第80話:ペット達の巣穴

「……うん? ここは……?」


 俺はアンネリーゼの転移魔術によって何処かに飛ばされてしまったようだ。辺りを見渡した限りは洞窟のような洞穴の中に見える。しかも周りには……。


「「「グルギャアアアアアア!!」」」


 しかも周りは凄まじい数の魔物がひしめき合っており、その群れの中には下位種のゴブリンから最上位種のニーズヘッグまで幅広い種類の魔物達が存在していた。という事はつまりここは……。


「なるほど。という事はここはペット達の巣穴って事か」


 俺はこの状況を見てすぐに察した。ここはアンネリーゼの飼っているペット達の巣穴だ。ゲーム本編でこんな感じの光景に見覚えがあったからすぐにわかった。


 ゲーム本編ではアンネリーゼ戦で負けてしまうとこの巣穴にヒロイン達が連れ込まれる事になり、そしてそのヒロイン達はアンネリーゼのペット達に次々と襲われていって孕まされ続けるという胸糞なバッドエンドを迎える事になるんだ。


 まぁ俺もイベントCG回収のために一回だけわざと負けてこのバッドエンドを見たけど中々に胸糞過ぎたので、それ以来アンネリーゼ戦はいつも完膚なきまで叩きのめしてたっけな。


「やっぱり洞窟の中身って原作と全く同じなんだ。はは、まぁでもそりゃそうか。そんなの原作通りに決まってるよな」

「……いや何笑ってんの? ひょっとして怖くなって頭でもおかしくなった??」

「うん?」


 俺は洞窟の中を見渡しながら楽しげに笑っていると、後ろからアンネリーゼの声が聞こえてきた。どうやらアンネリーゼも続けて転移してきたようだ。


「いや、何だかこの洞窟もある種の聖地巡礼みたいだなって思って……って、お前にそんな事を言っても意味がわからねぇよな」

「? 本当に何わけわからない事を言ってんの? ってかこの状況をお前はちゃんと理解してんの? 今からお前はここにいる私の大切なペット達に生きたまま食い殺される事になるんだよ? ねぇ、皆?」

「「「グギャアアアアアッ!!」」」


 アンネリーゼの号令を受けた周りの魔物達は俺に向かって一斉に雄叫びを上げてきた。その光景を見たアンネリーゼはニヤニヤと笑いながら続けてこう言ってきた。


「ふふ、どうよ? アンタが強いのは認めてあげるけど流石にもうこの状況になったら終わりでしょー? ぷはは、怖かったら涙でも流してくれて良いんだよー??」

「あぁ、そうだな。ここにいる魔物達とお前を一掃出来る事になるなんて……ぷはは、こんなの嬉しくて涙が出てきそうになるよな!」

「は、はぁ? いや何言ってんのよアンタ?」

「ん? あぁ、そうだよな。お前には意味がわからないよな。まぁつまりは……こういう事だよ!」

「……え?」


 そう言って俺は自分の着ていた服をすぐに脱いで上半身裸になっていった。するとアンネリーゼは俺の姿を見てキョトンとした表情を浮かべながら首を傾げてきた。


 何故なら俺の全身に大量の試験管が巻きつけられていたからだ。そしてその試験管の中には無色の液体が入っていた。


「何よその大量の試験管は? 人間界で流行ってるファッション?」

「そんなわけねぇだろ。これは全部とある“薬”が入った試験管だ。お前と戦うために全力でこの薬の準備をしてきたんだよ」

「へぇ、薬? あ、もしかして全身にポーション薬でも巻きつけてんの? ぷはは、そこまでして生き延びたいだなんて惨めすぎでしょー??」

「ポーション薬? ぷはは! テメェこそ何を生温い事を言ってんだよ? これは全部ガルニトロ薬だよ!」

「ガルニトロー? ……って、は、はぁっ!? お、お前!? そ、それっ……“薬”じゃなくて……ば、“爆薬”じゃねぇかよ!?」

「おう。そうさ。俺の身体に巻きつけてるのは全部爆薬だよ! ぷはは、どうだよ? ちょっとは楽しくなってきただろ??」


 俺が笑いながらそんな事を言っていくと、ニヤニヤと笑みを浮かべていたアンネリーゼは途端に顔を真っ青にしてきた。


 ガルニトロはゲームで使用出来る強力な戦闘用アイテムだ。調合レベル最大の状態でしか作れないレアアイテムで、敵に投げつける事で高威力かつ広範囲のダメージを叩きこめる事が出来る。


 だけど調合レベルを最大の状態にするのはゲームクリア後じゃないと無理なので、シナリオ本編中にこのガルニトロを使用するのは仕様上は不可能だ。


 つまりガルニトロはゲームクリア後にしか使えないアイテムという事になるんだけど、その分恐ろしい程の高火力を叩き出す事が出来る凶悪なアイテムになっている。


 ゲーム制作陣もガルニトロはゲームクリア後に探索出来るようになる高難度ダンジョンとかボスラッシュとかで使って貰う事を想定としていたはずなので、範囲、威力共にチート級に強力な殲滅アイテムとなっていた。


「い、いや、お、お前……ガルニトロなんて希少な爆薬を……どうやってそんなに集めたんだよ……? そ、そもそもガルニトロなんて希少性の高すぎる爆薬……どこにも取引してる所なんてねぇはずだろ……?」

「あぁ、そうだよ。ガルニトロなんて何処に行っても買えるわけのないシロモノだよ。だから俺が毎日頑張って一人でコツコツと作ってきたのさ」

「ひ、一人で作っただと!? ガ、ガルニトロをか!? い、いや、流石にそれはブラフが過ぎるだろ……ぷ、ぷはは、死にたくないからってそんなでまかせを言ってんじゃねえよ……!」

「あぁ、そうだよな。この状況じゃあブラフって思われるに決まってるよな。よし、それじゃあ一個だけ試しにプレゼントしてやるよ。ほらっ」

「……え?」


 俺はそう言って試験管を一本だけ取り出して遠くへと放り投げていった。試験管は放物線を描いていき、そのまま地面に勢い良く叩きつけられていった。


―― パリンッ……


 地面に叩きつけられた試験管は一瞬で粉々になり、試験管の中に入っていた液体はその付近に飛び散っていった。そしてその付近から液体の奇妙な香りが洞窟内に漂い始めてきた。と、思ったその瞬間――。


―― ドゴォォォォオオオオオオオオオオオォオオンッッ!!


「「グギャッ!? グ、グギャアアアアアアアアアッ!? グギャ……グギャアアアアアッ!!」」


 試験管が叩き割れたその場所からとてつもなく大きな爆裂音と共に巨大な爆発が生じていった。付近にいた魔物達はその巨大な爆発に巻き込まれていき、悲鳴のような声が洞窟内に響き渡っていった。

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