第39話:アーシャと久しぶりに楽しく話していく(国王視点)

 とある日の朝。


「おじい様! お元気になられたんですね!」

「あぁ、心配かけてすまなかったね、アーシャ。フランツにも今まで迷惑をかけてしまいすまなかった」

「いえ、迷惑なんて全然ですよ。それよりも師匠が元気になられて本当に良かったです」


 今日は親友の孫娘であるアーシャと、私の剣士の弟子であるフランツの二人を招いて家の庭先で簡単なお茶会を開いていた。


 実はここ数年間私はずっと病床に伏せていたのでアーシャ達とは全然会えてなかったんだ。だからこうやって三人でお茶会を開くのは本当に久々だった。


「ふふ、それじゃあアーシャはここ最近で何か楽しい話とかあったかい? 良かったら私が病気の間にあったアーシャの楽しい話を沢山聞かせて欲しいな」

「はい! つい先日の事なんですけど、五年振りに私の大好きなお友達と再会する事が出来たんです! それがもう本当に嬉しくて嬉しくて!」

「へぇ、そうなのかい? アーシャの友達なら私も是非とも会ってみたいね。ちなみにその子の名前は何て言う子なんだい?」

「はい! セラス君という素敵な男の子です!」

「……ほう?」


 アーシャの友達の名前を聞いてみると、私にとって縁のある名前が出てきたのでちょっとだけ驚いてしまった。


「ちなみそのセラス君とはアルフォンス領にある伯爵家のアルフィード家の長男です。しかもまだ16歳なのに驚くべき剣技を持っております。おそらく幼少の頃から厳しい鍛錬をひたすらにやっていたのでしょうね。その努力の結果を感じさせられました」


 アーシャの友達の名前を聞いてちょっとだけビックリとしていると、隣に座っているフランツがそんな補足説明をしてきてくれた。


「剣技? 確かアルフィード家と言えば魔術の名門家だったはずでは? それなのにセラス君は魔術ではなく剣技の訓練をしているのかい?」

「はい、師匠の仰る通りアルフィード家は魔術の名門家です。ですがセラス君は生まれながらにして魔力量が0だったため、セラス君には魔術適正というものが一切無かったようなのです」

「あぁ、なるほど。まぁ魔力量は生まれた瞬間に決まるものだから、魔力量が0だったというのは運が無かったと言うしかない。でも本人にとってはとても辛い事だと思うがね……」


 魔術の威力や精度というのは鍛錬を励む事でちゃんと成長する。でも魔術を発動するのに必要になる“魔力の総量(通称MP)”というのは生まれた瞬間に決まっているのだ。そしてその魔力の総量が成長する事は一切無い。


 でもそんな魔術の名門であるアルフィード家に魔術適正が一切無い状態で生まれてしまうなんて……ひょっとしたらセラス君は毎日居た堪れない気持ちで過ごしてきたんじゃないかと、私は心配になってそう呟いていった。


「えぇ、僕も最初はそんな事を思いました。ですがセラス君は魔術が使えない事に悲観せず、幼少の頃からひたすらと独学で剣技の修練を行っていたようなのです。その結果として今のセラス君はとても素晴らしい剣技を手に入れておりました。おそらく私よりも剣技の才能はあると思います」

「ほう、それは凄いな。今代最強の剣士と言われているフランツが自分よりもさらに才能があるなんて言うなんて……ふふ、それは是非とも私も彼の剣技を見てみたいものだ」

「はい、そうなんです! セラス君は本当に凄いんです! ちょっと前に私が野盗に襲われてしまった時にもセラス君は颯爽と駆けつけてきてくれて野盗を全員倒していってくれたんです! ふふ、凄くカッコ良かったなぁ……」

「え……って、えぇっ!? なんだって!? アーシャが野盗に襲われた!? だ、大丈夫だったのかい!?」


 アーシャの口からそんな言葉を聞いて私は驚愕としていった。するとフランツは私に向かってこう言ってきた。


「師匠が面会謝絶中だったので報告する事が出来なかったのですが……実は少し前に大規模な人攫い集団が横行していたんです。そしてその人攫い集団にアーシャが襲われそうになるという事件があったんですが、その時にアーシャを助けてくれたのがセラス君だったんです」

