第43話:一方その頃俺はというと……

 ジルク王と対面してクソ親父の顔がどんどんと青くなっていってるその頃、一方で俺はというと……。


「……ふぅ。ようやく着いたなぁ」


 一方その頃の俺はというと、ノンビリと歩いて北西部に位置するウルスラ領へとやってきた。今はウルスラ領にある小さな村に到着した所だ。


「うんうん、だいぶ歩いたねー。ここが私の新しい職場になるのかぁ」


 そしてこの旅路にはアルフォンス領から仲間が一人付いてきていた。若い女性だった。その女性は柔和な笑みを浮かべながら俺に向けてそんな事を言ってきた。


 彼女の名前はステラ・レアフォール。年齢は十九歳で身長は160センチくらいのスレンダー体型。見た目は明るい髪色のショートヘアで可愛らしい顔付きをしている。


 そして誰に対しても笑みを浮かべながら優しく接してきてくれるので、とても愛嬌のある可愛らしい女性として街中の男達からとても高い人気を集めていた。


 でもそんな可愛らしい見た目に反してステラの職業は冒険者ギルド職員をやっている。冒険者ギルドの職員になれるのは冒険者を経験した事がある者だけだ。


 という事はつまりこの可愛らしいステラも少し前までは命の危険と隣り合わせだった冒険者をやっていたという事だ。


 そして何で追放された俺が冒険者ギルドの職員と一緒にウルスラ領までやって来たのかというと、実は少し前にこんなやり取りがあったからだ……。


◇◇◇◇


 クソ親父から追放命令が下ったその日の午後。


「は、はぁっ!? アルフィード家から追放されただって!? さらにアルフォンス領からも出禁!? しかも所有物と所持金を全部燃やされただぁ!?」

「はい、そうなんです」


 とりあえず俺は追放されてからすぐに冒険者ギルドに立ち寄って支部長のダグラスに報告をしていっていた。


「いや何でセラ坊主が追放されるんだよ!? しかも処罰があまりにも重すぎるじゃねぇか!! 何かヤバイ犯罪をやっちまったとか、そんなわけじゃないだろ? 一体どんな理由で追放されちまったんだ??」

「はい、もちろん犯罪なんて絶対にしてないですよ。まぁ追放理由に関しては……一言でいうなら家庭の事情ってヤツですかね?」

「か、家庭の事情!? いやそれは流石におかしいだろ! 貴族の家の事情がどんなもんか知らんが……だが実の息子を無一文で追放するなんて親として最低過ぎるだろ!!」


 ダグラスは俺のために物凄く激昂しながらそんな事を言ってきてくれた。やっぱりこの人は凄く人情味がある優しい大人だな。


「この件については冒険者ギルドの方から正式にアルフィード家へ抗議を送ってやる! セラ坊主がこの街にどれだけ貢献してくれてるかってのを書面にしてやれば流石に文句なんか言われるはずねぇよ! だからセラ坊主は安心してくれ! すぐにアルフィード家に戻れるようにしてやるからな!」

「あぁ、いや、抗議なんてしなくて良いですよ。僕は何も気にしてないですしね」

「え……って、え?」


 俺がそう言うと、激昂していたダグラスは一転してキョトンとした表情を浮かべ始めていった。


「こ、抗議をしなくて良いって……ほ、本当に良いのか? セラ坊主だって辛いだろ? こんな理不尽な目に合ってるというのに……」

「いえ全然です。僕はもうこれからの人生を全力で楽しんでいく事に切り替えていきましたので。だから辛い気持ちにもなってないのでダグラスさんもそんな心配しなくて大丈夫ですよ」

「え? そ、そうなのか? まぁ、セラ坊主が大丈夫だって言うのなら俺もその意思は尊重するけどよ……でもこれからどうすんだ? アルフォンス領からも出禁を食らったんだろ? そうなるとセラ坊主はこれから何処に行くつもりなんだ?」


 ダグラスは渋い顔をしながら俺にそんな質問を投げかけてきた。


「はい。とりあえず北西部にあるウルスラ領を拠点にしてしばらくはそこで活動しようと思ってます」

「ウルスラ領? あそこは森と海に囲まれていて凄く田舎な場所だぞ? どうせだったらもっと都会な領にいった方がいいんじゃないか?」

「いえ、僕としては都会よりも人の少ない田舎の方が身に合ってるんでそっちで大丈夫です」


 俺はダグラスに向かってそう言っていった。


 もう王都の貴族学園に通って同世代の子達と楽しいラブコメ展開になる事は無さそうなので、ここからは全力でスローライフを楽しむと俺は決めていったのだ。


(それならウルスラ領が一番最適だよな)


