第三章:義理の姉と魔王軍幹部(17歳)

第40話:とある魔族の独り言(アンネリーゼ視点)

「はぁ……」


 私はため息をつきながら瓦礫の上に座り込んでいった。私はたった今とある小さな村を壊滅させた所だった。


 私の名前はアンネリーゼ・ブラームズ。魔物達ペットを使役して戦う魔族の女だ。


 私が生まれたブラームズ家というのは代々続く由緒ある魔族の家系だ。先代の勇者との戦争の時にも魔王軍の幹部としてブラームズ家は勇者達と何度も戦ってきた。


 そしてその戦争で魔王が亡くなった今……我々魔族は新しい魔王を選別するための話し合いを何度も行ってきた。


 そしてその結果として今代の魔王には私が選ばれる事になっていた。由緒あるブラームズ家としてそれはとても誇りある事だった。それなのに……。


「くそ……本当なら私が魔王になるはずだったのに……!」


 それなのに……今からちょうど一年程前に、私ではない他の魔族の女が新しい魔王として選ばれてしまったのだ。理由は恐ろしく強い魔族だからだそうだ。噂では先代の魔王よりも遥かに強いらしい。


 でもその魔族の女は異世界からやって来たらしく元々この世界の住人ではないんだ。だから私はその新しい魔王に猛反発をしていった。


 この世界の住人でない奴に魔族の王を名乗らせるなんて由緒あるブラームズ家に生まれた者としては到底許せなかったからだ。


 だから私はその異世界からやってきたという魔族の女を殺すつもりで決闘を吹っ掛けた。でもその結果は私の惨敗だった。


 異世界からやってきた魔族の女に私は傷一つ負わせる事もなく圧倒的にやられてしまったんだ。


「……くそっ、今思い出しても腹立たしい! あのゲロカス女が……!!」


 あの女の使う魔術はとにかく異常だった。使ってくる魔術はそこらへんの子供でも使えるような簡単な“氷魔術”だったのに……威力が恐ろしいレベルで段違いだった。


 その異常ともいえる氷魔術のせいで私の使役していた魔物達ペットは一瞬で氷漬けにされてしまったし、私自身もあの時にすぐ降参していなかったら、今頃は氷漬けにされて半永久的に冬眠させられていたに違いない……。


 そんな由緒あるブラームズ家の惨敗もあって、この世界に存在する魔族達は誰もその新しい魔王の誕生を反対する事はしなかった。


「くそっ、くそっ……!」


 私はその時の事をまた思い出してしまい苛立ちながら地面を何度も蹴り上げていった。一年も前の出来事なのに未だに腹の虫が収まらない。


「……ぅ……うぅ……」

「……あん?」


 と、その時、私の近くから呻き声のようなものが聞こえてきた。私はその呻き声が聞こえた方に目を向けていった。


「や、だ……死にだく……な……い……」

「くっ……る、じ……」

「うぅ……う゛っ……」


 そこには全身を大蛇に巻きつけられて苦しんでいる人間が何人かいた。コイツらはこの村に住んでいた生き残りだ。


 ちなみにコイツらに絡まっている大蛇は私の使役する魔物達ペットの一つだ。


「んー? あらあら、皆して可愛い声を上げちゃってるじゃん? ふふ、すっごく楽しそうだねぇ?」


 人間達の呻き声を聞いていると私の苛立った気持ちがすぅーっと解消されていく感じがした。やっぱりストレス解消は人間の呻き声が一番良いよね。


 って事でこの小さな村を滅ぼそうとした理由はいくつかあるんだけど、その一つには私のストレス解消のためという理由があった。


―― ギリ……ギリギリッ……!


「ぐっ……が、はッ……!?」

「い、息が……でき、な……がっ……!」

「や、めで……くるじ……」


 すると私の楽しそうな顔を見てペットの大蛇達は巻き付く力をさらに強めだしていった。その瞬間、人間達の呻き声はさらに大きなものになっていった。


「あはは、ちょっと駄目よー。カー君にミー君もさぁ……もっと優しく締め付けてあげなさいな……」


 私はペットの大蛇達カー君とミー君に向かってそう言ってあげた。まぁ言った所で力を緩めるわけないんだけどさ。


 ふふ、それにしても人間ってさぁ……私達魔族とは全然違って身体がとても柔らかいから締め上げがいがあるんだよねぇ。それに良い声で鳴いてくれるしね。


 ふふ、それでさぁ、コイツらを優しくこうやって締めあげていくとさぁ……こう色んな“穴”からぴゅっぴゅって色々な体液を可愛らしく出していくんだよねぇ。それが本当に本当に可愛らしくてもう一生見てられるんだよねぇ……。


