第42話:何とか誤魔化していったんだけど完全に失敗した……(父親視点)
「せ、セラス? って、あっ! もしかしたら陛下は勘違いをしていらっしゃるのではないでしょうか?」
「うん? どういう事だ?」
「確かに我がアルフィード家には二人の息子が存在しています。兄はセラスで弟がシュバルツと言うのですが、優秀なのは弟のシュバルツの方なのです!」
「ふむ? シュバルツ……あぁ、シュバルツ君も試験では相当優秀な成績を収めていたと聞いているぞ。確か魔術適正がSランクだったらしいな」
「はい、その通りです! 陛下のおっしゃる通りシュバルツはとても優秀な子なのです!」
(あぁ、なるほど、そういう事か!)
私はそこでようやく理解した。
おそらく今回の入学試験でシュバルツは史上最高得点を取って主席合格をする事になる。だからシュバルツは非常に優秀な生徒として国王陛下から表彰を承る事になったんだな!
(はは、流石は私の自慢の“一人息子”だ!)
あんな無能なゴミクズと違ってシュバルツは若くしてアルフィード家の発展に貢献してくれるなんて本当に素晴らしい限りだ!
やはりシュバルツさえいればこれからのアルフィード家は安泰だな!!
「あぁ、噂によると凄く優秀な弟のようだな。しかし今は弟のシュバルツ君ではなく兄のセラス君の表彰についての話をさせて貰えないだろうか?」
「いえ、ですから先ほど申した通り国王陛下は勘違いをされています! 表彰されるべきはどう考えても兄のセラスなんかではなく弟のシュバルツです! はっきり言ってシュバルツの方がセラスなんかよりも圧倒的に優秀な息子なのですから! そもそもあんな無能なゴミクズが国王陛下から表彰などされるわけ――」
「無能なゴミクズ?」
「え……?」
―― ピキッ……
私がそう言ったその瞬間、周りが一瞬にして凍り付いた。周りの軍人達も恐ろしい目つきで私の事を睨みつけてきた。な、何だこれは?
「え、えぇっと……」
「ジョルノ殿は実の息子に対して“無能なゴミクズ”などと呼称しているのか?」
「え……あっ!? い、いや、そ、それはその……違います! こ、これはあれでございます! 愛を込めた躾なのです!」
「躾?」
「えぇ! セラスは生まれつき魔力量が0だったので魔術が使用する事が出来なかったのです。ですが我々は魔術の名門たるアルフィード家ですので、幾ら魔力量が0と言えども息子のセラスには毎日魔術訓練を指導しておりました。そして由緒あるアルフィード家に生まれた者として早く一人前の貴族になって貰うためにも、私はその訓練中にセラスの事を厳しく叱責したり“無能なゴミクズ”と呼称する事が時々ありました。ですが普段の生活においてはそんな酷い呼称で呼んだりした事は決してありません! あくまでも魔術訓練で厳しく指導しなければならない時にしかそんな呼称は使っていません! ですから今日はたまたまうっかりとそう呼んでしまっただけなんです!」
「……」
何故かわからないが、セラスの事を悪く言ったら……私が大変な事になるような気がした……。
だから私は慌てて保身をかけつつ全力で自己弁明をしていった。
「……セラス君の魔力量が0だと聞いた時に、もしかしたらそのような事が起きてるのではないかと心配はしたが、まさか本当に起きてたなんてな……はぁ、まぁ良い」
「? な、何がでしょうか?」
「いや、ジョルノ殿は気にしなくて良い。それで先ほどの話に戻るのだが、表彰については私の勘違いは決してない。セラス君を表彰するのは既に決定事項だ。そしてジョルノ殿には是非ともその生誕祭で我々王族や貴族の面々にセラス君の紹介を紹介して欲しいんだ。もちろん受け入れてくれるよな? ジョルノ殿?」
「え……って、えぇっ!?」
何故かわからないが、セラスはジルク王から表彰を受けるのが確定らしい。本当に意味がわからない……って、い、いやでも待てよ!?
(ま、待ってくれ……セラスはもうアルフィード家にはいないんだぞ!?)
セラスは数日前に私がアルフィード家とアルフォンス領から追放してしまった。だから今のアイツが何処にいるかなんて私は知らない。
しかも個人的にはさっさと死んでほしいと願っていたので金も一切渡さずに叩き出していってしまった。
だから今もセラスがちゃんと生きているかどうかなんて保証は……全くない。
(ま、まずいぞ……この事をジルク王に伝えたら……どんな事になるか……)
私がセラスを追放してしまったなんて事を素直に陛下にお伝えするのは絶対にダメだ……。
国王陛下が表彰しようとしてた人物を私は役立たずだからという理由で既に追放してしまったなんて……こんなのがバレたらどう考えても私の一生の恥になってしまう!
しかもそんな事がバレてしまったら私は国王陛下に泥を塗った愚かな馬鹿男だと、周りの貴族達から一生の笑い者にされてしまう事だろう。
(そんなのは……到底許せない!)
由緒あるアルフィード家は誰からも尊敬のまなざしで崇められなければならない存在なんだ! 笑われ者になんて絶対になるわけにはいかないんだ!
