第5話 名門騎士の誇り
広がる景色は、どの方向をみてもまるで日本の都市部のようにもみえ、リオは目をぱちぱちさせながら街を歩く。
道路沿いの歩道は広く、大衆向けの飲食店が並んだりデパートやブランドブティックやオフィスの入り口のある道は、正に日本国、大阪府の御堂筋のような空気だった。しかし、自動車用の案内看板は、矢印の先にツツジ町やレンゲ町など、草木を模した地名が表記され風景が同じ別の場所だとも認識できる。
「御堂筋はわからないな、ここはオウカ町だが……」
「それは分かるんですけど、あまりにもそっくりで……」
「興味深いが、もしそうなら『違う発展を
した同じ場所』なのかもしれないな」
「同じ場所……」
「この国で読んだ本の話だが、宇宙そのものが複数存在し、その数だけ世界が存在しているという説だ。また同じ宇宙でも数多の次元があり、あらゆる世界へと分岐しながら、異なった運命を描いていると言う理論だな」
「えーっと??」
「例えば、私がリオに質問をしたとする。その質問の答えに、リオが『はい』と答えるルートと『いいえ』を答えるルートの2通りが存在し、我々はそのルートを的確に選んで進んでいると言う理論だ」
リオの頭の中に日本で遊んでいたシミュレーションゲームが頭へと浮かぶ。提示された複数の質問をに答えながら、気に入ったキャラクターの好感度をあげてゆくシステムで一定数まで上がると恋人になり、トゥルーエンドを迎えることができる。
もしこの世界がゲームだったら、と考えるとリオは無意識にカナトをじっと見てしまっていた。
「どうした? リオ」
「え、すいません。なんでもないです!!」
これは現実だと言い聞かせ、不純な自分を戒める。年下なのだからそもそもあってはならないと言い聞かせていた。
地名や並ぶ店に相違はあれど、この街の風景には馴染みがある。どこに何があるかまではわからないが、まるで大阪にいるようにも感じ、不安だった気持ちが和らぐ。他にも見覚えのある単語がないかリオが周辺を見回していると、道路の奥に白亜の建物とロータリーのような道路が見えてきた。
建物の周辺はタイルで敷き詰められ、桜紋のタペストリーが等間隔に下されているそこは、都市部の中への聳える巨大な城壁を前にした玄関のようだった。
「ここが国の中心、このオウカ国のありとあらゆる政治的な業務が行われている『桜花宮殿』。この国、最大の建造物とも言えるだろう」
見えているのは宮殿の正面玄関だ。入り口は開放されていて、中には庭を整える作業員の姿が見える。また敷地内の脇には、オフィスのような高階層の建物もあり、その広さと巨大さにしばらく言葉も出なかった。
「これも『おおさか』にあるか?」
「ないでーー……」
即答しようとしたリオの脳裏に「大阪城」が過ぎって言葉が詰まる。大阪の中央に建てられた過去の城は日本では建て直され観光地になっている。
「お城はありますけど、こんなに大きくないですね……」
「日本にも城があるのか、さぞかし立派なのだろう……」
「今は、観光地ですけど……」
「この『オウカ宮殿』は、首都の役所も兼ねているので、あのように開放されている。せっかくなので中まで見にゆくか?」
「はい!」
カナトに言われるがまま、リオは宮殿へと足を運び、広大な庭と離れの建物を見回していた。入り口の噴水だけでなく整えられた木々。フラワーアートまであり思わず丁寧に見てしまう。
「カナトさんは、王子様に会われたことあるんですか?」
「あぁ、友人なのでそれなりに会う」
「どんな方です?」
「正義を絵に描いたような性格、と言えばいいだろうか……」
「少し大雑把では……」
「ならサクラもいい表現を考えてくれ」
聞いたリオも返答に困ってしまった。日本のアニメのヒーローなどを連想しながらもう一度敷地内をみると、色とりどりの花々が風に揺れ、巡回する騎士達も会釈をしてくれる。
「いい場所ですね」
「あぁ、中も見ても構わないが、私としては外の公園も案内したい。あそこはこの時期に桜が咲き誇る名所だ」
「行きます……!」
意気揚々としたリオの返答に、カナトは微笑みながら手を引いてくれた。
