第2話 本屋にて
悠々自適に暮らすための第一歩は、知識を集めることからだろう。日本でもライフハックといった生活に役立つテクニックを多く利用してきた。まずはこの世界のライフハックを調べなければ。
そう思い、最近の習慣と化してきた本屋に今日も出かける。昔ながらの古本屋といった雰囲気で、心が落ち着く。
今までの私は両親の手伝いや一人遊びを模索するのに時間を費やしていて、碌な知識を蓄えていなかった。
大学を卒業してから図書館に行く機会は激減していたが、やはり本で彩られた壁は眺めるだけでも満足感がある。
急な娘の行動の変化に両親は大変驚いていたが、学びを深めるのは良いことだと、笑顔で見守ってくれた。
午前中の作業を終え、家を出る。円を縁取るように位置する森の灯台の近くに向かう。鬱蒼と生い茂る木々の、かろうじて整備されている道を少しずつ進んでいく。荒くれた山道を一歩ずつ登っていくと、ようやく開けた場所に出た。
額の汗をかき、ひとまず手荷物に入れていた水を一杯飲み、体を潤しながら呼吸を整えた。
経年劣化してるであろう木造建てのこの建物はこの国で一番大きい本屋らしい。
昔は新緑の国でも出版技術が存在していたが、出版するには自然が多すぎて紙の状態に悪影響という理由で、徐々に新緑の国出版の本は消えていった。
最新の書籍はほとんどが輸入品のため、店に並ぶまで時間がかかり、店主曰く時代についていくのが大変らしい。
「こんにちは。今日もゆっくり見て行ってよ」
カウンター席でお行儀よく寛ぎながら、小さな文庫本を手に座っている店主は、大柄ながらも本との比率から、優しい森のくまさんのように思える。
「今日もお邪魔します」
入った瞬間、古本特有の匂いが鼻腔をくすぐる。少し埃っぽい匂いと、木材の匂いは訪れる人を選びそうだ。
店の奥の方に向かい、読みかけていた本を手に取る。
ここでは本の貸し出しはしていない。ずっと前に、貸し出した本をよそに売られたことがあるらしい。この国だと本は少しばかり貴重品だ。
一人もいない大きな読書テーブルの端で、本の続きを読み始めた。
—————
「おーい、起きてるかい」
店主の声に、本から顔をあげる。
どれくらい時間が経ったのだろうか。もう夕日が沈みかけている。
しまった、集中しすぎて帰る時間を考えていなかった。店主に時間を聞き、すぐさま帰る支度をする。
「こんな時間まですみません、すぐ出ます!」
「それだけ集中してたってことだろう。本も喜んでるだろうし、気にしないよ」
ほっとしながら感謝の返事をする。
と、店主がいつもと違う様子に気づく。手をしきりに握っている。口も開いては閉じてを繰り返して、何かを悩んでいるようなそぶりだ。少し訝しみながら聞いてみる。
「何かあったんですか。悩んでるように見えますけど」
店主は驚いた表情をしたあと、眉を八の字にさせた。
「そんなに態度に出てたかな。ああいや、大したことじゃないんだ。ただ雑談程度に聞きたいことがあって」
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