第6話 新たな情報
てるこさん特製のハート型クッキーは絶妙なパサパサ感としっとりとした食感を持ち合わせていて、少しずつ口の中の水分を奪った。舌触りが良かったので、どんどん食べてしまった私のせいだが。
「意外と大食いなんだな」
あきらが若干引いたような表情で言う。
「このクッキーが美味しすぎるからね」
その後はてるこさんと軽い談笑を交わし、そろそろ家の方に戻ろうかと考えていた時。
「失礼します。メイドのマリアでございます。あなた様がりさ様で間違いないでしょうか」
丁寧なお辞儀と共に一人のメイドが入室してきた。緩く巻かれた髪を持つ彼女はドレスを来ていればどこかの令嬢のように見えるだろう。
「私がそうですが、何かありましたか」
「この不作の原因を突き止めようとしているとお聞きしました。もしかしたら私の話がお役に立つかと思い、お声がけさせていただきました」
背筋をピンと伸ばし、凛々しい表情で真っ直ぐに私を見つめる。
「マリア、あなたも何か知ってるの?」
てるこさんの問いかけに相槌を返しながら、彼女は話し始めた。
「私は各国の文献を読むことを趣味としています。このあまみや家に文献から得た知識でも、貢献できるようにするためです。実はある文献を読んだ際に、この不作に関わるかもしれない話を見つけました」
「文献ですか?」
本屋には、文献や論書などは輸入していなかったため、まだ読んだことがない。
「はい。その文献によると、この国と隣国を繋ぐ橋の近くに洞窟があるそうです。その洞窟でははるか昔に田畑が広がっており、住民も存在し、小規模な村を形成していたと」
「はるか昔ということは今はもう……」
「その通りです。田畑の食料が徐々に育たなくなり、外部との交流がほとんどなかったその村の人々はやがて飢え死にしてしまったとのことです」
はるか昔にもこの新緑の国で田畑が育たなくなる出来事があった。今の状況は不作だけど、どこか似ている気がする。
「つまり、この不作もその時と同じような状況だって言いたいの」
あきらが問いかける。
「確証はありませんが、その通りです。情報は多いほうが良いと思いお伝えしました」
「ありがとうございます、マリアさん。確かに今のお話も関係ないとは言い切れない」
これ以上聞き込みをしても、他に有力な情報は出てこないだろう。一度、店主に話を持ち帰ってみるべきか。
考えているとねえ、とあきらが話し出した。
「その洞窟は何処のあるの。どうせだから実際に行ってみる。この人と」
「でしたら私も同行させて頂きます。文献におおよその場所も載っていたので、案内できると思われます。てるこ様、外出の許可をお願いします」
なぜ私も同行しなければならない。君一人で行けばいい。と言いたいところだが、事はとんとん拍子で進んでしまった。乗り込んだ船ということか、ここまで来たら流れに身を任せよう。
てるこさんはマリアさんの外出許可を出し、また別日に洞窟は案内してもらうことになった。当日、必要な防寒具などを用意してくれるとのことで、話は終わった。
二人に見送られ、階段を下る。商業エリアに向かうまでの道中、頭の中で現在判明していることを整理した。
一つ目、新種の品種はどの家庭も順調に成長しており、特に変化はない。
二つ目、生物の介入、異常気象は関係していない。
三つ目、あまみや家で最も大きい井戸はなぜか水温が下がり続けている。
四つ目、国同士を繋ぐ橋の近くに洞窟がある。
情報は少しずつ揃い始めている。ここからは実際に洞窟へ赴いて、他に手がかりがないか探し出そう。
「あきら、さっきはなんでああ言ったの。私は行くだなんて言ってないのに」
「俺も全てを見届ける必要があるから。そのためにはあんたが必要だ」
先ほどは冷静な指摘をしていると思ったが、まだ逆戻りしてしまった。仕方がない、彼が怪我をしないように見守りながら探索するとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます