第37話:追放決定!
「お前をアルフィード家から追放する」
「……は?」
ルシウスに引き連れられて執務室にやって来た俺は、クソ親父からそんな宣告を受けていった。
これからラブコメ展開もしくはスローライフ展開が待っていると思った矢先にそんな事を言われるなんて意味が全くわからないんだけど。
「私がアルフィード家を追放される理由とは一体何でしょうか?」
「お前のような不出来な息子はこのアルフィード家に要らないからだ。それ以外に理由などないだろ?」
俺が追放される理由を尋ねるとクソ親父は憮然とした表情でそんな返答を返してきた。
「は、はぁ……?」
でも俺はそう言われても訳がわからずキョトンとした表情で首を傾げていった。するとクソ親父は俺を睨みつけながらこんな事を言ってきた。
「貴様、入学試験の魔力測定で0点という最低点を叩き出したそうだな? シュバルツからそのような報告を受けたぞ?」
「魔力測定? あぁ、はい。それはもちろん最低点を叩き出しましたが?」
「ふざけるなこの馬鹿者!! アルフィード家に生まれた者が入学試験で最低点を叩き出すなど言語道断だ! 貴様はこのアルフィード家に大きな泥を塗ったんだぞ! この責任をどう取るつもりだ!!」
(……いや何言ってんだこのオッサンは??)
だって俺が魔術を使えないのはクソ親父もずっと前から知ってたはずだろ。それなのに何で今更になって俺が魔術を使えない事を激昂してくるんだよ? 流石に頭おかしいだろ。
「いや、まぁアルフィード家に泥を塗ったというのであればそれは謝罪します。ですが入学試験は魔力測定だけではありません。体力測定や面接などもありました。そこで良い点数を取れれば合格する事は可能なはずですが?」
「そんなわけないだろ! 貴様のような無能なゴミクズが貴族学院に入れるわけがない! それに貴様の汚名は既に王都を中心に貴族の間で広まっているんだぞ! 二度と王都の周りを堂々と歩けるなど思うなよ!」
「私の汚名ですか? それは一体どのような話ですか?」
俺に汚名があるなんて知らなかった。だから凄く気になったので俺はその汚名とやらをクソ親父に尋ねていってみた。
「ふん、今回の試験結果が既に王都の貴族を中心に広がっているんだ。アルフィード家には無能なゴミクズである兄と凄く優秀な弟の二人が存在していると。そして無能な兄は入学試験の魔力測定で史上最低点を叩き出した貴族の恥さらしだと……そんな話が王都中で広がっているんだ!」
「は、はぁ。いやそんな入学試験程度の事でそこまで大きな噂になりますかね? それって本当の話なんですか?」
「本当の話に決まってるだろ! これは王都に在住しているジェザード家やキリルフェム家から聞かされた話だからな! 本当に貴様というヤツは……この無能なゴミクズが!!」
(ジェザード家? キリルフェム家? いやそれクソ親父の親戚がいる貴族家じゃん)
その二つの家系はクソ親父の親戚が嫁ぎにいった王都にある家系だ。だから当然どちらもクソ親父と親しい間柄の貴族家となる。
という事は何か裏がありそうだと勘繰ってしまうな。というかその貴族家が俺の悪評を流布してるんじゃねぇのか?
(いやでも俺の悪評を流布する必要なんてあるのか?)
俺の悪評をクソ親父と懇意にしてる貴族家が流布しているとしても、そもそもそんな悪評を流す理由がよくわからなかった。俺の事が嫌いだとしても流石にやり過ぎじゃねぇか?
