第44話:ステラと一緒にウルスラ領に旅立つ事に

「はぁ、全く……。それで? お前も付いていくってのは一体どういう事だよ?」

「んー? いやセラス君は田舎に移住したいんだけど、その場所の冒険者ギルドは人員が足りなくて困ってるんでしょ? それなら私もセラス君に付いていってその人員不足のギルドで働けば万事解決じゃない?」

「えっ? そ、それってつまりステラさんがウルスラ領の冒険者ギルドに異動してくれるって事ですか!? いや流石にそれはちょっと申し訳なさ過ぎるんですけど……」


 俺は全力でスローライフ生活をしたいから一番の田舎な領地であるウルスラ領に行こうとしてるだけだ。


 でもそんな俺のスローライフ生活をしたいという行動に若くて将来性のあるステラも一緒に連れて行くのは流石に申し訳ない気持ちで一杯になるよな。


 だからそう思った俺は凄く申し訳ない顔をしながらそう言っていったんだけど……。


「ううん、私は別に働く場所なんて何処でも良いって思ってる方だから何も気にしなくていいよー。それに私がずっと面倒を見てきた後輩冒険者かつ可愛い弟分のセラス君が困っているっていうんならさ、私は幾らでも力を貸すに決まってるよ!」

「ス、ステラさん……」


 でもステラはいつもと変わらず柔和な笑みを浮かべながら俺に向けてそう言ってきてくれた。


 実は俺が冒険者になったばかりの頃、まだまだ新人だった俺に色々と指導をしてくれたのがこのステラだった。年齢が近かったからという理由でダグラスが俺にステラを紹介してくれたんだ。


 それで新人だった俺は当時冒険者だったステラの後ろについて冒険者としての基礎知識だったりとか稽古をつけて貰ったりする日々を送っていた時期があった。


 だから俺が冒険者としてちゃんと成長できたのはこのステラの指導のおかげと言っても過言ではない。


 そしてそれから少し経ってステラは冒険者を引退して冒険者ギルドの職員になったんだけど、それからもステラは元冒険者の先輩として俺の事を色々と気にかけてきてくれていた。


(支部長のダグラスといい、職員のステラといい、この街の冒険者ギルドの人達は本当に優しい人達ばかりだよな)


 俺はそんな新人冒険者だった頃の思い出を頭に思い浮かべながらもステラの優しい表情を見つめていった。


 するとその時、今度はダグラスがちょっと困った表情をしながらステラにこう言っていった。


「いや、そりゃあステラがあっちの冒険者ギルドに移籍してくれるんなら今悩んでる事は全部解消するけどよぉ……でもステラもウルスラ領に異動するって本当に良いのかよ?」

「え? どういう事? 支部長?」

「いや、まぁハッキリと言っちまうけどさ……あっちの冒険者ギルドがある村ってかなりの田舎だぞ? セラ坊主やステラみたいな若いヤツが行っても楽しい娯楽施設とかほぼ何にもねぇぞ? そんな所に異動するって本当に良いのかよ?」

「あぁ、うん、もちろんそんなの全然構わないよ。というかここからはセラス君の先輩兼お姉ちゃん目線の話じゃなくて冒険者ギルドの職員目線で話すけどさ……このままセラス君を逃すなんて明らかに勿体ないでしょ?」

「え?」


 ステラがそう言うとダグラスはキョトンとした表情を浮かべ始めていった。


 そんなキョトンとしたダグラスの様子を見てステラは腰に手を当てながら説明口調でこう続きを喋っていった。


「だって考えてみてよ? セラス君はこの数年間で冒険者ギルドに大きな利益を生み出してくれた凄すぎる男の子なんだよ? それでまぁ今回は残念ながらアルフォンス領から出て行く事になるらしいけど……でもこれからもセラス君は冒険者ギルドに回復薬を売買しても良いって言ってくれてるんだよ? 回復薬なんて需要が凄くあるんだから冒険者ギルド以外のお店とかでも余裕で買い取ってくれるのにさ……それでもこれからも冒険者ギルドに売ってくれるって言ってくれてるんだよ? こんな事を言ってくれる超太いお得意様は絶対に手放したら駄目でしょ。冒険者ギルドは無償で働く慈善団体じゃなくて普通の営利目的でやってるんだからさ。だから冒険者ギルドの利益増大のためにも職員の私達で動ける所はしっかりと動いといた方が良いでしょ?」

