでいく。
「何かにつまづいたり、異変が起きたらすぐに仰ってください」
洞窟内は目を凝らしても奥が見えないほど暗く、壁を伝いながら進む。
頭上や足元から飛び出してくる突起は時々刺々しいものも混じってたが、マリアさんがその都度教えてくれた。
「ここからは腹這いになって進むしかないね」
奥に進んでいくごとに歩いて進めないほど穴が小さくなってしまったため、腹這いになる。
装備をつけての、この体制はなかなか体に負担がかかるが、懸命に体を動かす。
「なあ、そろそろ疲れたんだけど。休憩したい」
後ろからあきらが息を切らしかけながら話しかけてきた。
「あともう少しだから諦めないで。マリアさん、そうですよね」
「はい、もうすぐ開けた場所に出るはずです」
マリアさんを信じ、疲労を抱えた足を必死に動かして進んでいくと、急に前方から空気が涼しくなった。
「お二人とも着きました。もう立ち上がっても大丈夫です」
体を起こして背伸びをすると、全身の筋肉が悲鳴を上げているのが分かった。しかし同時にスッキリとした高揚感も感じる。
目的の洞窟は予想以上に広かった。テニスコートの半面といったほどだろうか。腐敗した毛布や、肉片のようなものも見受けられる。そうだ、ここにいた人たちは皆……。
「ねえ、匂いがすごいきついんだけど。なんか肉片みたいなものも沢山あるし、結構不気味じゃない」
既に息を整えたのか、あきらが眉を顰めながら言う。しかし、すぐに表情を切り替えた。
「早く色々調べて、さっさとここから出よう。絶対長くいたら変なものが出る気がする」
「そうね。それじゃあそれぞれ分かれて、何か手掛かりになりそうなものを探しましょう。一応、見つけたものはこの袋に入れておいて」
手袋をつけて、床に散らばった衣服や腐骨を丁寧に取り除いていく。人が生活していた痕跡も多く残されていて、生々しい匂いを漂わせている。手前の方から少しずつの奥の方も見て行くと、雑草が茂っている場所があった。
ここで田畑を育てていたのだろう。何かを育てていた痕跡はあるが、食べ物の形跡はない。荒廃した草原が広範囲に広がっており、手入れがされていないのも過ぎた年月の長さを物語っていた。
「これはひどく荒れていますね。お二人とも、変なものは口に入れないようにしてしましょう」
「言われなくても入れないよ。それにしても誰もここにきてないの?荒れすぎにも程があると思うけど」
「まあまあ、口じゃなくて手を動かして」
はーい、という伸びた返事を聞きながら、私も手と足を動かし始めた。
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