第32話:一件落着

「ま、そんなわけで……今まで悪い事を散々としてきたんだろうし、その報いはちゃんと受けて貰うぜ? あの世でしっかりと懺悔してくれよな?」

「そ、そんな……い、いや、ちょっと待ってくれよ!! ほ、本当に俺を殺しても良いのかよ!!」

「……はぁ?」


 俺は手に持っていた短剣で最後の野盗を切り伏せようとしたその瞬間、その野盗は大きく震えながら俺に向かってそんな事を言ってきた。


「何だよ? もしかして死ぬ前に何か言い足りない事でもあったか?」

「い、いや、そうじゃねぇよ! テメェがさっき言ったように……俺達は野盗集団“ベルセルク”だ! 何でテメェがベルセルクって名前を知ってるのかわからないけど……でもベルセルクの詳細情報はまだ何処にも出回ってないはずだ!! そ、そんなベルセルクに所属してる俺を今ここで殺しても良いのかよ!?」

「? どういう事だ?」


 俺がそう尋ねていくと、先ほどまで震えていた野盗は唐突に下卑た笑みを浮かべながらこう言ってきた。


「ぶはは! つまり俺達には数多くの同胞がいるって事だよ! そして全国の至る所にアジトも沢山あるんだよ! そんで俺達のアジトの中には色んな村から攫ってきた女共がまだまだ大量に残ってるんだぜ? それなのに俺を今ここで殺しちまったらさぁ……アジトに捕らえられている女達はこれからどうなっちまうのかなぁ?」

「っ!? そ、そんな卑劣な……」


 野盗は笑いながら俺達に向かってそんな事を言ってきた。つまりこの野盗は色々な村から捕まえてきた女性達を人質に使おうとしているんだ。


 そんな野盗の卑劣な企みを聞いたアーシャは酷くショックを受けたようで声を凄く震わせていた。


「ふ、ふへへ……だ、だから取引をしようじゃないか? 今俺の事を見逃してくれるのであれば……アジトに捕らえてる女達を開放すると約束するよ。なぁ、それで良いだろ? だ、だから俺の事は今ここで見逃してくれよ……」

「う、嘘です! ここでアナタを見逃した所で捕らえている女性達を解放するなんて約束を守るはずありません!!」

「ぶははっ! そんなのやってみねぇとわかんねぇだろうがよ! ここで見逃がしてくれるんなら俺だってちゃんと改心して捕らえた女達を絶対に開放するさ! でも俺がアジトに帰れず今ここで死んじまったらさぁ……アジトに残ってる同胞達はいつも通り女達を奴隷商人に売りはらっちまうんだぜ? そんな事になっちまったら女達は変態なオッサン共の玩具に死ぬまでされ続ける未来しかないんだぜ? ぷはは、何の罪も無い善良なる一般市民を助けなくて良いのかよ!! なぁ? なぁ? なぁっ!? おいどうするんだよ! そこの冒険者様よ!!」

「……っ」


 野盗は威勢よくそんな事を言ってきた。確かに沢山の罪なき女性達が人質に取られているっていう状況なら形勢は逆転する。


 何故なら“ベルセルク”はアジトが沢山あるのは事実だからだ。ゲーム本編ではベルセルクのアジトを一つずつ潰していくサブイベントがあるんだ。アジトの数は全国至る所にあって、合計で15ヵ所も存在している。


 もちろん俺はソードファンタジアを滅茶苦茶にやり込んでいたからそのサブイベントも全部覚えている。だからベルセルクのアジトは何処にあるのか全てしっかりと記憶している。でも……。


(でもそんなにも数多くのアジトを俺一人で今すぐ全部調べていくなんて流石に不可能だ……)


 今の野盗達との戦闘で俺は“強い肉体”と“強い武器”の両方をしっかりと手に入れている事に気が付いた。


 でもそんな凄い力を手に入れた俺でも15ヵ所ものアジトを今すぐに全部調べて女性達を助け出すなんて事は出来ない……。


 そしてアジトを調べるのに時間があまりにもかかってしまうと、今アジトに捕らえている女性達は何処かに売り払われてしまう事になる。そうなっては女性達を救う事などもう出来ない……。


(クソッ、人質を助けるためにはどうすれば……って、あっ……)


 俺はその時とある事を思い出していった。


 今野盗が言ったようにベルセルクのアジトは全国の至る所にある。しかも構成員の数もかなり多い。


 そして人質の女性達が沢山いるというこの状況だと、“俺一人”だけでは人質の女性達を助けるためにこの野盗の言う事を聞かなければならなかったのかもしれない。


 でも今の俺の周りには……。


―― 俺達ギルド職員は今回の恩義を絶対に忘れないからな! これから何があったとしても俺達は全身全霊でセラ坊主に力を貸す事を誓うよ!


―― セラス君がそう言ってくれると僕も嬉しいよ。これからは何かあったらいつでも頼ってくれて構わないよ。困った事があったらいつでも僕や軍を尋ねてきてくれ。


―― 何か困った事があればその短剣を持ってこの王都にある冒険者ギルドを尋ねると良い。そうすればそこのギルドマスターが何でも話を聞いてくれるはずだからね。


 でも今の俺の周りにはどんな事があったとしても……きっと俺の事を助けてくれる心優しい大人達が沢山いるんだ。


 そしてそんな心優しい大人達との縁や絆は今の俺にとってまさに“最強の武器”と成ったんだ。


(そっか。俺が今までやってきた事は……どれも全て必要な事だったんだな……)


 俺が異世界にやってきてからこの六年間、今までやって来た俺の行動は……今日この日のために繋がっていたんだ。


「あはは! どうしたよ冒険者! 早く俺を見逃した方が良いぜ? 善良なる市民を救いたいんだったらな!!」

「……ベインゼの滝。フラガ洞窟。ユーバッハの森……あとはそうそう、確か王都の地下にもあったはずだよな?」

「え……って、は、はぁっ!? な、なんで俺達のアジトの場所を知ってるんだよ!?」

「はは、何でだろうな? でも今のアンタのゾっとした顔を見て確信したよ。やっぱりベルセルクのアジトはゲームと同じ所にあるんだな」

「は、はぁ!? ゲーム!? い、一体何の話だよ? いやでもアジトがわかってるとしてもテメェみてぇなクソガキ一人でどうにかなるわけ――」

「いやそんなの気にしなくて良いよ。俺の周りには頼りになる人達が沢山いるんだ。だからアンタはそんなの気にしないで……さっさと死んでくれ」

「え……」


―― グサッ……!


 俺は手に持っていた短剣をそのまま野盗の心臓に狙って深く突き刺していった。


「え……そ、んな……い、やだ……しにだくない……ごぽっ……」

「色々と悪事を働いてたクセに何を今更言ってんだ。それにアーシャを傷つけようとした時点でお前達は終わりだったんだよ。ま、あの世でしっかりと反省しろよ?」

「ごぽっ……そ、そんな……う……ぁ……」


 こうして最後の一人も絶命してそのまま地面にゆっくりと倒れ込んでいった。俺はその様子を最後まで見届けてから一息ついていった。

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