第2話 幼馴染彼女と過ごすある日の深夜②
「それじゃ行くよ。扇風機とか消した?」
「おっけー。それじゃ行こっか」
(扉を閉めて鍵をかける)
「これでよし」
(カンカンと階段廊下を下る音)
「しっかし九月なのにまだ暑いよね。恐ろしや地球温暖化」
「だね。十月はさすがに涼しくなる……よね?」
「あ、そうだ。コンビニ着いたらアイスも買おうよ」
「深夜の住宅街ってこんなに静かなんだね。車も通ってないし、人もいないし」
「あ、待って。虫が鳴いてるー」
「スズムシかな。私こういう季節感のある音好き」
(虫の鳴く声と二人の足音)
「ASMR的なやつ。寝るときたまに聞くよ。ひぐらしの鳴く田舎の夕方とかキャンプの焚火の音とか。なんか安心するんだよね。ノスタルジックってやつ?」
「ね、手繋いでもいい?」
「いいじゃん、誰も見てないんだからさ」
「だって大学とか街中だと人の目を気にして手を繋いでくれないでしょ?」
「は? 手汗? そんなん気にしないって」
「はい。にぎにぎ~」
「街中でハグとかキスとかならまだしも、手を繋ぐくらい皆やってると思うよ? 昔からシャイだよね
「それに意外と周囲ってそういうの気にしていないと思うよ。自意識過剰ってやつ」
「ふふっ、でも恥ずかしがりなのに私がプレゼントした服とかよく着てくれるよね。今着てるのだって先月あげたやつだし」
「あはは、いいっていいって。私がしたくてしてるだけなんだし。それに私だってよくもらってるからね」
「例えば今持ってるスマホのカバーだって彼氏さんからのプレゼントですよ? ふふっ」
「別に安物でもいいよ。何を貰ったかも大事かもしれないけど、それより渡してくれた相手が大事じゃん?」
「そういえば初めてプレゼントくれたとき、すっごい顔真っ赤にして『ん』って渡してくれたよね」
(彼女が耳元に顔を近づける)
「あれ、まだ大事に持ってるからね」
「あ、照れた~。あの時と同じ顔してる~」
「さて、コンビニとうちゃ~く」
「あ、手解かれちゃった。いいけど、帰り道も手繋いでもらうからね」
(自動扉の開く音と入店音)
「あ、カゴ持ってくれるの? ありがと~」
「いや~私は食器より重いもの持ったことないから」
「はいそこマジレスしなーい」
(お菓子コーナーへ移動)
「私マカダミアナッツのチョコ食べたい。映画観ながら食べると三割増しで美味しいんだよね」
「う~んポテチはいいかな。ゲーム中に食べるとコントローラーが油まみれになるし。あ、でも期間限定なら話が変わってくるな」
「あ、あとこれも買おっと。ごくまれに潜水艦の形のが見つかるスナック。あとはでかいラムネも。これは勉強中の糖分補給に最適」
「なによ。勉強なんてしないくせに、って顔してる。するし、少なくとも試験前は」
「あとはグミを何個か買っておこうかな」
(飲料コーナーへ移動)
「エナドリはやっぱいるよね。多忙な若者へ、って書いてあるし」
「アメリカとかだと種類たくさんあるよね。結局スタンダードが一番美味しいらしいけど」
「うん。アメリカに旅行行った友達があっちで全種類飲んで検証したって。……だね、さすがにカフェインの過剰摂取で心配になるよね」
「さて、あとはアイス買おっと」
(氷菓コーナーへ移動)
「あ、九月だからみかん味のやつ無くなってる…。失って初めて気づくよね、大切なものって」
「うん……このためにコンビニ来たのに……。仕方ないから梨味で妥協する……」
(レジへ移動)
「あっちょっと待って。これ買わない?」
「ドデカ豚ラーメン720円。二人で食べない?」
「だってこの子、賞味期限午前三時までなんだよ? このまま誰にも食べられないまま廃棄なんて可哀そうじゃない?」
「はい決まり~!」
「あ、そうだ。ラーメンに合いそうな物取ってくるからちょっと待って」
「お金? 私が全額払うから安心して。バイト代が振り込まれてお金に余裕があるっちゃけん」
「ふふん、なんでもおごっちゃる」
(自動扉が開く。退店音が鳴る)
「いや~袋2つ必要になるまで買ってしまった。重いほうの袋持たせてしまってごめんね」
「やだな~袋持ってもらうために一緒に来てもらったんじゃないって?」
「一緒にこうして歩くの好きなんだ。昔っから」
「特別なところで珍しいものを観たり、美味しい食べ物を食べるのも好きだけど、シンプルに日々の生活を一緒に過ごすのも好き」
「……深夜の住宅街ってなんかいいよね。人も車も通らないから静かで。昼間はみんな忙しそうにしてるから、なんか一分一秒が長い気がする。だから夜更かしとか結構好きなんだよね」
「ふふっ、そうだね。こんなにゆっくり歩いてたらアイス溶けちゃうね」
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