「ま、すぐ死んじゃうから一生なんて見てられないんだけどさぁ、あはは!」


―― ごぽ……ごぽごぽ……


 そんな事を笑いながら呟いていると、目の前の人間達は色々な“穴”から血液などの体液がどんどんと外に吐き出されていった。


「ふふ、皆ぴゅっぴゅって色々なの沢山出してるねー。いいよいいよー! ほらほらぁ、もっと沢山出しちゃって良いからねー、皆ぴゅっぴゅって飛び出しててとっても可愛いよー」


―― ギリッ……ギリギリッ……


 私がそう言ってくと大蛇達はさらに力を入れて人間達の全身を締め上げていった。途中で骨がミシミシと軋んでいる音も鳴り響いてきたけど、うん、まだまだ大丈夫! 君達はまだ元気だよー、ふふ。


「ほらほら、頑張れ頑張れぇ!」

「や、やだ……死にだくな……」

「く、るじ……だ、す、け……」

「おか、あ、さ……ご゛ほ゛っ゛……」

「……えっ? ……って、あぁっ!?」


―― ビチャッ……ビチャビチャッ!


 せっかく私は皆の事を応援してあげてたのに、その時突然と一人の人間が盛大にむせだして口から大量の血を吐き出してきた。そしてその血が私の衣服に付着していった。


「は、はぁ!? これ私のお気に入りの服なのに……テメェマジでふざけんなよ!!」

「ぇ……ぐふっ……! や、やめ、て、くだ……ぐはっ……!」


―― バキッ……グシャッ……バキッ……


 私は血をかけてきたその人間の顔面を全力で何度も殴った。殴った手にも人間の血がついてしまったけど……そんな事よりもイラつきの方が勝っていたので、私は気にせず何度も全力で殴打した。


―― バキッ……グシャッ……バキッ……


「ぅ゛……ぁ゛……ぁ……」

「はぁ……はぁ……って、あれ?」


 まだ10発も殴って無いのに人間の反応が無くなってしまった。


 呻き声があった方が殴りがいもあってストレス解消に良かったんだけど、でもそれがなくなってしまったらただのサンドバッグだ。私にはサンドバッグを殴る趣味なんてない。だからもういいや。


「……はぁ、もういいや。今すぐ死んで」


―― パチンッ!


「えっ? や、やだ、死にたく――」

「ぇ……ぁ、待っ――」


―― グシャッ!


 私が指をパチンと鳴らすとペットの大蛇達は力を思いっきり込めて人間達の身体を絞り上げていった。その結果一瞬で人間達はペシャンコに潰されていった。


「……うん、もういいわ、開放してあげなさいな」


 私はもう一度指を鳴らしながら大蛇達にそう命令をした。


 すると大蛇達は人間達に巻き付いていた身体をゆっくりと解いていき、人間達……だった“物”を開放してあげた。


「ぷ、ぷぷ、皆さっきまであんなに元気だったのに……ペチャンコになっちゃって可哀そうだねぇ。ぷぷぷ……」


 さっきまで皆元気に生きてた普通の村人達だったのに……大蛇達に全力で搾り上げられたおかげで、“普通の村人”だったのが“何だかよくわからないグチャグチャになった固形物”に変わってしまった。


 ふふ、“人”から“物”に変わっちゃうなんて本当に可哀そうだねぇ……。


「うんうん、でもこれくらいペチャンコで小さいとカー君もミー君も食べやすいでしょ? ほら、それじゃあ皆のご飯だよー。沢山食べて大きくなりなさいねー!」

「シャァアッ!」

「ギャァアアッ!」


 私はそう言って、“さっきまで人間だった固形物”をペットの大蛇達に食べさせていった。人間って魔力を含有しているからペットの魔物にとっては上質な餌なのよね。


 という事でこれが村を襲っていた一番の理由だった。つまり私はペットの大蛇達に餌を与えるために村を襲撃していったんだ。


「ふふ、美味しいかしら? 皆沢山食べてどんどんと成長していくのよ……あのクソ女に復讐するためにも、ね……」


 そして私が大蛇達に餌を沢山あげてる理由は、もちろんあの新しい魔王クソ女に復讐するためだ。


 あの女を今度こそ確実にブチ殺すためにも、私は使役している魔族達ペットの成長を急いでいた。あの女を早い内にブチ殺さなければ私の気が済まないんだ……。

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