宮殿を後にして高い建物が立ち並ぶ都市部を歩く最中、少しずつ視界へと入ってくる淡い桃色がある。未だ咲いたばかりで蕾が見える桜は、ゆらゆらと3人を出迎え、公園の広場を囲うように植えられていた。その光景はやはり日本にも近くリオは何故か心が落ち着くのを感じる。
「桜は好きか?」
「好きです。私の出身地の奈良県には、桜の名所が沢山あって家族でも見に行ってて……」
「そうか。ならよかった」
社会人になってから忙しくなり、もう何年も見に行っていなかった。
子供の頃、父が自動車を走らせ地元で有名なお花見スポットへ連れて行ってくれたのを今でも鮮明に覚えている。母はその日に絶品のお弁当を、兄はかけっこに誘ってくれてとても楽しかった。
しかし、今はもう兄もリオも大人になり、共に見にゆくことも無くなった。大阪で仕事をしていだ時は意識もしていなかったが、見える景色は似ていても違う場所である事を思うと、何故か涙が込み上げてくる。
「リオ様?」
ハッとしてリオは歯を噛み締めて涙を堪えた。呼びかけてくれるサクラ・モルガナイトへ笑みで返す。
「とても、綺麗です」
「私もここはとても好きです」
「サクラには、やはり桜の花が似合うな」
「カナト様。揶揄われないでください」
「本心だぞ?」
サクラが不満そうにしていて、リオは苦笑する。
公園の桜並木は広場を一周するように続き、3人が歩いて鑑賞していると、中央の広い芝生にてサッカーをする二人の少年が鮮明に見えてきていた。
脇のベンチには、昨日のセドリックと同じ服装の男性が座っていて、ボールを蹴って遊ぶ二人を遠目で眺めている。
「クライヴ殿か……?」
カナトが声を上げると、男性はこちらに気づいた。立ち上がって会釈する彼に、サクラも合わせるように深く頭を下げる。
「これはこれは、アークヴィーチェ卿。ご機嫌よう」
クライヴと呼ばれた彼の足元には、バトミントンのラケットやバレーボールなど、体を動かして遊ぶスポーツ用品が広げられ、水分補給のための水筒も用意されている。ボールを蹴り合っていた2人は、カナトを含めた3名の姿に気づき、嬉しそうに駆け寄って来た。
「クライヴ殿も久しぶりだ。今日は出かけてかまわないのか?」
「えぇ、アカツキ隊長より、私が同行するなら構わないと」
「相変わらず緩いお方だ」
「カナト!」
サッカーボールを持って走ってきたのは、まだあどけなさが残る青年。もう一人は片目に医療用の眼帯をつけている同じく長身の青年だった。
「キリヤナギ、久しぶりだな」
「久しぶり! カナトは宮殿に用事?」
「今日は散歩だ」
眼帯の青年は、キリヤナギに同意するようにうんうんと頷いている。そんな様子に気付いたクライヴは、遅れたように紹介してくれた。
「ご挨拶がおくれました。彼はグランジ。私、クライヴ・シャープブルームの息子です」
「グランジ・シャープブルーム……」
「大変無礼ですが、寡黙なものでお許しください」
「かまわない。私はカナト・アークヴィーチェだ。また会う機会もあるだろう、よろしく頼む」
「グランジは、そこまで深く考えないから気にしないで大丈夫だよ」
「キリヤナギ、それは失礼だぞ」
「え、ごめん……」
「はは、あながち間違っておりませんから、お気になさらず」
リオは、すこしだけ置いて行かれているような疎外感を得てしまう。しかし、彼らが知り合いなら、そこへ割って入るのも無粋に思えていた。
「こちらも紹介しよう。彼女はリオ・スズキ嬢だ。間も無くアークヴィーチェ・エーデル社に勤めてくれるガーデニア人でもある」
「へぇ、ようこそ我が国へ。僕はキリヤナギ。よろしく!」
「リオ・スズキです。よろしくお願いします……!」
「この後、タチバナ家へ行くつもりなんだが、長男殿はおられるだろうか?」
「長男? ジンなら、昨日また殴り合いの喧嘩して学校に呼び出されてるって聞いたけど……」
「な、殴り合い……?」
「今日は公園で遊ぶって約束したのに……」
「問題はそこではないのでは……?」
「また」という含みのある言葉に、リオは戸惑ってしまう。名門と言う言葉のイメージが崩壊してゆくのを感じ、うまく表現ができない。