 何故ならウルスラ領は自然がとても多くて人の少ない田舎な地域だからだ。このアルフォンス領もそこそこ田舎だと思うけど、ウルスラ領はそれよりももっと田舎な領地だ。


 だからそんな人の少ない領地でノンビリと余生を過ごすのも良いだろうと思って俺はウルスラ領に行く事を決めていったのだ。


(まぁ今は無一文だからしばらくはスローライフな生活は出来なそうだけどな)


 今の俺の金も貴重品も全て失ってしまったのでスローライフな生活は少しだけお預けとなる。


 でも俺が調合で作れる回復薬はそれなりに需要があるから素材が集まったらすぐにまた金を稼げるだろう。という事で俺はダグラスにこんなお願いをしていった。


「あ、そうだ。それでウルスラ領に行った後も回復薬の買取を冒険者ギルドにお願いしたいんですけど、ダグラスさんの方でウルスラ領の冒険者ギルドに紹介状とか書いて頂く事は出来ませんか?」

「あぁ、そんなのもちろん良いぞ。あ、でもよ……ウルスラ領の冒険者ギルドって人員がかなり少なくて職員も年寄りの爺様と婆様しかいねぇんだよな。だから今まで通り沢山のポーション薬を一気に買い取って貰うのは難しいかもな……爺様と婆様達だけじゃあお前さんが持ってくるあの大量の回復薬は捌き切れねぇよ」

「え? ウルスラ領の冒険者ギルドってそんなに職員が少ないんですか?」

「あぁ、あそこら辺の地域には大きなダンジョンとかもないし全体的に田舎過ぎて冒険者の需要が全然ないんだ。だから必然的に冒険者ギルドの需要も全然ないから人員もかなり少ないんだよ」

「あぁ、なるほど」


 確かにそう言われてみればゲーム本編でも冒険者の主人公がウルスラ領に訪れる事はほぼ無かったっけ。サブイベントのお使いイベントで何回かウルスラ領に行くくらいだったしな。


 でもそうなるとちょっと困るな。俺は今無一文な状態だからしばらくは回復薬を沢山作って買い取ってもらいたいんだよなぁ。


 うーん、それじゃあ少し残念だけど今回はウルスラ領じゃなくてもう少し都会な領地に行った方が……。


「ふぅん? あ、それじゃあさ、良かったらセラス君のウルスラ領移住に私も付いていこっか??」

「え……? って、う、うわっ!? ス、ステラっ!?」

「え? あ、ステラさん。お久しぶりですね」


 俺とダグラスがそんな話をしていると急に後ろから声をかけられたので、俺達は後ろを振り返ってみた。


 すると俺達の真後ろには背中に身体がくっ付いてしまいそうな程の超近距離にギルド職員のステラ・レアフォールが笑みを浮かべながら立っていた。


 どうやらステラは俺達にバレないように思いっきり気配を消していたようで、ステラが声をかけて来るまで俺達はステラの存在に全く気が付いていなかった。


「うん、こんにちはーセラス君。そうだね、大体一週間ぶりくらいかな? 王都旅行は楽しかった?」

「いや王都に旅行に行ってたわけじゃないんですけど……はい、凄く楽しかったですよ」

「うん、そっかそっか! それなら良かったよ!」


 俺はステラにそう挨拶をしていくと、ステラはいつも柔和な笑みを浮かべながら俺に挨拶を返してきてくれた。


「お、おい、ステラ。もしかしてお前……俺達の話をずっと聞いてたのか?」

「うん、もちろん。何か支部長が唸り声を上げてたから何話してるのかなーって思ってちょっと気になっちゃったんでついつい盗み聞きしちゃいました。えへへ」

「お、おいおい……そんな可愛く笑った所で盗み聞きは悪い行為だからな? というかそんな気配を完全に殺して俺達の真後ろに立ってんじゃねぇよ……マジで心臓が飛び出るかと思ったじゃねぇか」

「あはは、そりゃあ私は元々は凄腕のシーフだったんですからね? 支部長に気づかれる事なく背後を取るなんて朝飯前ですよー」


 上司のダグラスに怒られながらもステラはケラケラと笑いながら完全に受け流していっていた。


 実はこの可愛らしいエリスは元冒険者であり、現役の頃は凄腕のシーフとして色々なダンジョンを攻略をしていたらしい。


 まぁでもシーフなんて言ってしまうと“盗賊”とか“泥棒”とか、そういう悪者な意味でのシーフだと思われてしまうかもしれないな。


 でもステラが言っているシーフというのはダンジョンで鍵のかかった部屋や宝箱をサクっと開けたり、魔物や敵が所持してるアイテムを奪い去ったりする事が出来るサポートジョブの事だ。


 実際にゲーム本編でも宝箱が落ちてるマップとか、レアアイテムを所持してるボスユニットがいるマップとかではシーフのキャラを大重宝する事になったよな。


 はは、それにしても何だかゲームの事を思い出すと凄く懐かしい気分になるよなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る