ゲシェンク

せりもも

第1話 月明かり


◆クラウス7歳・記憶……



「ここへおいで」

 優しい声で、父は、クラウスを呼んだ。

「こっちに来るんだ」


 ずっと不機嫌だった父さんが、笑っている。

 クラウスは嬉しかった。

 父は、クラウスの、たった一人の、家族だ。

 母は、この国が最初に戦に負けた時、家を出て行った。

 敵国の兵士と、出奔したのだ。

 戦争のせいで、父は、荘園を失ったから。

 ……それから、父さんは、笑ったことがない。


 「こっちへおいで、クラウス」


 けれども今、父は笑っていた。

 クラウスは、嬉しさのあまり、跳ね回りたいくらいだった。

 頑張ろう。

 クラウスは思った。

 家は貧乏になり、使用人たちはみないなくなったけど、

 でも。


 ……僕、頑張るから。

 ……父さんの為に、一生懸命、頑張る。


 体の奥から、喜びと、希望が湧いてきた。

 自分は何でもできる。

 父さんさえ、いてくれたら。

 父さんが、自分のことを、好きでいてくれたら!


 ……僕、頑張るよ。


 父親が動いた。

 背中に隠した何かを前に出す。

 狩猟用の散弾銃だった。

 駆け寄ってくる息子に、父は、銃口を向けた。

 笑ったままの息子に向けて、引き金を引いた。




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