第48話:早急にあのゴミクズをアルフィード家に呼び戻さなければ!(父親視点)

 とある日の午後。


 アルフィード家の執務室にて。


「はぁ、全く……忌々しい事になってしまったな……」


 私は苦々しい表情になりながらそう呟いていった。


 忌々しい事とはもちろんあの“無能なゴミクズ”についての事だ。まさか陛下から恩賞を頂ける程の事をしていたなんて私は全く知らなかった。


「あのゴミクズが陛下に対して何をしたのか知らないが……しかしそんな大事な話は実の父親である私にしっかりと報告するべきだろ。はぁ、全く。そんな一般常識すら持ってなかったなんて非常に悲しい限りだ」


 陛下から恩賞を与えられる程に凄い事をしてたのなら、その事をちゃんと私に報告するべきだったはずなのに、あのゴミクズは私に報告するのを怠ったのだ。


 そしてそのせいで我がアルフィード家は公爵家へと出世する事が出来ず、王家との繋がりも得る事が一切出来なくなったなんて……こんなのどう考えても忌々しすぎる。


「はぁ、全く。こんな酷い事になってしまったのは全てセラスのせいだ。大事な話をちゃんと私に報告しようとしないなんて本当に無能なゴミクズ過ぎる」


 私はイラつきながらそう呟いていった。あのゴミクズのせいでアルフィード家の公爵家への出世の道が閉ざされてしまうなんて到底許される事ではないからな。


「まぁ仕方ない……こうなったらアイツをすぐにこの家に呼び戻すとするか」


 私はすぐに切り替えてそう考えていった。今回の件はあのゴミクズをさっさとアルフィード家に連れ戻せば全て解決するだけの話だ。


 それでゴミクズを連れ戻したらそのままジルク王の元に連れて行って表彰を受けさせて、聖女であるアーシャ嬢と婚約をして貰えば良い。そうすればアルフィード家の地位も一気に向上する事になるだろう。


「ふふ、そうなればアルフィード家は一生安泰だな」


 そして肝心のセラスの行方についてなのだが、街の馬車の業者に聞いた所、どうやらセラスは辺境の地であるウルスラ領へと旅立っていったらしい。


 確かにウルスラ領は非常にド田舎な領地だから物価もかなり安い領地として有名だ。金を持ってないゴミクズにとってはそんなド田舎に行くくらいしか選択肢がなかったのだろう。


「まぁでもあのゴミクズが生きている事がわかって一安心だな」


 これで何処かで勝手に野垂れ死んでいたりでもしたら非常に困った事になってたからな。アルフィード家のためにもあのゴミクズには早急にアルフィード家に戻って来て貰わねばならない。


 しかしあのゴミクズをアルフィード家に連れ戻すのには一つの懸念事項があった。それは何かと言うと……。


―― でもクソ親父も俺と二度と顔遭わすような事すんなよ? もし今後俺の前に現われたら……今度は寸止めなんて絶対にしねぇからな??


 あのゴミクズは実の父親である私に向かってそんな舐めた口を聞いて家から出て行ってしまったんだ。


 まぁおそらく冗談だとは思うが……しかしセラスと再会したらもしかしたら本気で私に危害を加えてくる可能性もある。だからここは慎重に対応せねばならない。


「しかし実の父親に向かってあんな口を利くなんてアイツは頭がおかしすぎる。本来ならばもっと尊敬した態度で口を聞かねばならないというのにな。親に向かって敬語すら使えないなどまるで猿ではないか」


 まぁ今はこの際セラスの口の利き方なんてどうでも良い。そんな事よりも今はセラスをアルフィード家に連れ戻す事の方が先決だ。


 そしてセラスを連れ戻す案は実はもう既に考え付いていた。その案とは……。


「ふん、まぁいい。セラスを連れ戻すのはレインに何とかして貰う事にしよう」


 それは私の妻であるレインにセラスを連れ戻してきて貰うという案だった。


 あのゴミクズはレインとだけはそれなりに交流が合ったんだ。時々レインに贈り物を渡してレインの評価を上げようとしていたくらいだしな。


 私にはレインを利用してアルフィード家に何とか取り入ろうとするゴミクズの浅ましい考えが透けて見えていたので、ゴミクズとレインの交流を見ていた私はいつも鼻で笑っていた。


 でもレインはそんなゴミクズの思惑に簡単にコロっと騙されてしまったんだ……。


 レインはセラスをボロボロな小屋に一人で住まわせるのではなく、屋敷に一緒に住まわせてあげろと何度も私に提言してくるようになってしまったんだ。


 私はゴミクズに簡単に騙されてしまったレインを見て凄くガッカリとした。しかもアルフィード家の当主である夫の私に向かって提言をしてくるなんて妻としても終わっている。


 そもそもレインは元は男爵家生まれの弱小貴族の令嬢だ。そんな弱小貴族の令嬢が伯爵家の私と結婚出来ただけで幸せな事だというのに……それなのに私と結婚して対等になったと勘違いして提言をするようになってきたなんて本当に嘆かわしい事だ。


「まぁしかし今はそんな事を気にしてる場合ではないな。今はゴミクズとレインに交流が合ったという事実を素直に喜ぶとしよう」


 という事で私はレインに命令してセラスを連れ戻すように説得して貰う事を決めていった。


 まぁそのためには今までの経緯をレインに説明しなければならないのだが……まぁでもきっとレインもすぐに納得するだろう。


 何故ならレインはこの由緒あるアルフィード家の第一夫人なんだ。だからレインだってアルフィード家が公爵家に成り上がれないなんて展開は嫌に決まっているはずだ。


 でもそれがセラスが戻って来るだけで簡単に公爵家へと大出世する事が決まっているんだから……そんなのレインだって喜んで私に手を貸してくれるはずだ。


―― コンコン……


「失礼します。旦那様」

「ん? あぁ、ルシウスか。入れ」

「はい、それでは失礼します」


 そんな事を考えていると、執務室の扉をノックする音が聞こえてきた。執事長のルシウスのようだ。


 という事で私は扉の外に立っているルシウスにそう声をかけて執務室の中に入って来て貰った。


「それで? どうしたルシウス? 何かあったか?」

「はい。つい先ほどレイン様が屋敷に帰ってきたのですが、旦那様と今すぐに話したい事があるという事でしたのでお声をかけに参りました」

「おぉ、それは丁度良い! 私もレインに話したい事があるんだ! よし、それじゃあ早速ここに連れてきてくれ」

「はい、かしこまりました」


 そう言ってルシウスは一旦この執務室から出て行った。私はルシウスがレインをここに連れて来てくれるのを待つ事にした。


(ふふ、それにしてもこれは本当に丁度良いな。それじゃあ早速レインにあのゴミクズを連れ戻すのを命令していくとしよう)


 それであのゴミクズが帰ってきたらすぐにジルク王に連絡を取って再度ゴミクズへの表彰をお願いしていく事にしよう。ふふ、これでアルフィード家はすぐに公爵家となって一生安泰になる事だろう。


―― ガチャッ


「失礼します」

「ん? おぉ、レイ……ン?」


 そんな事を考えていると執務室のドアが大きく開かれていった。


 そして私の妻であるレインがそのまま執務室の中に入ってきたのだが……何故かわからないのだが、レインの表情は思いっきり眉間に皺が寄っていた。


 その表情からしておそらくレインはとてつもなく怒っているという事はわかるのだが……でも一体どうしてレインは怒った表情をしているんだ?


 だって私はレインを怒らせる事なんて何もしてないからな。

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