第72話:カルシュ村を訪れてみると……(ステラ視点)
セラス君に連絡するより少し前……。
「もうそろそろカルシュ村に到着する頃ですかね?」
「はい。あと少しでこの森の中を抜けれますので、そしたらすぐにカルシュ村に到着しますよ」
私は乗車している馬車の御者に向かってそう話しかけていっていた。この馬車はギルド専用の馬車なので乗車してるのは私一人だけなんだ。
それで馬車の中で一人でゴロゴロと時間を潰すのはあまりにも寂しすぎたので、私は馬車の御者に話しかけながらこの旅路をノンビリと過ごしていた。
そしてそれから程なくして、ようやく馬車は深い森の中を抜けていった。
「お、ようやく森を抜けましたよ。それではあと数分もしたらカルシュ村に到着しま……って、あれ?」
「どうかしましたか? ……って、えっ?」
しかしその瞬間、御者は何かを見つけたようでビックリした声を上げてきた。
なので私もすぐに御者が見ている方向に視線を送ってみた。するとそこにはカルシュ村が小さく見えてきていた。だけど……。
「あ、あれは……まさか、煙?」
「は、はい、そうですね。村の中で何かが燃えてるのかもしれませんね……」
カルシュ村からは大きな煙がモクモクと発生していた。明らかにそれは異常な光景だった。
(もしかして魔物に村が襲われてるとか? もしくは盗賊とか野盗に襲われているとか?)
私は嫌な予感がしたので、すぐに御者にこう伝えていった。
「すいません、カルシュ村の様子を確認してくるのでここで降ろしてください。そして村で何が起きてるのか判明したらすぐに連絡しますので、御者さんはここで待機しておいて貰えますか?」
「は、はい、わかりました。お気をつけて……」
「はい、ありがとうございます」
私はそう言ってすぐに馬車から降りていき、そのまま全速力でカルシュ村に近づいて行った。
◇◇◇◇
「こ、これは……」
村の入口に辿り着いた私は絶句した。村は壊滅状態になっているようだ。入口から見える建物は全て瓦解しているし、至る所で火事も発生していた。
(こ、これってもしかして……)
私は最悪の事態を想定してしまった。それは数か月前にセラス君が隣の領地にある村を調査した時の話を思い出したからだ。つまり……。
(その時にセラス君が見た光景ってもしかしてこのような惨状だったんじゃ……)
つまりこのカルシュ村を襲った犯人は魔族という可能性が出てきた。でもそれはあくまでも可能性があるというだけだ。
それに村の中にはまだ生き残っている人がいる可能性もある。だから私は人命救助のためにも村の中に入っていく事にした。これもギルド職員としての重要な仕事だ。
「
私は静かにそう唱えた。これは自身の姿や気配を完全に消す事が出来る隠密用の魔術だ。基本的に物音を立てなければ誰にも気づかれなくなる。
でも大きな物音を立ててしまえばこの潜伏効果はすぐに切れてしまう。つまり敵に向かって攻撃をしたり急いで逃げようとして大きな物音を立ててしまうと簡単に見つかってしまうという事だ。
なので私は潜伏状態でも細心の注意を払いながら村の中へと侵入していった。そして村の中に入っていくとすぐに異常事態になっている事に気が付いた。
(む、むごい……何よこれ……)
村の中に入っていくと、辺り一面に真っ赤な血だまりが無数に出来上がっていた。それはどう見ても人間の血液だった……。
だけど血だまりは至る所に無数に存在しているのに、その血を流したであろう人達の姿が全然見当たらなかった。遺体も一切見つからなかった。
(血だまりはこんなに沢山出来ているのに、何で人は一人もいないんだろう……?)
