第31話:野盗を切り伏せていく

「は、はぁっ!? 何でテメェみたいなガキが俺達の事を知ってんだよ!?」

「おい、何で俺達の事を知ってるんだよ! 早く喋れ! 俺達はガキでも容赦しねぇぞ!!」

「……ふふ」

「なっ!? 何笑ってんだテメェ!! おいテメェら! もうこのクソガキは殺しちまえ!! いくぞ!」

「「おうっ!!」」


 野盗共はそう言いながら俺に目掛けて全速力で突撃してきた。相手の人数は合計で四人。まぁこれだけの人数なら問題はないな。という事で……。


「ふんっ!」

「え……? って、ぐはっ!?」


―― ドサッ……。


 という事で状況整理を終えた俺は、最後方にいた野盗に目掛けて護身用の短剣を全力で投擲していった。


 投擲した短剣は狙った野盗の眉間に深く突き刺さり、そのまま力なく膝から崩れ落ちていった。


「なっ!? お、おいグシャス!? て、てめぇ……ふざけんなよ! 俺達の仲間をよくも……!!」

「いや、でもちょっと待てよ! アイツ今自分の手に持ってた武器の短剣を遠くに放り投げちまったよな? あはは、それなら今のアイツは丸裸も同然だ!」

「あぁ、確かにそうだな! 今なら三人でまとめて襲い掛かればブチ殺せるはずだ! よし、一斉にかかるぞ!」

「「おう!!」」


 そう言って野盗共は一斉に俺に向かって突進してきてくれた。俺が先ほど最後方に投擲した短剣の事はもう誰も見向きもしてなかった。


「……はは。そんな仲良く揃ってこっちに走って来てくれるなんて本当に助かるよ。それじゃあ……よっと!」

「ん? ちょっと待て! アイツ何か手に持ってるぞ!?」


 俺は野盗共の愚直過ぎる行動を見て少し笑ってから、俺は手の中に隠していた細長いワイヤーを思いきり引っ張っていった。


「あ、あれは……ワイヤーか? 一体あんなヒモで何をする気だ?」

「いやあんな細いワイヤーで俺達を倒せる訳ねぇだろ! ただのハッタリだ! 気にする事はねぇよ! さっさと三人で仕留めるぞ!」

「あぁそうだな! よしそれじゃあ軽く人捻りにしてやろ……」


―― ザシュッ……


「う……ぜ……?」

「ん? ど、どうしたゼパイル? ……って、なっ!?」


 ゼパイルと呼ばれた男の後頭部には俺が先ほど投擲した短剣が綺麗に突き刺さっていた。その男は一瞬で絶命したようでその場で崩れ落ちていった


 実は俺が今引っ張っていた細長いワイヤーは先ほど投擲した短剣の柄に括り付けられていたんだ。


 そしてその際、俺は引っ張っていたワイヤーを軽く指で弾いて戻って来る短剣の軌道をズラしていき、こちらに突進してきた男の背後に上手く短剣を突き刺していってみせたというわけだ。


(でもこの短剣は本当に切れ味良すぎな気がするな。こんなにも切れ味が凄まじいと取り扱うのにはもう少し注意が必要かもしれないな)


 俺はそんな事を思いつつも、もう一度ワイヤーを引っ張っていき、男の後頭部に突き刺さっていた短剣をすぐに回収していった。


「く、くそ! どうなってやがんだ!? なんであんなガキにこうも簡単に三人も殺されちまったんだよ!?」

「ん? いや別に俺はただ短剣を放り投げたり戻したりしてただけだけど?」

「ふ、ふざけんな!! そもそも短剣なんて殺傷力の低いゴミ武器だろ! なんでそんな弱い武器を使ってるクソガキ相手に三人も一気に……って、はっ! わ、わかったぞ! さてはテメェ……何か強力な魔術をその短剣に付与してるんだろ!! クソ、詠唱が何も無かったから油断しちまった!!」

「え? いや別に魔術とかそんなんじゃ――」

「あぁ、なるほどな! 何だよ今のカラクリは全部魔術だったのか!! あはは、タネがわかったらもうテメェなんざ怖くねぇ! だってこっちにはいざって時のために魔術封じの盾サイレンスの盾を持ってきてるんだからな! もうこれでテメェの使う魔術なんざ何も怖くねぇぞ!!」

「いやだから俺は魔術なんて一つも使ってねぇって。全然見当違いな事を言ってんなアンタ達。それにゴチャゴチャと煩いけど……でも盾構えてるアンタはもうとっくに死んでるからな?」

「あはは……って、え? って、え……ご、ごぽっ……」


―― どさっ……


 何だかゴチャゴチャと煩かったからとりあえず手前に立っていた野盗の腹を瞬時に切っていったんだけど、どうやら野盗は腹を真っ二つに切られた事に気がついてなかったようだ。


 でも俺がそう指摘した事でようやく腹が切られている事に気が付いたらしく、その瞬間にその野盗の上半身と下半身が綺麗に真っ二つになって崩れ落ちていった。


「ド、ドゥルジっ!? な、ななな……なっ!? 何者なんだテメェは!?」

「ん? いやだから俺はただの冒険者だけど?」

「た、ただの冒険者がこんな力を持ってるわけねぇだろ!! い、嫌だ……お、俺はまだ死にたくねぇんだ……って、そ、そうだ! そういや俺ってまだアンタには何一つ危害を加えてねぇよな!? だ、だからその……俺の事だけは見逃してくれよ! な、なぁ、頼むよ!」

「はぁ、いやまぁ確かに俺には危害は加わってねぇけど……でも見逃すなんて無理に決まってるだろ? だってお前達はさ……俺にとって一番大切な女の子を傷つけようとしてたんだぜ? そんなの……そんなの絶対に許せるわけねぇだろうがよ……!」

「ひ、ひえっ……!?」

「ふ、ふぇっ!? 一番大切な女の子っ!?」


 という事で俺は先ほどからずっと溜め込んでいた最大限の怒りをようやく表情に出していった。するとその瞬間目の前の残された最後の野盗は恐怖で顔を思いっきり歪め始めていった。


 そして何故か後ろにいるアーシャからもビックリとしたような声が聞こえて来たんだけど……でも今はそっちに注目する余裕はないのでとりあえずアーシャの方の声は聞かなかった事にしておく。

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