「な、なんと……そんな事があったのか。ちなみにその人攫い集団はどうなったんだ?」

「はい、その人攫い集団についてですが、セラス君がその組織に属する人物を捕らえて情報を吐かせてくれたので、我々はその情報を元に全てのアジトを壊滅しました。さらにその人攫い集団に属してた人物も全て捕らえていますのでこれ以上の被害はありません」

「そうか。そんな事があったとは……これはまたセラス君に多大な恩が出来てしまったな。今後彼に会ったらまた何か特別な恩賞でも与えねばならないな」

「え? またって……もしかして師匠もセラス君とは面識があるのですか?」

「え? そうなのですか? でもおじい様は今までずっと病床に伏せていたはずじゃ……」


 私がそんな事を呟いていくと、フランツとアーシャはビックリとした表情で私の事をジっと見つめてきた。


「あぁ、セラス君の事は私も少しだけ知っているんだ。実は私の病気を治すためのエリクサーを用意してくれたのが……君達が今話しているセラス君という少年だったんだ」

「え……って、えぇっ!? そ、そうだったんですか!?」

「えぇっ!? セラス君がエリクサーを!? で、でもどうしてセラス君はおじい様にエリクサーを渡したんですか? おじい様の病気については箝口令が出ていたはずなのに……」

「あぁ、私が冒険者時代だった頃のツテを頼って全国にある冒険者ギルドに匿名でエリクサーの取得依頼をお願いしてたのは知っているよね? その依頼をセラス君が引き受けてくれたんだよ」

「あぁ、なるほど。確かにセラス君は冒険者としても一流でしたね。でもそんなセラス君でもエリクサーなんて国宝級のお宝をあんな短時間で見つけるなんてほぼ不可能な気もするんですけど……」


 私がそう言うとフランツは首を傾げながらそう言ってきた。まぁそんな疑問が出てくるのも当たり前だな。


「ふふ、そうだな。私もそう思ったんだ。だからアルフォンス領の冒険者ギルドの職員に話を聞いてみたんだが……セラス君は幼少の頃から薬の調合の勉強をずっとやっていたらしく、質の高いポーション薬を作る事が出来るらしいんだ。そしてそれだけでなく幼少の頃から調合の研究をずっと続けてきた結果……どうやら今の彼はエリクサーの調合が可能な領域にまで踏み入れてるらしい」

「え……って、えぇぇぇっ!? え、エリクサーを調合出来るですって!? そ、そんな事を出来る人間がこの世にいるんですか!?」

「あぁ、私もそれを聞いてとても驚いたよ。フランツの言う通り彼はきっと絶え間なく努力を続けられる凄い少年なんだろうね。エリクサーを作れるようになるまで調合の勉強をしたなんて……本当に途方もないくらいの時間を調合の勉強に費やしたはずだからね。おそらく彼は物凄く優秀な冒険者だと思うよ」


 私はそう言いながらセラス君の事を思い出していった。出来る事なら私は冒険者の先輩として、後輩であるセラス君の今までの冒険話も聞いてみたいものだ。


「えぇ、私もセラス君についてはそう評価しています。しかしそれだけではありません。彼は剣士や冒険者として素晴らしい能力を持っているだけでなく……誰よりも優しくて勇敢な心を持っております。弱気を助け悪を挫くという勇敢な心を持ち合わせております。僕はそんなセラス君の姿を見て師匠や先代の勇者様を初めて見た時と同じ感情を覚えました。本当に誰よりも優しく勇敢な少年だと私はそう感じました」

「はい! 私も叔父様と同じように感じました! 私もセラス君には何度も助けて貰いましたからね! あんなにも優しくてカッコ良くて素敵な男の子はセラス君だけです!」


 フランツがセラス君の評価を私に教えて言ってくれてると、続けてアーシャも力強く何度も頷きながらそう言ってきた。


「ほう、アーシャもそう思うのかい? でもあんなに人見知りだったアーシャが男の子についてそんな嬉しそうな顔で喋るなんて珍しいね? ふふ、もしかしてアーシャはセラス君の事が気になっているのかい?」