私はそんな事を冷静に考えつつも、生き残っている村人を探すために私はさらに村の中心部へと潜入していった。すると……。
「ぐるぎゃあああ!」
「ぐぎゃ! ぐぎゃぎゃ!」
「ぐぎゃぎゃ! ぐぎゃあああ!」
(あれは……ゴブリンね)
村の中心部では数体のゴブリンが楽しそうにしながら踊っていた。やっぱり予想はしてたけどこの村は魔物達に襲撃されたようだ。そしてその踊っているゴブリン達の先には……。
「ひ、ひぇ、助けてくれ……」
「もう嫌だよ、死にたくない……」
「うぇーん……ままぁ……」
そこには絶望の表情を浮かべている村人達がいた。パっと見た感じ15~20人程の村人がゴブリン達に捕まっているようだ。
どうやらゴブリン達は村人を捕まえたのが嬉しくて喜びの舞を踊っているようだ。
(これは早く救助に向かわなきゃ!)
私はすぐに腰に付けていた短剣を引き抜いていった。そして潜伏状態のまま一番近くのゴブリンの背後まで近づき……そのまま短剣でゴブリンの喉元を切り裂いていった。
「ふんっ!」
―― ザシュッ!
「ぐ、ぐぎゃあああっ……!」
「ぐぎゃっ!?」
「ぐ、ぐぎゃああ!?」
一匹目のゴブリンを瞬殺した。だけど大きな物音を立ててしまったので私の潜伏状態が解けてしまった。これで私の存在はゴブリン達にバレてしまう事になる。
「ぐるぎゃあああっ!」
「ぐぎゃ、ぐぎゃああ!」
「ぐるる……ぐぎゃああああ!!」
私の存在に気が付いたゴブリン達は怒り狂った表情で一斉に私に向かって襲い掛かってきた。
だけどこの瞬間に勝敗はもう決していた。何故ならゴブリン達の攻撃が私に届くよりも前に私は詠唱を終えているのだから。
「
―― ビュンッ!
「ぐぎゃ!? ぐぐぎゃあ……!」
「ぐぎゃあああ……!?」
「ぐるぎゃあああっ……!」
私は無数の風の刃を呼び起こし、その風の刃を飛ばしてゴブリン達を一掃していった。私だって元々は冒険者だ。これくらいの魔物なら今でも簡単に倒せる。
(でもこのゴブリン達は絶対に今回の襲撃の主犯格じゃない)
ゴブリンのような下級魔物が幾ら束になってもここまで村を壊滅状態に出来るなんて到底思えない。
という事は他の上級魔物がこの村に潜んでいる可能性が高い。だから私はここにいる村人達の救助を最優先にする事にした。
「あ、ありがとうございます、助けて頂いて……」
「いえ、大丈夫です。あ、私は冒険者ギルドの職員です。この村で何があったのかは後で詳しく聞かせて貰います。とりあえず今すぐにここから避難をしましょう。この村で生き残っている方々はここにいる皆さんだけですか? 他にも生き残りはいますか?」
「い、いえ……おそらく私達が最後の生き残りだと思います……」
「そうですか……はい、わかりました。それでは今すぐにここから避難しましょう。近くに馬車を待機させていまので――」
しかし村人達の避難をすぐに始めようとしたその瞬間……。
「え? 何でゴブちゃん達死んでるのー?? あはは、誰が殺したのかなー??」
何故か私の後ろから女性の声が聞こえてきた。それはとても若そうな女性の声だった。でもさっきまで私の後ろには誰も人なんていなかったはずだ……。
「ひぇっ……」
「あ、あぁ……」
「い、いやだ……死にたくない……」
そして村人達は私の後ろにいる人物を見て恐怖の顔を浮かべ始めていった。なので私は何事かと思って後ろを振り返ってみた。するとそこには……。
「……なっ!?」
そこには非常に禍々しい両角が生えた赤髪の女性が立っていた。角が生えてる時点でコイツは紛れもなく魔族の一種だ。
そして私は忘れもしない。この特徴的な禍々しい両角にド派手な赤髪。そしてこの鋭い目つきと人を馬鹿にするような下卑た笑顔。
間違いない……この魔族の女は……。
「ア、ンネ……リーゼ……!」
「んー? どうして私の名前を知ってるのかなぁ? もしかして私のファンとか? いやゲロカスな人間のファンとか要らねぇよ! ぷはは!!」
あぁ、やっぱりそうだ……。
こいつは私の家族を全員殺した魔族の女……その名もアンネリーゼという史上最悪の魔族だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます