第3話 通報先の思案
ドシン、擬音で表するならば、そんな音がした直後、地響きがした。しゃがんでいた足長が、ゆっくりと立ち上がってから屈み、足踏みをした結果だ。地震のように大地が揺れた。そして足長はぐるりと逆方向を向く。するとまた、地面が揺れ、鈍く重い音が響いた。
足長が肩車している手長は、伸ばしていた右腕を一度収縮させ、それから再び伸ばすと、神明通りの方へと向けた。
「あ」
思わず美緒は声を出した。
目の前で、紺色の看板が出ているビル、神明通りでも一際高い建物が、破壊されたからだ。まるでスローモーションのように、紺色の看板が落下していくのを、美緒は見た。露出した鉄骨と、瓦礫となった壁が、ボロボロと落下していく。遠い位置での出来事だというのに、破壊音はしっかりと耳に響いてきた。
それから一歩、前へと足長が進む。すると遠目に見えた民家が踏み潰された。二歩、三歩と進む度に、民家が潰れていく。西栄町の方に立っている足長は、その後、さらにとどめをさすかのように、何度もその場で足踏みをした。手長は残っている背の高い建物の側部を握り、バキバキと折っている。折れた建物の一部を手にすると、ぶんぶんと手を振ってから、それを放り投げた。それは近くにあったコンビニの方へと飛び、美緒のいる位置から見えるコンビニの看板のすぐそばに落ちていった。その時も、轟音が響き渡った。
「待って……こんな……」
どんどん、会津若松市内が破壊されていく。
呆然と立ち尽くしていた美緒は、我に返って呟いた。早く、誰かに知らせなければ。いいや、もう誰かが通報しているだろうか。ぐるぐると考えるのだが、答えは出ない。だから取り急ぎスマートフォンを取り出して、そして画面を見て硬直した。
「どこに電話をしたらいいの……?」
警察、だろうか? だが果たして警察が、あの巨大怪獣のような何物かに立ち向かえるのだろうか? 消防車のほうがいいのか? 戸惑った美緒は、結局110番にかける事にした。しかし何度コールしても繋がらない。確かこういう場合は切らずに待つのではなかったかと思い出しながら反応を待ったが、暫くの間、変化がなかった。皆が通報しているのかもしれない。
耳にスマホを当てたまま、手長足長の背中を見ていた美緒は、その時再び怪物がこちらを見たものだから、通話を切って、慌ててポケットにスマホをしまった。どちらも肉の塊のようにふくよかだ。美緒の歩いていた道のそばにあった鶴ヶ城と、二人あわせて同じくらいの背丈になっている。横幅は、鶴ヶ城の天守閣よりもずっと太い。
手長足長が、美緒のいる方へと歩きはじめた。
当初はまだ現実認識が上手く出来なかった。美緒は、足の裏が地面に縫い付けられたかのようになっていた。だが、その靴底が、地が震えるのを感知した瞬間、慌てて鞄を抱きしめた。
「逃げなきゃ」
そう呟いた時には、遠くから見ている分には速度が遅く思えた手長足長の足が、既に眼前に迫っていた。一歩、二歩と、美緒は後退る。そしてちらりと後方を見てから、全力疾走しようとした。その瞬間、真横にあった理髪店の建物が踏み潰された。砂埃が舞い上がり、音を立てて倒壊していく。思わず美緒は、右腕で目を庇う。ギュッと瞼を閉じる。すると頭上が暗くなった。
――ああ、自分も踏み潰されてしまうのだろうか。
そう恐怖した。
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