だから私は知恵を振り絞って何とかこの状況から責任を逃れられる方法を全力で考えていった。
「え、えぇっと、それはその……」
「ん? どうした? ジョルノ殿?」
「あ、い、いえ、それはその……じ、実は大変伝えにくいのですが……セラスは今はもうアルフィード家にいないのです……」
「? いないというのはどういう事だ? 旅にでも出ているという事か?」
「い、いえ、そういう事ではありません。じ、実はその……セラスはアルフィード家に生まれてから今日までずっと自身が魔術が使えない事をとても悩んでいました。そして今回の入学試験の魔術測定で史上最低得点を叩き出してしまい……セラスはその事でアルフィード家に泥を塗ってしまったと非常に悔やんでおりました。そしてその結果……セラスはアルフィード家に泥を塗った責任を自ら取るという事でアルフィード家の性を捨てて家から出て行ってしまったのです!」
「な、なんだと!?」
「なんですって!?」
私は苦し紛れにそんな言い訳じみた嘘を付いていくと、ジルク王だけでなく周りにいた兵士の一人も驚いた表情を浮かべ始めていた。
確かこいつは……そうそう。フランツと言う軍人だったはずだ。
そしてそフランツは驚いた表情のまま私にこんな事を聞いてきた。
「そ、それでジョルノ殿はどうしたんですか? まさか血の繋がった実の息子が家を出て行く事を認めたわけじゃないですよね?」
「いえ、もちろん認めました。何故ならセラスの言う事は当然一理あるからです。セラスがアルフィード家の泥を塗ったのは事実なのですから。だから私はセラスの贖罪をしたいという覚悟をちゃんと受け取ってセラスがアルフィード家を去るのを許可しました。ですからそれ以降のセラスの足取りは……私にはわかりません」
「足取りがわからないだって!? 今後セラス君と連絡するために従者や護衛などは付けていったりはしなかったのですか?」
「はい、そのような者は一人も付けておりません。去る者は追わずが我がアルフィード家の家訓なものですから」
「なっ!? ま、待ってください! まだ彼は十六歳の少年ですよ!? それなのにアルフィード家から急に出て行かせて、これからは一人で勝手に生きていけなんて言うなんてあんまりじゃ――」
「そこまでだ、フランツ。事を荒立てるのはお前の悪いクセだぞ」
「っ!? 失礼しました。陛下」
「ジョルノ殿も大変失礼した。私の部下が大きな声を出してしまって迷惑をかけてしまったな」
「いえいえ、何も問題はありません。陛下」
ジルク王はフランツを制止しながら私に向かって謝罪をしてきてくれた。どうやらこれは……耐えたという事か?
「うむ、そう言ってくれて助かる。それでは改めて話を整理させてほしいのだが……セラス君は既にアルフィード家から籍が抜かれており、家を飛び出ていってしまった。そして今現在セラス君が何処にいるかは誰も知らないという事で合っているか?」
「は、はい! その通りです、陛下!」
「うむ、わかった。セラス君が既にアルフィード家から籍を抜いて何処かに去ってしまったというのであれば……ふむ、それじゃあ仕方ないな。今回は非常に残念だがアルフィード家に対する表彰は中止にさせて貰う事にする」
「はい、わかりました。とても残念ですが……そればっかりは仕方ないですね」
(……た、耐えたー!!)
という事で何でセラスが表彰される事になっていたのかは結局わからなかったんだけど、でもとりあえず今回のセラス追放の件については何とか有耶無耶にする事が出来た。
アルフィード家の表彰がなくなるのは非常に辛いが……しかし、表彰されるはずのセラスを現当主である私がそんな事も何も知らずに追放してしまったなんて恥ずかしすぎる痴態を世間に露呈するわけにはいかないからな。
まぁそれに無能なゴミクズが表彰されるなんて事はどうせ大した内容じゃないはずだ。それなら逆に表彰をされない方が良かったまであるな。はは、どうせ無能なゴミクズの表彰状など我々にとっては何の価値もないゴミ同然だろうしな!
あはは、それなら良かった良かっ――。
「あぁ、それとセラス君には私が後見人となっている聖女のアーシャとの縁談を前向きに考えていたのだが……これは完全に白紙にさせて貰うぞ?」
「はい! わかりま……えっ?」
無能なゴミクズを内心で馬鹿にしながらほくそ笑んでいると……唐突にジルク王は意味がわからない事を仰ったような気がして、私はすぐにキョトンとした表情を浮かべていった。
「それと今回のセラス君への表彰をもってアルフィード家は公爵家へと陞爵をするつもりであったが……それに関しても完全に白紙にさせて貰う。もちろん良いな? ジョルノ殿?」
「え……って、えっ!? え、えぇえええええっ!?」
陛下からそんな言葉を貰った私はあまりにも驚愕としてしまい思わず大きな声を上げていってしまった。
まさか無能なゴミクズが表彰を受けるだけでアルフィード家にそんな沢山の褒賞を貰えるなんて想像もつかなった。というかむしろ……。
(聖女との婚約!? アルフィード家が公爵家に大出世!? こんなのあり得ないだろ! は、破格過ぎる恩賞じゃないか!!)
そんな凄まじい恩賞の数々を国王陛下から貰えた者など私は今まで生きて来て一度も見た事がなかった。それほどまでに今陛下が仰った恩賞はあまりにも破格過ぎる恩賞だったのだ。
そしてこの瞬間……私は選ぶべき選択肢を大きく間違えていた事に今になってようやく気が付いたのであった……。
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