第35話:セラス君を見送っていく(アーシャ視点)
王都にある馬車の停留所前にて。
「それじゃあ、またね、アーシャ」
「うん、また会おうね、セラス君!」
そう言ってセラス君は軍の馬車に乗って故郷であるアルフォス領へと旅立っていった。
本当はもっとお話をしたかったけど、でもセラス君にも普段の生活があるんだから仕方ない。またいつかお会いできる日を楽しみにしよう。
「それにしても……彼は本当に素晴らしい少年だったね」
「えぇ、本当にそうですね」
私は隣にいたフランツ叔父様に向かってそう答えていった。叔父様もセラス君のお見送りに来ていたんだ。
「今は魔王が復活する兆候がどんどんと出てきており、その事を不安に思うようになっている国民も多くなってきている。そんな中でセラス君のような真っすぐで勇敢な心を持っている若者に出会えたのは本当に嬉しい事だよ」
「えぇ、そうですね。セラス君と一緒にいると凄く勇気を貰えます。それにセラス君はいつも勇敢で優しくて……それにセラス君は私が危ない目に遭いそうになるといつも助けてくれるんです。ふふ、本当にいつもカッコ良いなぁ……」
「はは、確かにそうだね。彼は本当にカッコ良い少年だよね。それに僕も彼の剣技は見させてもらったが……彼の剣技は本当に凄まじかったな」
「えっ? 叔父様もセラス君の剣技をご覧になられたんですか?」
「あぁ、うん。実はセラス君は王都の貴族学園の入学試験を受けに来たんだ。そこで僕は試験官として彼と手合わせをしたんだが、彼の剣技は本当に素晴らしかったよ。出来る事なら今すぐにでも我が国王軍に入って貰いたいと思ったくらいだ」
「へぇ、剣聖たる叔父様からそこまでのお墨付きを貰えるなんて凄いですわね! ……って、えぇっ!? セ、セラス君……貴族学園の入試を受けたんですか!?」
「あぁ、そうなんだよ。僕が面接をした部分は全て満点だったから、おそらくセラス君は合格するね。そしたらアーシャはこの学園の先輩としてセラス君に色々と教えてあげるんだよ?」
「はい、それはもちろんです! セラス君と一緒に学園に通えるなんて……ふふ、嬉しいなぁ」
王都から凄く離れたアルフォンス領に住んでいるセラス君が何で王都にいるんだろうってちょっとだけ疑問に思ってたんだけど、どうやらセラス君は王都にある貴族学園の入学試験を受けに来たらしい。
でも年齢的にセラス君が貴族学園の試験を受けに来るのはちょっと遅い気もするけど……でもそんなのは関係ないよね。別に例外だってあるわけだし。
(と、というかさ……セラス君が貴族学院に入学したら……セラス君は王都に引っ越してくるという事になるよねっ!?)
そしたら毎日セラス君とお話が出来るという事になるはずだ。ふふ、それは凄く嬉しいなぁ。
「って、あ、そうだ。そういえばアーシャは何で一日早くに王都に帰ってきたんだい? 確か王都に帰国する予定は明日だったと記憶しているんだけど……」
そんな事を思っていると、叔父様は首を傾げながら私に向かってそんな事を尋ねてきた。
「あ、はい! 実はおじい様の病気が完全に治ったという手紙が届きましたので……だからもう居ても立っても居られなくて急いで帰ってきたんです!」
「あぁ、なるほど。はは、そう言う事か」
私は叔父様に向かってとびきりの笑顔を浮かべながらそう言っていった。
実は私が幼少の頃に両親と祖父母は不慮の事故で全員亡くなってしまったんだ。だから私には身寄りが一切いなくなってしまった辛い時期があるんだ。
でもそんな身寄りのいない私を救ってくれたのが、この国の王様であるジルク王と、その直属の部下であるフランツ叔父様だった。
私のお母さんのお母さん……つまり私のおばあちゃんは、先代の勇者パーティに参加する聖女だったんだ。そしてその勇者パーティには現国王であられるジルク王も凄腕の剣士として参加していた。
だからジルク王は先代勇者パーティに一緒に参加していた縁で、身寄りのいなくなった聖女の子孫である私の事を快く引き取ってくれたんだ。
そしてそれからジルク王は私の事を本当の孫同然のように毎日優しく接してきてくれたんだ。だから私もそんなジルク王の事を本当のおじい様のようにずっと慕ってきていた。
でもそんな優しかったおじい様は五年程前に不治の病に侵されてしまいベッドでの寝たきり生活を余儀なくされてしまった。本当に毎日辛そうだった。
だから私はフランツ叔父様に頼んで一緒に色々な街や村に行って身体に良さそうな食べ物を探し回っていた時期もあった。そういえばそんな事をしていた時にセラス君と出会ったんだよね。
でもおじい様の体調は全く治らずどんどんと悪化していく一方だった。そして最近のおじい様は本当にもう命が危ないという状況にまで陥ってしまっていたんだ。
私はおじい様の体調が不安でいつも涙が出そうな程に心配する日々を過ごしていた。でも私には聖女の仕事があったので、おじい様の看病を毎日する事は出来なかった。
だから私はそんな不安を抱えながらも遠くの地にある教会で聖女として祈りを捧げる仕事をしていたんだけど……でもほんのちょっと前に王都からの手紙でおじい様の病気が治ったとの報せが入ったのだ。
だから私は急いで仕事を終わらせて一日早く王都に戻ろうとしたという訳だった。そしたらその帰り道に私は野盗に襲われてしまったのであった……。
本当にセラス君が助けにやって来てくれて良かったよ……。
(それに五年振りの再会だったけど……昔と変わらずカッコ良かったな……セラス君……)
「……うん? どうしたんだい? アーシャ? 何だか顔がとても赤くなっているようだけど?」
「え……って、えっ!? あ、い、いや! 何でもないです!!」
叔父様はキョトンとした表情を浮かべながらそんな事を尋ねてきた。どうやら私の顔が思いっきり真っ赤になってしまっているようだ。
そして私の顔が思いっきり真っ赤になってしまった理由なんて……そんなのは私だってもちろんわかっている。でも恥ずかしいから叔父様には秘密にしておこう。
「? そうかい? って、あぁ、そうだ。そういえば師匠についてなんだけどさ、今は病気は治ったんだけどしばらくは自室で安静にする事になっていてお目通りは叶わないんだ。多分今も自室で寝ていらっしゃるはずだからね」
「あぁ、そうなんですね。確かに病気は治りかけが一番危ないと言いますものね」
「あぁ、そうなんだ。それで週明けにはお目通りが叶う事になっているからさ、だから良かったら週明けの朝に一緒に師匠の所に行かないかい? きっと師匠もアーシャに会いたいと思ってるはずだしさ」
「はい、もちろんです! 是非とも私も一緒に連れて行ってください! 私もおじい様と沢山お話もさせて頂きたいですから!」
「はは、うん、わかったよ。それじゃあ週が明けたら一緒に師匠に会いに行こうか」
「はい!」
という事で私はフランツ叔父様とそんな約束を交わしていった。おじい様と沢山お話が出来る日が来るなんて……ふふ、本当に良かったわ……。
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