第34話:王都に再び戻って来る

 それから数時間後。


 俺達は無事に王都に戻って来る事が出来た。


「それじゃあこのまま軍の方に向かって行くよ。アーシャの怪我の事もあるからフランツさんにすぐ送り届けた方が良いと思うしさ」

「うん、わかったセラス君……って、あれ? でもどうしてセラス君は叔父様が働いてる軍の場所を知ってるの?」

「あぁ、実は少し前から王都にやって来ててさ、それでこの期間中にフランツさんとも少しだけ交流をしてたんだ」

「えっ!? な、何それズルい叔父様!! 私もセラス君と交流したかったのに!」

「あはは、ごめんごめん。ま、とりあえず今はすぐにフランツさんのいる軍に向かおうか」

「あ、う、うん、わかったよ」


 という事で俺はアーシャをお姫様抱っこをしたままフランツが所属する軍に向かって行った。


 そして軍に到着すると俺達はすぐにフランツの元へと案内されていった。


「叔父様!」

「ア、アーシャ!? い、一体何があったんだ!? それにどうしてセラス君がここに? 確かアルフォス領に戻ったんじゃ……?」

「はい。実は……」


 俺は再会したフランツにこの数時間で起きた出来事を報告していった。その間にアーシャは足の怪我を治すために治療室へと運ばれていった。


「……なるほど。アーシャは人攫い集団に襲われそうになっていたのか。そしてセラス君は冒険者として森の中の調査をしていた時にたまたまその人攫い集団と遭遇したという事なんだね」

「はい、その通りです。その場にいた野盗共は私がすぐに全員切り伏せましたので、アーシャには足以外の危害は加わってません。それとその時にベルセルクのアジトなどの情報を吐かせましたので、その情報も全てフランツさん達に共有しておきます」

「ありがとう。ふふ、セラス君の情報を元にその犯罪集団はすぐに壊滅させてみせるよ、アーシャを傷つけようとした不届き者達を許すわけにはいかないからね……!」


 フランツは思いっきり怒った表情を浮かべながらそんな事を宣言してきた。あまりにも怖すぎたので俺はちょっとだけ目を反らしていった。


「そ、そうですね。あ、それじゃあ早速ですけど私が知っているベルセルクについての情報をお伝えしますね」

「あぁ、うん。よろしく頼むよ」


 という事で俺はかなり怒っているフランツに向けて、アーシャを傷つけた元凶であるベルセルクについての情報を全て話していった。


◇◇◇◇


 それから程なくして。


「……以上がベルセルクの情報となります」


 俺は今持っているベルセルクについての情報を全て伝えていった。するとフランツは俺の話を全て聞き終えてから静かに頭を頷いてきた。


「なるほどね。アジトの数が15ヵ所もあるのはちょっと大変そうだ。まぁでも犯罪集団を許すわけにはいかない。という事でこの情報は今すぐ軍とギルドに共有してベルセルクの討伐任務をすぐ進めていく事にするよ」

「はい、よろしくお願いします。あ、そうだ。ちなみになんですけど……フランツさん達ってこのベルセルクについての情報は何か事前に知っていましたか?」


 俺はフランツにそんな事を尋ねてみた。そんな事を尋ねてみた理由はさっきの野盗共との会話があったからだ。


―― 俺達の組織は優秀なんだぞ! 冒険者ギルドみてぇなカス集団に俺達の組織情報が回るわけねぇだろ!


 今思うと、何であの野盗共はあんなにも自分達の存在が世間にバレてないと自信満々だったんだろう? ゲーム本編でもそこら辺は全然語られてなかったよな。


「いや、正直に言うと人攫い集団が最近暗躍している事は我々も知っていた。でもどんなに調査してもその人攫い集団の名前も構成員もアジトも何一つとして痕跡を見つかる事はなかったんだ……」

「えっ!? 軍の調査力を以てしても証拠を見つける事が出来なかったんですか?」

「あぁ、そうなんだ。だから僕達はおそらくだけど人攫い集団の痕跡を簡単にもみ消せるような大きな権力者がバックについていると考えていたんだ。まぁ例えばだけど……奴隷を大量に欲しがっている貴族とかが考えられるよね」

