宇宙一熱い場所
黒音こだま
第1話 宇宙一熱い演説
歓声。
そして、光。
真っ暗なはずの観客席は、なぜか、
真っ暗で、眩しい。矛盾で満ちた、宇宙よりも不思議な空間。
からだも頭も、無重力のなかにいるみたいにフワフワして、落ち着かない。
激しい緊張と高揚のなかで、五人は確かに、そこにいた。
♦♦♦♦♦
「ふわぁぁあ……。ねむぅ……」
今日は入学式。穂澄も晴れて高校生の身である。とは言っても、高校生になったという実感などはほとんどなく、こうして真新しい制服に身を包みながらも呑気に大あくびをかましているわけだが。
なぜこんな早朝(現在朝8時半)から、学校までてくてく歩かなければいけないんだ。運動反対。二度寝をさせろ。
今の穂澄の心中はざっとこんな恨み言で埋め尽くされていた。
しかし入学してしまったからには仕方がない。
とめどなく込みあがってくるあくびを嚙みころしながら、穂澄はまた一歩踏み出した。
「…校生代表、
「はい!」
半分くらい意識を手放した状態の穂澄に構わず、入学式は着々と進行していた。自信と緊張がないまぜになったような声が、たいして広くもない体育館に響き渡る。こつ、こつ、と規則的に響く靴音を聞きながら、穂澄はこっそりとあくびをした。
もう何度目かわからないが、退屈なんだからどうしようもないだろう。
率直に言って、飽きた。
特に面白くもないオジサンたちの話をただひたすら座って聞かされるのだ。ある種の拷問ではなかろうか、とさえ思う。
この、佐々木千春という上級生の話ならば、年も近いしそこそこ楽しめるかとも思ったが、期待外れだったようだ。どこかで聞いたことがありそうな、定型文的な文章の寄せ集め。
またあくびがこぼれそうになっていると、拍手が聞こえた。例の、佐々木千春の代表挨拶が終わったらしい。とりあえず合わせて手を叩いておく。
「新入生代表、
「はい」
凛とした、落ち着きのある声が耳を打つ。黒いおさげが二本、彼女の歩みに合わせてぷらぷらと揺れる。切りそろえた前髪の下には、意志の強そうな釣り目が鎮座している。制服の第一ボタンまで留めた、生真面目そうな恰好だ。まあ、今日は入学式なので、尖った恰好をした生徒などそうそういないのだが。
そう思った矢先に、視界の端に金髪が映り込んだ。耳を埋め尽くすほどの量のピアスが照明を反射して輝いていて、制服のシャツを出し、腕やら首やら腰やらにジャラジャラと付けられたアクセサリー類が存在感を放っている、パイプ椅子にどっかりと座りこんで足を組んでいる男子生徒だった。
(尖った格好の人、いたぁ……)
少し意外に思ったが、穂澄の、彼への興味はそこで失われた。この広い世界、そんな人もいるだろう。
そんなことを思っている間に、件の女子生徒はステージに登壇していた。
背筋がピン、と伸びた後ろ姿。近頃猫背気味の穂澄からすれば、羨ましい限りだ。
彼女は一礼すると、
手に持った台本を投げ捨てた。
(…おぉ?)
「……私はっ!!新天地であるこの場所で大いに全力を尽くしっ!!!全てを捨ててでも何かを残してみせる!!!!あなたたちはそのための踏み台よ!!協力など、知ったことじゃないわ!!私は私の道を行く!!!もしあなたたちも同じなら、共に切磋琢磨していけることを願っているわ」
「……最後になったけれど、私達の入学を許可してくれたこと、感謝しているのよ。新入生一同を代表して、お礼申し上げます。以上、新入生代表、宮下朱凛」
マイクをひっつかむと、叫ぶようにそれだけを口にし、彼女の演説…もとい新入生代表挨拶は終わった。
(後半の、付け足した感がすごいねぇ)
なかなかインパクトの強い挨拶だったが、思っていた以上に楽しめた。僥倖だ。
思わず口元に浮かんだ笑みを隠すこともせず、穂澄は初めて、ここで過ごす三年間と共に学ぶ学友たちに、ほんの少しの期待を寄せた。
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