「え……えっ!? ふ、ふぇっ!? い、いや、そ、それはその、えぇっと……」


 私がそう尋ねるとアーシャは途端に顔を真っ赤にしながらモジモジとしだしていった。どうやら図星だったようだ。


「はは、ごめんごめん。ちょっと質問が意地悪だったかな?」

「え……? って、も、もう! おじい様も人が悪いですわ!」

「はは、ごめんごめん。でも、アーシャももう16歳なんだし、そろそろ婚約者を見つけるには良い頃合いだと思うのだが……どうだろう? もしもアーシャが気になっているのであれば、セラス君との縁談を持ちかけてみるのはどうだい? 伯爵家であるアルフィード家の長男ならばアーシャとしても申し分ないのでは?」

「え……ふぇえええっ!?」


 私がそんな提案をしていってみるとアーシャは先ほどよりもさらに顔を真っ赤にしてきた。そしてそのまま早口でこんな事を言ってきた。


「そ、そ、そそそれはその!! い、いや、わ、私としては凄く嬉しいですが……で、でも……セラス君にはもう既に許嫁がいらっしゃるかもしれませんし……! い、いや私はセラス君が相手なら第二夫人でも第三夫人でも全然構わないんですけど!!」


 アーシャは顔を真っ赤にしながらも早口でそう言ってきた。どうやらその雰囲気からしてアーシャはセラス君にかなり好意的な感情を持っているようだ。


「はは、私としてはセラス君のような男の子であればアーシャの縁談相手としては全然良いと思うけどね。フランツはどう思う? アーシャの親代わりである君の意見も是非とも聞かせて貰いたいな」

「そうですね。僕もセラス君のような勇敢な少年ならアーシャの事は任せられると思います。そして何より……アーシャがセラス君の事を好きなように、セラス君もアーシャの事を好意的に思ってくれてますからね。だからセラス君ならアーシャの事をずっと大切にしてくれると思いますよ」

「え……えぇっ!? そ、そうなのですか!?」

「うん、前にアーシャとセラス君が話してた時はそんな雰囲気を感じたよ。二人ともすっごく仲良さそうだなって思ってたからね」

「そ、そうなんですね……ふふ、それは嬉しいです……」


 フランツがそう言うとアーシャは嬉しそうに微笑んでいった。


「ふふ、そうか。フランツからもお墨付きを貰えるのであれば問題ないだろう。あ、それじゃあ近い内に私の生誕祭が開かれる事になっているから、その時にセラス君にアーシャとの縁談を持ちかけてみようかい? まぁ話をするだけならタダだしね」

「え、えっと、そ、そうですね。それじゃあその……セ、セラス君が私の事を本当に少しでも好意的に見てくれているのであれば……はい。是非ともセラス君とそんなお話をさせていただきたいです……!」

「あぁ、わかったよ。それじゃあその手筈で一旦アルフィード家に手紙を送ってみる事にするよ」


 そんな喜ばしい事が決まった私は早速アルフィード家に向けて、生誕祭にはセラス君を是非とも連れてきて欲しい旨の内容を文章にして送っていく事にした。


(ふふ、またセラス君に会えるのが楽しみだな)


 そしてその結果として……セラスの父親が顔を思いっきり青ざめる事になるのはそう遠くない未来の話だった。


【第二章:貴族学院の入学試験を受けさせられる(16歳) 完】


―――――――――

・あとがき


ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。

これにて第二章は終わりとなります。

この一ヶ月間毎日更新をしっかりと遂行しきる事が出来て本当に良かったです。


ここまで毎日書く事が出来たのは読者の皆様が読みに来てくれたおかげです、本当にありがとうございました!

またフォローや☆評価をして下さった皆様も本当にありがとうございました!


そして明日からは第三章の17歳編に突入していきますので、今後とも楽しく読みに来て頂ければ幸いです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る