「あ、あぁ、まぁなるほどな。それは確かにステラの言う事は一理あるが……」


 ステラの言った事に対してダグラスは深く頷いていった。しかしダグラスはすぐに渋い顔をしながら続けてこう言ってきた。


「だがしかし……そう言う事ならセラ坊主の移住にわざわざステラが付いていく必要はないんじゃないか? それなら別に他の職員でも良いだろ?」

「え? 何で私じゃ駄目なの?」

「いや別に駄目ってわけじゃねぇけどさ……でもステラだってそろそろ年齢も良い頃合いだろ? ほら、お付き合いとか結婚とか……お前もそういうの考える時期に入ってるだろ? それなのに爺様や婆様ばかりの場所にいったらその……出会いとかが無くて困ると思うぞ?」


 ダグラスは心配そうにしながらステラにそう言っていった。まぁつまりダグラスはステラが行き遅れになるんじゃないかと心配してそう言ってきたんだ。


「んー? って、あぁ、そういう事か! あはは、別に良いよ良いよー! 冒険者なんていつ死んでもおかしくない危険な仕事を始めた時点で結婚とかそういうのはもう考えてないからさ。だけどもし私の気持ちが変わって結婚がしたくなったとして、周りに結婚相手が誰もいなくて悲しい感じになったとしたら……まぁその時はセラス君に嫁に貰ってもらうから大丈夫だよー!」

「え……って、えぇ!? お、俺が?」

「うん、そうそう! あ、でももちろんあれね? 正妻は色々とやる事があって大変そうだから第四夫人とか第五夫人くらいでお願いね? 自由が沢山保証されてないと私は辛くて結婚から逃げだしちゃうかもだからさ! なんてね、あはは!」


 ステラはそう言ってケラケラと笑いだしていった。どうやらいつもの冗談めいた軽口のようだった。なので俺も笑いながらその軽口に乗っかっていった。


「あはは、そうですね。それじゃあ俺が五人くらい簡単に養えるくらいの金を稼げるようになったらステラさんに結婚を申し込ませて貰いますよ」

「おー! 言ったねー? もう言質取っちゃったよー? あはは、それじゃあセラス君がそれくらいお金が稼げるようになった時に私がお婆ちゃんになってたとしても絶対に結婚して貰うからね? 結婚指輪はちゃんと高級な宝石が付いてるヤツで頼むよー??」

「はい、もちろんですよ。逆にステラさんこそ、俺がヨボヨボなお爺ちゃんになってても絶対に結婚して貰いますからね? だからちゃんとステラさんも長生きしてくださいよ?」

「おー、良いね良いね! お爺ちゃんお婆ちゃんになってから結婚するとかすっごくエモいねー。それじゃあ結婚したら一緒に庭先でお茶でも飲みながら毎日日向ぼっことかしようね!」

「それは良いですね。それじゃあさらにペットで猫とか犬も沢山飼って毎日モフモフとしながらノンビリと癒された生活を送りましょう」

「おー、それ良いね! 採用採用! あはは、お爺ちゃんになったセラス君と毎日一緒に猫ちゃんをモフモフしながら過ごせるなんて最高な老後だねー!」


 という事でそんな感じで俺達は一緒に笑いながら冗談めいた軽口をずっと叩き合っていった。


 そしてそんな軽口を続けている俺達の様子を見てたダグラスは苦笑しながらこんな事を言ってきた。


「……はは。お前達は本当にいつも凄く息がピッタリで仲が良いよな。それに前々から思ってたけどお前達って何だか本当の姉弟みたいだよな」

「あはは、そりゃあ私はセラス君と出会ってからずっと実の弟のように優しく接してきたからね。だから息がピッタリなのも当然でしょ。ね、セラス君?」

「はい、それはもちろん。ステラさんの指導のおかげで今も冒険者を続けられてるようなものですし、本当に頼りになるお姉さんですよ」


 俺達はそう言いながら仲の良さをダグラスにアピールしていった。


「はは、そっかそっか。まぁそうだよな。セラ坊主と一番仲の良いギルド職員はどう考えてもステラだよな。そんなステラがセラ坊主に付いていってくれるのが一番ベストな選択肢に決まってるよな。あぁ、わかったよ。それじゃあ二人とも決心が付いているんなら、俺の方で二人の紹介状をウルスラ領のギルドに書いてやるよ」

「本当ですか!? はい、ありがとうございます! ダグラスさん!」

「うん、ありがとう、支部長! ふふ、それじゃあ改めてだけどこれからもよろしくね、セラス君!」

「はい、こちらこそ! これからもよろしくお願いしますね、ステラさん!」

「うん、こちらこそ!」


 そう言って俺とステラはギュッと固い握手を交わしていった。


 という事でこうして俺とステラは一緒にアルフォンス領からウルスラ領へと旅立つ事が決まったのであった。

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