第45話:目的地のウルスラ領に辿り着く

 こうして俺はアルフィード家から追放されてからウルスラ領に向かう事が決まったんだ。


 そしてさらにダグラスは無一文になっていた俺に厚意で一ヶ月分の生活費も援助してくれた。


 この資金を頼りにして俺は何とかステラと一緒にウルスラ領へと旅立つ事が出来たのであった。


 だけどウルスラ領はかなり遠い領地だったので、馬車を使ったり深い森の中を歩いて行ったりと本当に長い旅路となった。


 そしてようやく……。


「……ふぅ。ようやく着いたなぁ」

「うんうん、だいぶ歩いたねー。ここが私の新しい職場になるのかぁ」


 およそ2~3週間くらいの長い旅路を経て、ようやく俺達はウルスラ領へと入る事が出来たのであった。


 そして今はダグラスに紹介して貰った冒険者ギルドがある小さな村に到着した所だった。


 という事で俺達は早速その小さな村の中に入って行ってみた。


「おー、まぁ確かに田舎な村って感じもするけど、でもちゃんとお店も一通りありそうな感じだし、人もそこそこちゃんといる感じだね」

「そうですね。ダグラスさんの言ってた雰囲気からしてかなり過疎っている村なのかなって思ったけど、でもそんな事もなさそうですね」


 村自体は確かにちょっとだけ物静かな雰囲気を感じたけど、でも寂れている過疎村という雰囲気は全然感じなかった。


 パっと見た感じ食堂や酒場のような人が沢山来るお店はそこそこあるようだし、大きな宿屋もあるようだ。だからこの村には人の数自体はそこそこいるんだと思う。


 それにちょっと遠くには豪華な家も建てられているようだし、もしかしたら富裕層とかも住んでる村なのかもしれないな。これはしっかりとこの村の探索をしてみたい所だ。


「おや、初めて見る顔だね。お兄さん方はひょっとして旅の方かい? それとも行商人かな?」

「え?」


 村の中に入ってステラとそんな感想を言い合っていくと、唐突に後ろから声をかけられていった。


 なのですぐに後ろを振り返ってみるとそこには50代くらいのオジサンが立っていた。


「あ、いやどちらも違います。実は私達はこの村に移住しに来たんです」

「ほう? こんな辺境の村に移住しに来たのかい? はは、それは何とも珍しい御方達だ。でも若い子達が村にやって来てくれるのは凄く嬉しい事だよ。それじゃあ改めて、ようこそオルガ村へ。私はこの村の村長を務めているグラッセだ。よろしく頼むよ」

「ご丁寧にありがとうございます。私はセラス・アルフィードと言います。職業は一応冒険者です」

「私はステラ・レアフォールと申します。職業は冒険者ギルドの職員をしております」

「冒険者? ギルドの職員? あぁ、もしかして……ダグラス君が言ってたのは君達の事だったのかい?」

「え? ダグラスさんの事をご存知なのですか?」


 唐突に村長の口から冒険者ギルドの支部長であるダグラスの名前が出てきて驚いていった。もしかして知り合いなのかな?


「あぁ。実は私も若い頃は冒険者をやっていてね。それで私が中堅冒険者だった頃に新人のダグラス君の指導をしていた時期があるんだ。そしてそれが縁となってダグラス君とはずっと友人として仲良くさせて貰っているんだ」

「なるほど。村長さんも昔は冒険者をやっていらしたんですね。って、あれ? それじゃあダグラスさんから村長さんに私達の話が届いているという事はもしかして?」

「うん、セラス君の想像してる通り、私がこの村の冒険者ギルドの支部長を務めているんだ。だから私はステラ君の上司になるという事になるね。これからここのギルド運営に携わってくれるという事で非常に心強く思うよ。これからよろしく頼むね、ステラ君」

「はい、こちらこそよろしくお願い致します。まだまだ若輩者ですのでご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します」


 ステラはいつも通り柔和な笑みを浮かべながらもピシっとした態度で村長のグラッセに挨拶をしていった。


 こういうピシっとした姿を見るとステラも立派な社会人なんだなと思っていった。


「うん、こちらこそよろしく頼むよ。まぁステラ君への仕事の引継ぎなどの細かい話はまた後日するとして、セラス君もこれからはこのオルガ村で生活をするという事だよね?」

「はい、そうです」

「うん、わかった。そうなると一番最初に決めておかないとならないのは……セラス君の住む場所を見つけないとだよね。ステラ君はギルド職員だからギルドの宿舎を使う事が出来るんだけど、セラス君は職員じゃないからギルドの宿舎を使わせられないんだ。ごめんね、ギルドの規則があるから私の一存ではセラス君を宿舎に泊める事が出来ないんだ」