「もう午後になるし、朝から呼び出されてたならそろそろ帰ってると思う」
「そうか。ではこれから向かおう。キリヤナギとはまた会えるか?」
「会えると思うけど、四月から警備方針変わるみたいだから、用事あるなら早い方がいいかもしれない」
「そうなのか?」
「厳しくなるって聞いてて、でもカナトなら大丈夫かな……?」
「ではまた早くに連絡しよう」
「ありがとう。待ってるね」
キリヤナギを含めた三人は、立ち去るこちらを手を振って見送ってくれていた。そのあまりの気さくな態度は、確かに「友人」として疑いようもないが、リオは違和感も拭いきれない。
彼らに付き添っていたクライヴ・シャープブルームは、先日出会ったセドリック・マグノリアと同じ服を着ていて、騎士だとわかったからだ。
「お元気そうでよかったですね」
「あぁ、相変わらずだな」
「あの人達は……?」
「リオにはそのうち話そう。今は話せない」
よくは分からないが、いづれ聞かせてくれるのなら確かに今でなくとも問題はない。
3人はは、宮殿前のステーションからタクシーへと乗り込み、ツツジ町を目指す。その自動車の中から見える風景もほぼ大阪とも変わらず「帰ってきた」ような気分にもなっていた。
会社はどうなっているだろう。
リオの勤めていた株式会社テクニカルは、リオが入社した頃からシステム管理部の人数が少なく、先輩はとても丁寧に業務内容を解説してくれだが、結婚をきっかけに転職し、リオはこの年齢ながらに会社の中核のシステムを任せられることになってしまった。
元々興味のある分野で真面目に学んでいたこともあり、引き継ぎそのものはスムーズだったが、社内から寄せられるあらゆるトラブルも対応せねばならず、席に座っていられないばかりが、社員達のシステム部への杜撰な扱いに酷くストレスを感じていた。
仕事の滞りをシステムに押し付けられ、対応が遅いからと言い訳にされ、どうにかシステムをやりかえようと作業をしていたら、お菓子をつまんでいただけで業務の怠慢を疑われた。
思えばリオは、その会社での対話を諦めていた。
いくらシステムについて説明をしても、別の部署の彼らは自分の仕事ではないと、そんな事は知らないと突っぱね。理由を受け入れてはくれない。
ただ謝罪を求め、復旧の時間ばかりを聞いてきてリオはいつのまにか自分感情を殺すようになっていった。
そんなへとへとな日常から、好きなだけ眠れ、体を休めた事で自分がどれほど過酷な状況だったのかもわかってくる。
「この都市はそんなにも『大阪』へ似ているか?」
「え、はい」
「ならこのオウカ町に住む方がリオにとっては馴染み深くて良いのかもしれないな」
「ここに、ですか?」
「あぁ、慣れているのでは?」
突然黙り込んだリオに、カナトは不思議そうな表情をしていた。
この都市は確かに大阪へ酷似しているが、ここへ住む事は日本にいた頃の労働環境も連想してしまうからだ。
「まだ、ここに住むのは、考えられないです。でもお屋敷にいるのは迷惑だとも思うので、そのうち……」
「……そうか。それならば、好きなだけ我が家にいるといい」
「え?? それは、ちょっと……」
「労働者なら、使用人と変わらないからな。部屋も沢山ある」
「そ、そんなつもりではなくて」
「エーデル社へ勧誘したのは私だ。その能力を発揮してもらうためにも衣食住を保証するのは当然のこと、楽しみにしている」
高く買われ過ぎているようにも思えて、リオは返す言葉に詰まってしまった。
会社でも社内システムを管理していただけで、これからのエーデル社でそれが通じるかもわからないからだ。
カナトは、オウカへ回線を繋ぎ直すとも言うが、本音は理想的すぎてどこまで可能なのかもわからない。具体的にどんな手順が必要で、どんな作業が必要なのか、リオには検討もつかないからだ。
サクラの案内の元、タクシーは都会から離れ、畑のある緑の多い風景へと変わってゆく。道路沿いに立つ柱へ電話線と送電線が掛けられているのはわかるが、令和の日本ほど本数が多くはなくブロードバンド回線があるようには見えなかった。
