第2話 忘れっぽいリオ

 教室に腕を組みながら入りお互いの席にカバンを置くと、直ぐにユミカちゃんが笑顔で近くに寄ってきた。


「忘れ物ない? リオ忘れっぽいからなー」


 そう言いつつ隣の席に座ってきた。まぁ…… 私は実際に忘れ物が多いし言い返せないなぁ。


「多分ないと思う…… なにかあったっけ?」

「えーとー今日は、調理実習あるよ? エプロン持ってきた?」

「え? あ…… 忘れた……」

「んふふふ…… そういうと思ってリオの分も持ってきたよ」


 優しい! ステキ! ユミカちゃん最高っ! 思わずユミカちゃんを抱きしめると、頬を赤くさせて慌てた様子になった。普段は、私から抱きしめる事は殆んど無い。


「ありがとっ♪ ユミカちゃん助かるよー」

「え、あ…… うん。良いって…… その… くっつき過ぎじゃないかなぁ……」

「え? いつもユミカちゃんが抱きしめてるのと同じだけど? 照れてるのー?」


 抱きしめていると、ユミカちゃんがモジモジして恥ずかしそうに逃れようとしてきた。


「そんな事ないし…… えっと…… 授業始まるし」

「まだ10分も残ってるよ? うふふ…… 逃さないよぉ♪」


 私がふざけて言うとユミカちゃんが、嬉しそうに振り向いて目が合うと恥ずかしそうに目を逸らした。え? なに? その…… 反応、可愛いドキってしちゃった。


「……今日は、抱きしめなくて良いの?」

「リオが恥ずかしいって言うでしょ! それに抱きしめられてるし十分だよ」


 え? なによこの反応は? 今までに無い反応だよね?



 ユミカちゃんのその反応に、リオは整理しきれない気持ちになった。自分の心なのに上手く形容しがたい。

 何か言わないと、と思うのに何を言えばいいのかわからない。そうこうしていると、授業開始のチャイムが鳴り響く。


(ドキって何? だって相手は、ユミカちゃんだよ?)


 目がまわるほど、自分の思考がぐるぐるとしてくる。授業どころでは無くなってしまっていた。


 そんなリオの反応を見て、ユミカちゃんはこっそり小さな紙切れを机の上に置いた。先生の目を盗んで、サッとその紙切れを開いた。


 『上の空だけど、何考えてるの?』


 パッと隣の席のユミカちゃんを見る。授業中で話をできないので、ユミカちゃんは人差し指を唇に当てて静かにという仕草をする。



 さっと小さなメモ帳を取り出して、返事を書いた。


 『授業、難しいなって! それだけだもん!』



 バレバレな嘘をついて、誤魔化した。嘘だとバレたようで、隣のユミカちゃんは笑いを堪えるようにぷるぷると肩を振るわせた。

 そんな考え事をしていたからか、授業が終わってしまった。チャイムが鳴ると同時に、先生は板書を消してしまう。


(しまった、板書取ってない! また、ユミカちゃんを頼ると笑われちゃうよねぇ)


 そんな事を考えていると制服の袖をチョンチョン引っ張られノートを渡された。


「ボーっとしててノート取ってなかったでしょ?」


 ニヤッと笑われてバカにされたような感じがした。ユミカちゃんヒドイ。誰のせいで……もお。


「……もお。誰の…… 何でも無いっ」


 危うくユミカちゃんのせいでしょ! と言いかけてしまった。絶対に言ったらしつこ聞かれちゃうよね。


 「ん? 誰がなんだって〜?」


 しつこく聞かれたくなくて、止めたのに。しっかり聞かれてしまっていたようでドキッとしてしまう。


「別に何でもないから気にしないで」

「気になるんだけどなー?」

「の、ノートを写さないと……」

「ねぇー」


 ユミカちゃんが立ち上がり後ろから抱きしめてきた。もぉ…… さっきと逆転してるし。胸の柔らかな感触が伝わってきた。さっき変な意識をしちゃったせいかな…… 変な気分。


「あまり揺らさないで…… 書き写せないよぉ」

「あ、ごめん。つい」


 ユミカちゃんは謝るが、離れる気は無いらしく抱きしめられたままで耳元で囁いてきた。


「ねぇーまだー?」

「あと…… 少し…… かな」


 顔が近いってば! 良い匂いがするなぁ……


「近いんですけど!」

「そりゃーね。抱きしめてるんだもんっ」


 へぇーそうですかぁー。ノートを移し終わったら仕返ししちゃうからねー。ノートを移し終わり席を立つと、抱きしめていいたユミカちゃんが離れた所を逆に後ろから抱きしめた。


「交代ねっ!」


「こ、交代!?」


 そんな風に言われると思ってなくて、声が裏返る。されるがままに、ぎゅうぎゅうと抱きしめられた。ふわふわのユミカちゃんの髪が、私の頬を掠める。


(あれ? 朝は気が付かなかったけど……)


「ユミカちゃん、シャンプー変えた?」


 

 リオが、そのこと気がついて嬉しいと言わんばかりの笑みを浮かべて、ユミカちゃんは少し離れてリオの顔を覗き込んだ。

 朝よりも密着する距離で、シャンプーの優しい香りが漂う。


 ユミカちゃんは “どう?” と聞くように、髪をサラッと手で触った。


「すごいいい香り!」




ユミカちゃんはふふふと、頬を染めて柔らかく微笑んだ。


「良かった、これにしてぇ」

 


 本当に嬉しそうに、笑うからリオまでつられて笑った。


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