第4話 命名・テナガアシナガ災害
四月二十五日、
その時刻、陸上自衛隊南会津駐屯地に第一報が入った。丁度朝礼中だった佐久間悠迅二等陸士は、当初状況を把握できなかった。
「会津若松市・市内に、未確認生物が襲来。市内を破壊している模様。繰り返す、会津若松市・市内に――」
知らせを受けた
「現在、政府官邸が、官邸対策室を設置」
四十代半ばの神保の声に、悠迅の隣にいた
「未確認生物ってどんな生物なんですか?」
「……生きているとは思うが、生物なのかは分からない。見た方が早いだろう」
いつもならば和を乱すような急な質問には苦言を呈する神保だが、今回は違うようだ。
先程知らせに来た者から受け取った大型のタブレット端末を、皆に見えるように持ち上げて、動画を再生する。
「!?」
悠迅は目を見開いた。そこには、民話で聞く、手長足長としか思えない存在が映っていた。長い手で家々や建物を破壊し、長い脚を動かしては様々な物を踏み潰している。こうしてタブレット端末で見ると、下手な特撮映画にしか見えなかった。
「冗談でしょう?」
度会が言う。周囲も頷いている。これはバラエティ番組の仕込みかなにかに違いないと、現実を受け入れるのを皆が拒否している。
「事実だ」
神保はそう答えたが、彼自身も非常に困惑した面持ちだ。
「じ、事態は特に緊急を要するものであり、要請はまだだが……災害? 救助に向かう。とにかく、市民が犠牲になっていることは明らかだ。皆、心して救助に当たるように」
確かにこれを、災害と呼んでいいのかは疑問だ。
だがタブレット端末を見るかぎり、地震と台風が一緒に訪れた以上の被害が出ているのは間違いない。悠迅は気を引き締めた。
なにより会津若松市は、彼の実家がある。友人も多く暮らしている。次のゴールデンウィークにも帰宅する予定だった。
――美緒は無事なのか?
ふと、幼馴染みの顔が脳裏を過る。丁度、タブレット端末が破壊したあたりは、自分の母校でもあり彼女も通う会津栄高校への通学路だ。どうしても、無事でいてほしいと願ってしまう。
その後、南会津駐屯地の普通科連隊は、会津若松市へと向け出発した。
仮称だが、テナガアシナガ災害と命名されたのもその頃だ。
事件に反して、清々しい青空は、平和すぎるほど平和に見えて、本当にテナガアシナガ災害が発生しているようには、悠迅にはとても思えなかった。
これが、会津若松市をった、後に激甚災害に指定されるテナガアシナガ騒動の幕開けとなった。
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