第78話:悪役VS悪役

「はぁ、はぁ……何だよその力……? 強化魔術バフを積みこんできたのか……?」

「はは、さぁな? ってか手の内を開かす訳ねぇだろ。馬鹿かテメェは??」

「なっ!? ふ、ふざけんな! ゲロカスの分際で生意気な口叩いてんじゃねぇよ!! 召喚魔術サモン!」


―― ブォン!


 アンネリーゼがそう唱えると、アンネリーゼの近くに大きな亜空間の穴が生じていった。そしてその中から大きな赤色の竜が飛び出してきた。


「グギャアアアアアッ!」


 その竜は空に上がりながら俺の姿を見て大きな咆哮を上げてきた。そしてアンネリーゼはそれを見ながら急にほくそ笑んできた。


「ふふ、どんな手品を使ってるのか知らねぇけどさぁ……でも流石に私のペットに勝てるはずがねぇよな! さぁ、行きなさいヴェル君! あのゲロカス男を丸のみしちゃいなさい!」

「ガルルルル、グルギャアアアアッ!!」


 アンネリーゼがそう命令すると、召喚された赤色の竜は大きく咆哮を上げながら俺に目掛けて全速力で突撃してきた。


 でも俺は特に動じる事もなく冷静に相手を分析していった。


「ふむふむ。見た目からして上位種の真紅竜レッドドラゴンのようだけど……でも最上位種の蛇神竜ニーズヘッグよりかは遥かに弱い個体だな。って事はまぁこれくらいなら」

「ふふ、やっちゃえ! ヴェル君ー!!」

「グギャアアアアアッ……グギャッ!?」


―― ザシュッ……


「……へ?」

「ぐ……ぎゃっ……っ……」


―― ドサッ……


「ま、余裕で倒せるわな」


 俺は竜の突進を紙一重で避けていき、そのまますぐに国王様から貰った短剣を使って竜の首を切り落としていった。やっぱりこの短剣恐ろしい程の威力を持ってるな。


「な……な、なななっ!? な、何で!? 私のヴェル君が一撃でやられるなんて、そんなバカな事が――」

「オイ何よそ見してんだ? 俺の方をちゃんと見ろや!!」

「ぐはぁっ!?」


―― ドゴォンッ!


 俺は竜がやられて呆然としてるアンネリーゼに近づいていき、全力でアンネリーゼの事を殴っていった。


 するとアンネリーゼはまた遠くまで吹っ飛んでいき、そしてまた地面に叩き堕とされていった。


 俺はその一連の様子を見終えてからアンネリーゼに近づいていき、笑いながらこう言い放っていった。


「ぐ……が……ぎっ……!」

「おうおう、アンタさぁ……俺と戦ってるってのに、俺の方を見向きもしないで呆然としてるとか馬鹿じゃねぇのか?? お前みたいなゲロカスな魔族がよくもまぁ先代の勇者パーティとの戦争で生き残れたもんだなぁ? ぷはは!」

「ぐ……が……て、テメェ……ふ、ふざけんなよ……! ってかテメェ……い、一体何者なんだよ……! ほ、本当に人間なのかよ……?」


 アンネリーゼは痛みを我慢しながらヨロヨロと立ち上がり、俺を睨みつけながらそう言ってきた。


「一体何者か……まぁそうだな。お前とは浅からぬ縁があるからちゃんと名乗らせて貰う事にするわ。俺の名前は……“戦争屋”セラス・アルフィード。ま、どうせすぐ死ぬことになるんだから覚えなくても良いぜ?」

「はぁ、はぁ……せ、戦争屋? ふ、ふざけた呼び名だな……たった一人のクセに何が戦争屋だよ……はぁ、はぁ」

「はは、別に何とでも言ってくれて構わねぇよ。俺もふざけた異名だって思ってるしな。だけどそんなふざけた呼び名のゲロカス男に負けそうになってるお前は一体何なんだよ? 俺は魔族ってのはもっと強くて偉大な種族だと思ってたのによぉ……たった二発殴っただけでこんなに辛そうにしてるなんてクソザコ過ぎじゃねぇか! お前みたいなクソザコが魔族なんて名乗ってんじゃねぇよ! ぷははっ!!」

「はぁ、はぁ……ふ、ふざけんなよ、テメェ……ずっと喋らせておけば良いものを……」

「あぁん? 何言ってんだよ? テメェが辛そうにしてるから、俺は優しさでずっと攻撃をしないで待ってあげてたんだろ? まぁでもそれだけ元気になったって事はさぁ……そろそろまた攻撃をしかけても良いって事だよなぁ?」

「っ!? さ、召喚魔術サモン! 召喚魔術サモン! 召喚魔術サモン!!」


―― ブォン!!


 アンネリーゼがそう唱えていくと、先ほど発生させていた亜空間の穴の数がさらに増えていった。そしてそこからアンネリーゼが使役する魔物が次々に飛び出してきた。


「グギャアアア!!」

「グルルルルルゥ……!」

「グシャアアアアアアア!!」


 アンネリーゼが呼び出した魔物はどれも中位種~上位種の魔物のようだ。でも最強の切り札である最上位種のニーズヘッグをまだ呼び出さないのは……もしかしたら俺の事を警戒しているからかな?


(それじゃあ俺も……まだ“奥の手”は使えないな)


 という事で俺はこの状況も短剣のみで切り抜けるべく、もう一度短剣を持ち直してアンネリーゼの方に構えていった。


 すると短剣を構え直した俺の様子を見て、アンネリーゼは俺が魔物の大群に気押されてると勘違いしたようで、余裕が出てまた下卑た笑みを浮かべ始めていった。


「ふ、ふふ……調子に乗るのもいい加減にしなさい。アンタみたいなゲロカスは私のペット達の餌食に必ずしてやるわよ!」

「あぁ、良いぜ。それじゃあ……かかって来いよ!」

「ふん、言われなくたって……皆一斉にかかりなさい!!」


「「「グギャアアアアアッ!!」」」


 そう言って俺はアンネリーゼの使役する魔物達との戦いを繰り広げ始めていった。

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