自動車は、さらに住宅街の奥へと入ってゆき、長い壁のある先の大きな門戸の前へと止まる。カナトは、運転手へ2時間後にもう一度来て欲しい旨を伝え、車両を見送っていた。
そしてそこ門戸の表札に書かれた「断花」と言う並びにリオは意外性を得る。
タチバナと読めるその苗字は、日本でもそれなり聞くものでリオは樹木の「橘」と考えていたが、この世界でのタチバナは、桜の名を国名にしており、かつあらゆる場所で草木の名を持つこの国では、あまりにも浮いてみえたからだ。
カナトは、その門戸に備え付けられたインターホンを鳴らし返答を待つ。
スピーカー越しに返事が返って来るかと思えば「はーい」とよく届く声が家屋から響いてきた。
大きな扉の脇にある小さな出入り口から顔を出したのは、茶髪に笑顔がよく似合う女性。彼女は「あら?」と照れたようなしぐさをして三人を招き入れてくれた。
「すみません。今日は開けている余裕がなくて……」
「いえ、お構いなく、我々は玄関でも構いません」
「とんでもない。ぜひ上がって下さい。おじいちゃん呼んできます」
日本で言う田舎の豪邸のもいえるタチバナ家は、住居の脇に道場のようなものもあり正に「良家」と言われても脚色はない。
三人は客間へと通され、座布団を弾かれてもてなされた。
「こ、ここ本当に日本じゃないんですか??」
「タチバナ家は、東国人の血筋だからな。文化もそちら寄りだ」
「えぇ……」
「ふふ、リオ様は東国の文化にお詳しそうですね」
サクラにも揶揄われるが、そう思わずにはいられない。
見える風景のほとんどは、日本の昭和時代の家の様式で、床は畳みで掛け軸、座布団などもそのまんまだ。縁側からみえる庭の美しさなども日本の文化にも思えて頭を抱えてしまう。
「リオ、体調が悪そうだが大丈夫か?」
「ちょっと受け入れるのに……時間がかかってるだけです……」
「な、なるほど……?」
「リオ様、ご無理をされず……」
いっそ日本だと認識したい気持ちを抑えていると、襖の先から初老の男性が客間へと入ってきた。彼は、カナトの正面へと向き合い、丁寧に会釈をして正座する。
「我がタチバナ家へようこそ。アークヴィーチェ卿」
「ご機嫌よう。今回は応じてくださり感謝する。元桜花宮廷騎士団騎士長、カツラ・タチバナ殿」
サクラが驚いているのをリオは見ていた。目の前の白髪の彼は「ふむ」と相槌を打ちながら続ける。
「大まかな話は伺っておりますが、このオウカの通信を繋ぎ直したい? と」
「えぇ、その為にこのオウカ国の名門騎士たるタチバナ家に、我がアークヴィーチェの後ろ盾になって頂きたくご挨拶へと伺いました」
「なるほど、それは一体どう言うものなのですかな?」
「この国は今現在、電話通信にてつながっておりますが、我々ガーデニアでは新たな端末群通信、インターネットを普及させるため、ここへと参りました」
「インターネット、ふむ、OTPがよく宣伝しとりますが……いまはエーデル社でしたか」
「OTP……?」
「旧桜花通信公社、アークヴィーチェ・エーデル社の事だ。共通言語によって略称とされている」
なるほどと、リオは手を叩いていた。カツラはそんな素直な反応をするリオを訝しげに眺める。
「失礼ですが、そちらのお嬢さんは……」
「彼女は、アークヴィーチェ・エーデル社の新入社員、リオ・スズキ嬢です。彼女は未だこの国へ来たばかりで文化などを是非学びたいと、こちらへ」
「そうでしたか。我が家を知って頂けるのは大変光栄ですな」
カツラの微笑に、リオは祖父のことを思い出していた。その雰囲気は、まるで孫を見るように暖かくも感じられたからだ。
「それで、インターネット、とは?」
「インターネットは、あらゆる端末をケーブルにて繋ぎ、多くの情報のやりとりが行える新技術です。音声だけの電話通信とは違い、文字や写真、映像などを受け取ることができるようになります……」
「……それに、何のメリットが?」
「は……」
「写真ならば、カメラで撮れば良いし、ビデオカメラも今時は高性能ではないですか?」
「それはそうですが、インターネットであればそれらのやり取りを自宅で行う事ができます。しかし、これを電話回線で行うのは低速でーー」