「あー、なるほど。そういう事ですか……」


 確かにゲーム本編だと俺は変態貴族に売り払われていったわけだし、ベルセルクのバックには貴族が付いてたとしても何ら不思議ではない。


 というか全国に15箇所ものアジトがある時点でバックに貴族が付いてる可能性は非常に高いだろうな。


「うん。だからセラス君が偶然にもその人攫い集団の情報を沢山手に入れてくれたのは凄い僥倖だよ。セラス君が手に入れてくれたこれらの情報のおかげで、今すぐにでもベルセルクを壊滅させる事は可能になったわけだからね。それに捕らえられている女性達の事も心配だから、ここからは冒険者ギルドと協力して今すぐにでもベルセルク討伐作戦を開始していくよ」

「はい、是非ともよろしくお願いします。あ、でも……私はもうそろそろアルフォンス領に戻らないといけないので、この後の事は全部フランツさんにお任せしてもよろしいでしょうか?」


 一応俺は真面目な受験生としてこの王都にやって来たんだ。それなのに未だに王都でウロチョロとしてるなんてクソ親父にバレたら色々と面倒だ。


 “受験も終わったのに王都で遊び惚けるなど貴族としてあるまじき行為だ! 恥を知れ!! この無能なゴミクズが!!” みたいな感じで怒鳴り散らされるに決まっているからなぁ……。


「あぁ、うん、もちろん。ここからは僕達の仕事だからセラス君は気にせずアルフォンス領に帰宅していってくれて良いよ。この1~2日以内に必ずベルセルクを壊滅させてみせるからセラス君も安心してくれ。それと改めてになるけど……アーシャを助けてくれて本当にありがとう。もう君には何とお礼をすれば良いか……」

「いえいえ、全然大丈夫ですよ。私もアーシャの事を助けられた事に凄く嬉しい気持ちで一杯ですし」

「うん、ありがとう、セラス君。そう言って貰えると僕もアーシャも凄く嬉しいよ。本当にこの恩は一生忘れないからね」


 フランツはいつも通りの柔和な笑みを浮かべながらそう感謝の言葉を俺に送ってきてくれた。そしてそのまま続けて俺にこう言ってきた。


「でもセラス君は本当に凄い子だよね。貴族であるにも関わらず危険な職業である冒険者になって実際に悪党を倒す力も十分に持っているなんてさ」

「いえいえ、私はまだまだ修行不足な所も多いです。なのでこれからも引き続き頑張って修行を続けて行こうと思います」

「ふふ、そんな謙虚な姿勢も本当に素晴らしい所だと僕は思うよ。出来る事なら君のような優秀な子には今からでも軍に入って貰いたいものだなぁ……って、おっと。ごめんね、ついつい長話をしてしまったようだ」

「いえいえ、私もフランツさんと沢山話が出来て嬉しいですよ」


 フランツは笑みを浮かべながら俺に向かってそう謝ってきた。なので俺も笑みを浮かべながらそう返事を返していった。


「ふふ、そう言ってくれてありがとう。それじゃあつまらない話はこれくらいにして……よし、今から僕の方でアルフォス領への馬車を手配してくるよ。多分30分もすればここの軍前に到着するはずだよ」

「え? そんなに早くに到着するんですか?」

「あぁ、軍専用の馬車だからね。それに早馬だからアルフォンス領には普通の馬車よりもすぐに到着するよ」

「軍専用の馬車なんて……そんなのお借りしても良いのですか?」

「うん、もちろんさ。だってセラス君はアーシャの命の恩人なんだし、それくらいの恩は僕にも返させてくれよ」

「あ、ありがとうございます! それではお言葉甘えさせていただきますね」

「うんうん、子供は素直が一番だよ。それじゃあ僕は今から軍用馬車の手配をしてくるから、それまでは良かったらアーシャと二人きりで仲良く話でもして待っててくれないかい? きっとアーシャもセラス君と話せると嬉しいはずだからさ」

「はい、わかりました。それじゃあせっかくなのでアーシャと会ってきますね」

「うん。よろしくね。それじゃあまた後でね」


 そう言ってフランツは席を立ちあがって事務室から出ていった。おそらく馬車の手配をしに行ってくれたようだ。


 という事で俺はフランツを見届けてからすぐに医務室へと向かった。そして医務室のベッドで寝転んでいるアーシャと一緒に馬車が到着するまでの間楽しくお喋りをしていったのであった。

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