第2話 宇宙一かわいい親友

 なかなかのハプニングのあった入学式もなんとか終わり、穂澄たち新入生は、自分たちの新しい教室で大人しく席に着いていた。

 黒いスーツに身を包んだ女性教師が、手際よくプリントを配布している。

 入学式も終わったことだし、今日はこのまま解散だろう。


(今日は、帰ったら何しようかなぁ)


 そんなことを考えながら、あくびを一つ、どこかよそよそしい教室の空気にふぁりと溶かした。



「それでは、礼」

「「「「「ありがとうございました!!」」」」」


 軽く一礼すると、穂澄は荷物を鞄にしまい始めた。とは言っても、先ほど配られたプリントくらいしかしまうものなどないのだが。


 すぐにしまい終わって、さぁ帰ろうと席を立つと、

「ねぇねぇ、コマキさん、だっけ?よかったら連絡先交換しない?仲良くしよーよー!」


 後ろの席の女子生徒が、片手に持ったスマホをひらひらさせながら話しかけてきた。丁寧に巻かれた髪と、派手すぎない絶妙な具合のメイク。これらの努力の賜物か、それなりに美人にみえる。


 ただ、穂澄は、彼女のことを全くと言っていいほど知らなかった。名前すら覚えていない。そんな人間にやすやすと連絡先を渡せるほど、不用心にはなりきれなかった。


 それに、今日は先約がある。彼女に構っている暇はないのだ。


「あのー、コマキさん?おーい」


 そうやって考えている間に、思っていた以上に時間が経ってしまっていたらしい。黙り込んでしまった穂澄の前で、戸惑いながら手をひらひらさせる女子生徒。


「……あぁ、ごめんねぇ?今日はちょっと別の用事が……」



 スパァン!!



 派手な音とともに、教室後方の扉が勢いよく開け放たれた。

 そして、



「ほーーずーーー!!!!!」




 叫びながら、一人の女子生徒が教室に飛び込んできて、




「どーーん!!!」




 穂澄に勢いよく抱きついた。




「ぎゅ~~!!今日もほずはかわいいねぇ~食べちゃいたい♡」

「ひなちゃんだってぇ、いっつも、かわいいよぉ?さすが、自慢の大親友だぁ♡」


 何を隠そう、この女子生徒は、穂澄の幼馴染であり、自他共に認める大親友の、稲守いなもり陽南乃ひなの

 一緒に帰る約束をしていたから、迎えに来てくれたのだろう。それにしては、登場が派手すぎる気もするが。

 眩しいくらいの笑顔が印象的な女の子で、明るい茶色に染められたショートボブの髪がよく似合っている。皆と同じ制服のはずなのに、ファッションもどこか洗練されているように感じてしまう。パーツのバランスの良さと整った輪郭が織りなす愛らしい顔、スタイル抜群の体型…どこをとっても素晴らしく完成された容姿は、見るたびに穂澄の心を浄化してくれるようだ。きっと前世はクレオパトラか何かだろう。

 鈴の音のような、明るく、澄んだ声もお気に入りだ。

 そんな愛すべき友人の存在が、穂澄の唯一の自慢だったりもする。


 さっき話しかけてきた、スマホやら手やらをひらひらさせていた女子生徒とは、格が違うのだ。ふふん。


「いきなり飛びついてきたのは、びっくりしたけどねぇ?」

「あはは~ごめんごめん。早くほずに会いたくてさ」

 

 イケメンすぎる。

 独りでに口角が上がるのを感じる。まぁ、陽南乃といるときは、口角など常に限界突破レベルに上がっているのだが。

 きっと今、にやにやしているんだろうなぁ、とぼんやりと思った。


「嬉しいこと言ってくれるねぇ」

「えへへ。じゃあ、帰ろっか!」

「うん。そういうわけだから、じゃあねぇ、ひらひらちゃん」


 ちょっと忘れかけていた、いろいろひらひらさせていた女子生徒に一声かけて、穂澄は、陽南乃と手をつなぎながら教室を後にした。


「ひらひ……あたしのこと……?」

 戸惑う声も、穂澄の耳には届かない。すでに、陽南乃の声しか耳に入っていなかった。




 大好きな陽南乃といると、それで頭がいっぱいになってしまい、他のこと全部をシャットアウトしてしまうのは、穂澄の悪い癖だ。


 でも、仕方ないとも思っている。


 穂澄にとって、一番大事なのは陽南乃だから。


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