「ふん? 別に直接渡せばよいのでは……身内の写真など手紙でおくりゃいいでしょう?」
カナトが呆然としていて、リオは困惑していた。しかしカツラの言う通り、現在やれていることをわざわざインターネットでやる意味はない。
この対話はこれは繋ぎ直す必要性を問われている。
「インターネットは、素晴らしい技術です」
突然のリオの言葉に、カナトとカツラの2人が目線を送る。リオはキョトンとしているカツラに、自身の祖父を重ねながら口を開いた。
「もちろん、必要のない人もいるかも知れません。でもインターネットは、いろんな人があらゆる情報を手にできる夢のような共有システムでもあるんです」
「共有、ですか?」
「はい。簡単にいうと、いろんな人が書き込める辞書みたいなものです。例えば、とある企業さんが自社の宣伝をしたいとインターネットに自分の企業のことを書きます。今までテレビとか新聞とか、その時に流れる一瞬の広告でしかその企業を知り得ませんけど、インターネットをやっていれば、その広告をみて、もっと知りたいって思った人が、その企業のことを詳しく書かれた場所を探すことができます。これがウェブサイト!」
「ほぅ……」
「他にも、体の調子が悪い時、見てもらえるお医者さんを探したりとか。色んな人がいい先生がいるって言ういい評価をされている病院を見つけたりもできます」
「でもそれは、嘘もかけると言う事なのでは?」
「デマの対応については、当然規制などは必要でしょう。オウカ国でも順次ルール制定はするよう、外交の立場として打診しております」
「ふむ」
「インターネットは確かに不要な人には、必要のない技術かもしれませんが、様々な人が平等に情報を共有できるすごい技術でもあるんです。だから私はこの技術をオウカへと普及させたい」
「はは、なるほど、それは確かに便利ですな」
楽しそうなカツラに、リオとカナトは手ごたえを得ていた。まるで若人の語りを抱擁するような態度へリオは思わず嬉しくもなってしまう。
「インターネットは分かりました。しかし我が家が協力するには、些か力不足かと思われます」
「……それは、何故だろうか?」
「確かに我がタチバナ家は、現在でも王家をお支えし、現当主たるアカツキ・タチバナも騎士長となってはおりますが、その威力は徐々に削がれ、今季の四月から近衛騎士の地位からも退く事になりましてな」
「それは、どういう意味だろうか?」
「いえ、王家専属の親衛隊から一騎士に戻るだけで退団とは違いますが……我が家の権威などその程度にまで落ちぶれ、後ろ盾となり得るには心ともないのではと」
「ご謙遜を、私は古より王家と共に生きる貴方がたを高く買っている。ご協力頂けるのであれば我々も相応の態度を持って示そう」
カツラの表情が一変険しくなり、リオは 背筋にゾクゾクと嫌なものを感じる。
タチバナ家は東国の血筋だとも言うが、日本人であるリオには、カツラの言葉の意図がまるで手に取るようにわかるからだ。
それは日本において、自身を卑下に無相応である事を口にするのは、「断りの意思」を示す事でもあるからだ。
「ふむ? その態度とは」
「我が国ガーデニアにおいて、貴殿らの立場を名誉騎士として扱う。その誉れは、たとえオウカにて威力を削がれようとも我が国では不動のものとなるだろう」
「……お話になりませんな」
「カツラ殿?」
「我が家タチバナは、古来からオウカ国、オウカ家へ仕えてきた身分であり、その名誉はオウカ国の為にあるものだ。当時輝きを失ったとはいえ、外国にてそれに縋ろうなどとは我が家の騎士道をもって許される事ではない」
「……貴方がたは、騎士貴族としての繁栄を望んではいないのか?」
「望まぬというは嘘になりますが、そこで外国へ鞍替えなどとは言語道断。滅ぶのならばこの国と共に。オウカあってこそのタチバナ。これをご理解いただけぬならば、おかえり頂こう」
その鋭い眼光に迷いはなく、3人はただ言葉を失うしかなかった。
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