「おい! 聞いてるのかこの無能なゴミクズが!」
「え? あぁ、はい、もちろん聞いてます。私がアルフィード家に泥を塗っているというのは理解しましたが……それにしてもいきなり追放なんて早急過ぎませんか? 私の事をそんなすぐに追放する理由なんてありませんよね?」
「はぁ、貴様は本当に馬鹿なんだな! 魔力測定で史上最高得点を叩き出したシュバルツは主席で合格する事がほぼ決まっているんだぞ? そしてそんな優秀なシュバルツが貴族学園に入学したらすぐに数多くの令嬢から縁談が舞い込んで来るようになる。それは無能な貴様でもわかるよな?」
「はい、それはもちろん。優秀な貴族の男子と婚姻を結びたいと思う令嬢は多いでしょうからね」
貴族学園には早い内に良縁を結ぶために入学しようとする受験生が多いと聞くからな。だから優秀なシュバルツには沢山の令嬢からの縁談が持ち込まれるだろう。
「あぁ、その通りだ。だからこそ貴様のような無能なゴミクズの存在はもはや邪魔でしかないんだ!」
「? それは一体どういう事でしょうか?」
「そんなの決まってるだろ! 縁談が始まったらシュバルツに貴様のようなゴミクズな兄がいるなんて恥でしかないからだ! それに相手の御令嬢も貴様のようなゴミと身内になんてなりたくないと思って縁談を断るかもしれないだろ? だから貴様のようなクズでゴミで無能なカスがアルフィード家に居座り続けられると我々が困るんだ!」
「あぁ、なるほど。そういう事ですか」
シュバルツが幾ら優秀だといっても、その身内に無能なゴミ男がいるって言われたら……まぁ確かにそれは縁談相手としてはちょっと躊躇うかもしれないな。
(いやでもさぁ……俺の事をここまで良いように使っておいて、それで用済みになったらサクっと捨てようとするなんて流石に汚すぎじゃねぇか?)
入学試験で俺の事を当て馬に利用して周りの受験生や試験官にシュバルツの優秀さを際立させるという小賢しい事をしてたクセに、それが無事に終わって俺が不要になったら簡単にポイ捨てするなんて……やっぱりこのクソ親父は汚すぎるよな……。
(という事は王都での俺の汚名の噂ってのも、おそらく俺を追放するための口実って所なんだろうな)
まぁ多分それが真相だろうな。そして何ともくだらない理由だな。
でもクソ親父がやろうとしている事が“由緒あるアルフィード家を守る”という事ならば別に良いか。何故なら俺は義母のレイン・アルフィードの事だけは本当に尊敬しているし慕ってもいるからだ。
そしてシュバルツの活躍によってアルフィード家が今後さらに発展していくのであれば、それは母親であるレインにとっても喜ばしい事のはずだ。
だからレインのためになるのなら俺はそれを黙って受け入れ――
「ふん、ようやく無能な貴様にも理解出来たようだな! という事で貴様には今すぐにこのアルフィード家から出て行ってもらうぞ! 貴様が住んでた場所は既に私の方でしっかりと片付けておいてやったから、だからこの話が終わり次第すぐにこのアルフィード家から出ていくんだ! わかったな!」
「はい、わかりまし……って、は?」
しかしその瞬間に俺は耳を疑った。俺の住んでた所をクソ親父がしっかりと片付けておいたって……そ、それってつまりさ……?
「え、えっと……いや、ちょっと待ってください! 私の住んでた場所を片付けたというのはどういう意味ですか?」
「そんなの言葉通りの意味だ。あんなみすぼらしいボロボロの小屋をこれ以上残しておく意味はないからな。だから貴様が王都に行ってる間に私の魔術で燃やし尽くしてやったよ」
「え? そ、それじゃあつまり……あの小屋を燃やしたのは……?」
「あぁ。もちろん……私さ」
「は……はぁっ!?」
俺がそう尋ねていくとクソ親父はドヤ顔気味にそんな事を誇らしげに言ってきた。
「ふん、何をそんなに驚いているんだ? 私はボロボロだったゴミ小屋を燃やしただけだ。それに貴様のようなゴミクズが価値のある物など一つも持ってるわけ無いのだから全て焼き尽くした所で何も問題無いだろう?」
「……っ」
「ふん、図星のようだな? だからむしろ私に感謝して欲しいくらいだ。さっさと言え、アルフィード家の当主である私にゴミ小屋の片付けをさせてしまい大変申し訳ございませんでした……ってな?」
「……」
俺はそんなクソ親父の言葉を聞いて全身をワナワナと震わせていった。
(価値のある物など一つも持ってるわけ無い……だと?)
