第33話:アーシャをお姫様抱っこしていく

「さてと。大丈夫だった?」

「え……あ……う、うん……」


 俺はアーシャの方に顔を向けていって再び声をかけていった。


 するとアーシャは先ほどまで怖がっていた様子だったんだけど、今はキョトンとした表情を浮かべながら地面にペタリと座り込んでいた。


 そしてアーシャはそのまま俺にこう言ってきた。


「セラス君って……すっごく強かったんだね」

「それほどでもないよ。まだまだ修行中の身だからね。でも今日はアーシャの事を救えて本当に良かったよ……」

「うん、本当にありがとうセラス君。でもまたセラス君に助けて貰っちゃったね。ほら……五年前もセラス君は私の事を助けてくれたよね?」

「あぁ、うん。そういえばそんな事もあったね」


 アーシャは懐かしそうにしながらそんな事を言ってきた。なので俺もそれを懐かしみながらアーシャと一緒に笑い合った。


 でも笑みを浮かべていたアーシャはそれからすぐに暗い表情を浮かべながらこう言ってきた。


「でも……この野盗達に捕まってしまった女性達を救う事が出来なかったのが……凄く悲しいよ……」

「うん? あぁ、それは大丈夫だよ。こいつらのアジトは全部知ってるから。だからまだ奴隷商に売られる前だったらアジトに捕らわれている女性達はまだ助けられるんじゃないかな?」

「え……って、えぇっ!? な、何でセラス君がこの野盗達のアジトを知ってるの?」

「えっ? そ、それはまぁ何というか……」


 それはもちろんゲーム本編でベルセルクのアジトを全部潰しに行くサブイベがあるからだ、なんてアーシャに言った所で到底信じて貰える話ではない。


 という事で俺は適当にそれっぽい嘘で誤魔化していく事にした。


「えっと、いや実はさっきも言ったけど俺は冒険者をしているんだ。それでこの野盗集団“ベルセルク”は凶悪な犯罪集団として冒険者ギルドでもマークされててさ、ここら辺でそれっぽいヤツらがウロチョロしているって噂を聞きつけて俺も調査に出てたんだ。それでさっきアーシャを見つける前に一人はぐれた野盗を見つけたから、ソイツをボコボコにしてアジトの情報を全部聞き出したんだよ」

「えっ!? そ、そうだったの!? それじゃあセラス君がこんな森の中にいたのって……その野盗集団ベルセルクを見つけるために調査をしてたって事なの?」

「うん。まぁそんな所だよ。それで情報は全部集めきったから、それを冒険者ギルドや軍に所属しているフランツさんに情報を渡せばきっとベルセルクは壊滅するよ。そしてそこに捕らえられていた女性達もすぐに救ってくれるはずさ」

「う、うん! きっと叔父様達ならすぐに救ってくれるはずね! でも事前にそんな調査をやってたなんて本当にセラス君は凄い男の子だね! それに冒険者としても大活躍をしているなんて……本当にカッコ良くて素敵だよ……ふふ」


 アーシャは柔和な笑みを浮かべながら俺に向かってそう言ってきてくれた。もちろん今の話は全部適当に作り上げた嘘なんだけどさ。


 でもゲームをやり込んでたからベルセルクのアジトは全部覚えているのは事実だ。だからこの情報をフランツに渡せば全部解決するだろう。


 そしてこれでベルセルクが壊滅すれば俺も変態貴族にケツ穴を掘られずに済むという事になる。あぁ、良かった良かった、これで全て解決だな!


 もうこれで俺を困らせていた悩みの種は何もなくなった。という事でこれからの残りの人生は適当にスローライフをしながら楽しむ事にしよう!


「ふへへ……」

「ん? どうしたのセラス君?」

「ふへへー……って、えっ? あ、あぁ、いや何でもないよ! よし、それじゃあ早速王都に戻ろうか! この情報を冒険者ギルドに教えなきゃならないしね」

「うん、そうだね、それじゃあ……って、つぅ……!!」


 アーシャは立ち上がろうとしたその瞬間、苦痛で顔を歪ませていった。


「だ、大丈夫? もしかして怪我をしちゃってるのかな?」

「う、うん。実はちょっと……さっき野盗の人に足を思いっきりガツンとやられちゃって……うまく歩けそうにないんだ」

「え? どれどれ……って、うわっ……これは酷いね……」


 俺はそう言われて早速アーシャの足首を見てみた。するとアーシャの右足が物凄く腫れていた。


 おそらくアーシャが逃げられないようにするために最初に足を攻撃して怪我を負わせていったのだろう。


「うん。もし魔法杖を持ってたら回復魔法が使えたんだけど……でも魔法杖はさっき野盗の人達に全部壊されちゃったんだ……」

「そっか。うーん、俺も今はポーション薬を持ってないからアーシャの足を治すのはちょっと難しいな。って事はもう方法はこれしかないな……ごめん、アーシャ!」

「え? って、わわっ!?」


 俺は謝罪をしながらアーシャの背中と太ももに手を這わせていった。そしてそのままアーシャの事を優しくそっと持ち上げていった。


 それはいわゆるお姫様抱っこと呼ばれる行為だった。


「ごめんね、アーシャ。結婚前の女の子の素肌を触るなんて良くない事なのはわかっているんだけど……でも今は緊急事態だから許してね」

「えっ!? い、いや、それはその……う、ううん……そんなのセラス君は気にしなくて全然大丈夫だよ……! で、でもその……私って……お、重くないかな……? セラス君は今すぐ王都に戻る必要があるんだから私はここに置いていっても――」

「ううん。アーシャはすっごく軽いから大丈夫だよ。それじゃあ今からすぐに王都に向かうよ。だからあと少しだけ辛抱しててね」

「えっ? う、うん、わかった……って、わわ!」


 そう言って俺はアーシャをお姫様抱っこしながらすぐに王都へと戻り始めていった。すると不安がっていたアーシャは一瞬にして目をキラキラと輝かせていった。


「わわ! 凄い凄い! セラス君すっごい早いよ!」

「大丈夫? 早すぎて怖かったりしないかな?」

「ううん! 全然大丈夫だよ! セラス君って本当に凄い男の子なんだね!」

「はは、それなら良かった。それじゃあもっと早くスピードを出していくからもっとぎゅっとしておいてね」

「えっ? う、うん、わかった……!」


―― ぎゅっ……


 そう言うとアーシャはちょっとだけ顔を赤くしながらも、俺の首元に手をしっかりと力強く回していってくれた。


「うん。それじゃあもっと早く行くね!」

「う、うん、わかった!」


 という事で俺はアーシャをお姫様抱っこしながら全速力で王都へと向かって行った。

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