第30話:野盗集団の様子を伺ってみる

 俺は地面に倒れていった男に突き刺した短剣を回収していき、そのまま短剣をじっと眺めていった。


(この短剣……ちょっと切れ味良すぎじゃねぇか?)


 その短剣はつい先日に国王様から譲り受けた護身用の短剣だった。


 今はこれ以外に武器を持ち合わせていなかったので、俺はこの短剣を使ってみたんだけど……思っていた以上に切れ味が良すぎてビックリとしてしまった。


 少なくとも俺が普段愛用している冒険者用の片手剣よりも遥かに凄まじい切れ味だった。きっとかなりの業物なんだろうな。


「お、おい! スコット!? どうしたんだよオイ!!」

「だ、駄目だ……もう死んじまってるよ!!」

「ち、ちくしょう!! なんだテメェは!?」


 そんな感じで国王様から譲り受けた業物の短剣をじっと見つめていると、野盗集団は俺を睨みつけながら大きな声でそう怒鳴りつけてきた。


 でも俺はとりあえずそれを軽く無視して怖がっているアーシャの方に向かって優しく声をかけていった。


「……久しぶりだね、アーシャ」

「え……って、えっ!? も、もしかして……セ、セラス君……なの……?」

「うん、そうだよ。本当に久しぶりだね、アーシャ。まぁお互いに積もる話もあると思うけど……とりあえず今はこの状況をさっさと片付けようか」

「えっ!? だ、駄目だよ……セラスが……こ、殺されちゃうよ……わ、私の事は良いから……セラス君だけでも逃げて……」

「ううん、大丈夫だよ。こう見えても俺は結構強いんだ。それに俺は五年前にも言ったよね? アーシャの事は……俺が必ず守るってさ」

「え……あっ……」

「だから大丈夫。アーシャは安心してここで待っててよ。すぐに片付けるからさ」

「……うん。わかったよ。セラス君」


 という事で俺はアーシャに優しくそう言って安心させていった。そしてそれからすぐに俺は野盗集団の方に目を向けていった。


「く、くそ……ガキ同士でイチャイチャしやがって……!! スコットを殺した報いを必ず受けさせてやる!」

「あぁ、そうだな! おいテメェ! 一体何者なんだ! 軍の人間って訳じゃねぇよな?」

「……俺はただの冒険者だよ」

「ぼ、冒険者だと!? まさかギルドで俺達の討伐依頼でも受けてきたのか!?」


 野盗は目を見開きながらそんな事を言ってきた。


 実は冒険者の依頼にはモンスターの討伐以外にも指名手配犯や凶悪犯罪者などの討伐依頼もあるんだ。


 だから今目の前にいるような野盗などの凶悪犯に関してのみ、冒険者である俺らにも裁く権限が国から与えられているんだ。


 なので目の前の野盗集団は俺の事を野盗の討伐依頼を引き受けた冒険者だと思ったようだ。でも……。


「ぶはは、何だそれ面白い冗談だな! 俺達はガキ一人如きに潰されるような組織じゃねぇよ!」

「いやそもそも俺達の組織は優秀なんだぞ! 冒険者ギルドみてぇなカス集団に俺達の組織情報が出回るわけねぇだろ!」

「あぁ、そうだよな。確か今の所はまだ俺達の情報は全然回ってないはずだよな。って事は……このガキはただ偶然この森の中に居たってだけか? はは、なんだよ。ただの運の無いガキだったって事か!」


 でも野盗共は大きく笑いながらそんな事を言ってきた。どうやら時間が少し経った事で余裕を取り戻してきたようだ。


 まぁそもそも目の前の野盗共の方が人数的に俺よりも遥かに有利だしな。だから時間が経ったら余裕を取り戻すに決まっている。


 でもコイツらは全然わかっていない。俺は冷静なフリをして野盗共の話を聞いてたけど内心は滅茶苦茶にブチギレていた。だって……。


(アーシャの事を犯そうとしてたなんて……そんなの世界的規模の大犯罪だからな! 絶対にブチ殺す!!)


 という事で俺は最推しキャラのアーシャが犯されそうになっていたという事実に滅茶苦茶にブチギレていた。マジでコイツら全員ブチ殺す。


 でもその前に俺はちゃんと情報収集をするために目の前の野盗集団について観察を始めていった。


 とりあえず目の前にいる野盗は合計で四人だけのようだ。野盗にしては人数は少ない気がするけど、辺りに仲間がいるような気配は一切感じない。


 うーん、もしかしたら近くに仲間がいるアジトがあるのかもしれないな。


「おい、テメェ! 黙り込んでんじゃねぇぞ! 今更怖気づいたのか!」

「ん? いや別にそういう訳じゃねぇよ。ただ……って、えっ?」


 さらに観察を続けていってみると、その野盗共の腰にはスカーフのようなものが取り付けられている事に気が付いた。


 そしてそのスカーフには凶暴そうな熊を模した紋章が入っていた。それはゲーム本編でも何度も見る事になる“とある集団”の紋章だった。


「なぁ……もしかしてアンタらって“狂戦士ベルセルク”なのか?」

「え……って、は、はぁっ!? な、何でテメェみたいなガキが俺達の組織を知ってんだよ!?」


 俺がそんな事を尋ねていくと、目の前の野盗たちは途端に狼狽え始めていった。


(あぁ、やっぱりそうだったのか)


 その熊の紋章はゲーム本編で俺ことセラス・アルフィードがリーダーを務めている傭兵集団“ベルセルク”の紋章だった。


 元々ベルセルクはただの野盗集団だったんだけど、狂人になったセラスがその野盗集団を乗っ取って最凶の傭兵集団に変えていったんだ。


 そして何故セラスがそんな事をしたのかというと……実はこのベルセルクという野盗集団こそがセラスを誘拐して変態貴族に売り払った集団だったからだ。


 狂人となったセラスは野盗集団への恨みも忘れておらず、変態貴族をブチ殺した後で次にベルセルクのリーダーをブチ殺していくんだ。そしてセラスはそのまま野盗集団を乗っ取っていく事になるんだ。


 だからゲーム本編でもセラスが率いる傭兵集団“ベルセルク”とは何度も戦う事にあるんだよな。はは、何だか凄く懐かしい気持ちになるなぁ……って、あれ? い、いや、待てよ?


(そんなベルセルクが目の前にいるって事は……もしかして今日この日が俺が襲われる日だったって事か!?)


 俺はその事実に気が付いて瞬時に驚愕していった。なるほど、つまりゲーム本編だとセラスは貴族学園の入学試験の帰り道でベルセルクに襲われてしまったんだな……。


 でもそれなら今この状況で俺じゃなくてアーシャが襲われていた理由がよくわからないんだけど……まぁでも目の前にいる野盗集団が“ベルセルク”だとわかったならもう容赦する必要は一切無いな。


 よし、全員ブチ殺そう。

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