そんな事は決して無い。
あの小屋の中には俺が六年間必死になって貯めてきた貯金が置かれていた。貴重なレアアイテムも全て置いていた。
調合のために使っていた作業台に、冒険に使っていた装備一式なども置かれていた。
これらはどれも売り払えばそれなりに高い金になる物ばかりだった。でも……。
(でも百歩譲ってそれらが全て焼失したのは別にいい。そんな物よりも……)
あの小屋の中にはレインが俺の誕生日にくれたアクセサリーや小物類が置かれていた。
俺が新人冒険者を卒業した時にダグラスや他のギルド職員と撮った記念写真も置かれていた。
他にもこの六年間の色々と思い出のある物が沢山置かれていた。
もちろんその思い出の品はどれも金になるような物ではない。それでも俺にとってそれらはとても価値ある大切な物ばかりだった。
そしてそんな大切な物がこのクソ親父のせいで全て焼失してしまったという事実が……俺には到底許せなかった。
「ふん、無言を貫くか。まぁいい。それでは本日を持って貴様の籍をアルフィード家から抹消しこの屋敷から追放する! そしてこれ以降アルフォス領にも二度と踏み入れる事は許さない! 何処でも貴様の好きな所に行って勝手に野垂れ死ね!」
「……」
なるほどな……。
結局俺は野盗に捕まらない事になっても結局はこのアルフィード家から出て行かなきゃならない運命にあったという事か……。
(それにしてもさ……このクソ親父まじで終わってんな……)
今まで散々クソ親父の業火に焼かれてきても文句を言わずに穏やかな精神でやってきたけど……幾ら温厚な俺でももう流石に愛想が完全に尽きた。
はぁ……もういいわ。
「……わかりました。父上のその追放の命令を受け入れます。すぐに旅立つ準備を始めていこうと思います」
「ほう、最後は素直じゃないか。それでは本日中にこの屋敷からとっとと去るんだ! そしてその薄汚い顔を二度と私に見せるんじゃないぞ! あはは!」
「はい、わかりました。それでは最後に……ふんっ!!」
「あはは、って、なっ!?」
―― ブォンッ!
俺はクソ親父の顔面に目掛けて全速力の正拳突きをぶちかましていった。まぁもちろん顔面に当たるギリギリの所で寸止めはしたけど、殺意だけは全力を込めておいた。
「な、ななななななっ!? き、貴様!! 実の父親に向かって何て事をしてるんだ!? この親不孝者が!!」
「はんっ! 何が親不孝者だよ! ちゃんと寸止めしてやったんだからそれを感謝しろよ! このクソ親父が!!」
「なっ!? クソ親父だとっ!? き、貴様……ふざけてるのか!!」
俺がそんな事を言っていくとクソ親父はビックリとしながらもすぐに激昂していった。
「別にふざけてなんかいねぇよ。ちゃんとクソ親父の指示にだって従うさ。もう二度とこの家には戻ってこねぇよ。それで良いんだろ?」
「ふ、ふん、わかっているならそれでいい! それでは今すぐこの屋敷から出て行け! そしてもう二度と私にその顔を見せるんじゃないぞ!」
「あぁ、もちろんわかってるよ。でもクソ親父も俺と二度と顔遭わすような事すんなよ? もし今後俺の前に現われたら……今度は寸止めなんて絶対にしねぇからな??」
「私が貴様のようなゴミクズに会いに行く事など一生ある訳ないだろ! 良いからとっととこの屋敷から出て行け!! そして二度とアルフォンス領に現われるんじゃないぞ! おい、ルシウス! この無能のゴミクズを屋敷の外に放り出せ!」
「は、畏まりました」
こうして俺はルシウスに手を掴まれていきアルフィード家から叩き出されてしまったのであった。
という事で俺の貴族学園に行ってラブコメ展開を楽しむという事も、畑を耕してスローライフ展開を楽しむという事もどちらも叶わぬ事となってしまった。
「……ま、でも別にいっか」
もうこれで二度とクソ親父と会わないで済む事になったんだから、今はそっちを喜ぶ事にしよう。
それに今の俺には六年間しっかりと鍛えぬいてきたこの身体と、調合の技術、さらにゲーム知識も備わっているからな。だからこれから一人きりになったとしても何とかなるはずさ。
よし、それじゃあこれからは俺のセカンドライフを思いっきり楽しんでいくぞ!
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