 村長はちょっと申し訳なさそうな表情をしながら俺にそう言ってきた。でもそんな事を言ってくれるなんて村長の優しい人柄を感じるな。


「いえ、それは全然大丈夫です。それじゃあ安い宿屋か貸し部屋などがあったら紹介して欲しいんですけど、それは頼めますかね?」

「あぁ、もちろんだよ。というかその件でセラス君に相談したい事があるんだけどさ……良かったら一軒家に住んでみないかい?」

「え? 一軒家にですか?」


 安い宿屋か貸し部屋を紹介して貰えないかと頼んでみたんだけど、でも何故か村長は一軒家に住まわないかと言ってきた。


「いや、そりゃあ一軒家に住めるなら物凄く嬉しいですけど……でも一軒家の購入ってお金が凄くかかってしまうんじゃないですか? 正直私は今はそこまで所持金はないのですが」

「いや、お金に関しては一切気にしなくていいよ。実はちょっとした訳アリ物件が一つあってね。もし君がその家に住んでくれるというのであれば……その一軒家を君に無料で贈呈するよ」

「え……って、えぇっ!? む、無料で贈呈!? ほ、本当ですか!?」


 村長のグラッセはかなり魅力的な提案を俺にしてきてくれた。無料で家を贈呈してくれるなんて所持金が全然ない俺にとっては凄く魅力的な話だ。


「で、でも訳アリ物件なんですよね? 一体どんな訳アリがあるんですか? もしかして幽霊とかが出るとかですか?」

「いや、幽霊とかそういう系の訳アリ物件ではないんだ。実はその家はとある貴族が別荘として建てられた家なんだ。それでその別荘は先月にようやく完成したので、いよいよ貴族に引き渡していくぞ……ってなった時に、その貴族は軍に逮捕されてしまったんだ」

「えっ!? た、逮捕!? 一体どんな罪で逮捕されたんですか?」

「うん。何でもその貴族は大きな“人身売買組織”に多額の援助をしていたらしいんだ。でもその組織は一ヶ月前に軍によって一斉摘発をされたらしく、その犯罪組織に加担していた人達も全員軒並み捕まったんだ。それでその別荘を建てた貴族も加担していた罪で捕まったんだけど、どうやら他にも余罪が沢山あったようで……まぁ一生牢屋からは出られないという話を軍内部の人から聞かせて貰ったよ」

「人身売買? もしかしてその組織って……ベルセルクっていう名前だったりしますか?」

「おぉ、良く知ってるね! そうそう! そのベルセルクっていう組織だよ! 軍と冒険者ギルドが協力してベルセルクのアジトを全て殲滅し、さらにベルセルクに加担していた貴族も全員捕まえたっていう話だよ。何でも軍のトップであられる剣聖殿の精確な指揮のおかげですぐにその組織の壊滅が出来たそうだ」

「なるほど、そうなんですね」


(フランツさん……もう約束を果たしてくれたなんて流石だな)


 俺はベルセルクのその後の話を聞きながら王都で再会したフランツの事を思い出していった。


 もしも今度フランツとまた会う事があったら、その時はもう一度しっかりと感謝を伝えなきゃだな。


「色々と詳しい説明をしてくれてありがとうございます。つまりその別荘の持ち主が逮捕されてしまったのでずっと空き家になっているという事ですか」

「あぁ、そうなんだ。それで軍の人達からはその別荘は村長の権限でどうするか決めて良いって言われているんだ。でもこの村に住んでる人達は既に皆持ち家を持っているから……正直あんな大きな別荘が欲しいなんていう者がいなくて困っていたんだよ。はぁ……」


 村長はちょっとだけげんなりとした様子でそう言ってきた。何だか今の言い方だと……もしかしたら結構大きな家なのかもしれないな?


「まぁそんなわけで一ヶ月近くずっと空家状態のままだったんだけど、このまま放置してても老朽化していったら危なくなるし、解体するにもお金が沢山かかってしまうから……だから誰かに住んでもらえたら私達にとっても凄くありがたいんだ。だからどうかな? 良かったらその物件を見てみないかい?」

「えぇっと、そうですね……はい、わかりました。それじゃあまずは一度その家を見して頂けますか?」

「あぁ、うん、わかった! ありがとうセラス君! よし、それじゃあ早速その家を見に行こうか!」


 という事で俺達は村長の案内でまずはその空家となっている一軒家を見に行く事にした。

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