第28話:翌日になったらシュバルツはさっさと一人で帰りやがった。

 翌日の朝。


 王都から各領地に向かう馬車の停留所前にて。


「え、えっと……今なんて言いましたか?」

「い、いえ、ですから、その……ご予約のアルフォンス領行きの馬車は既にお客様を乗せて出発しておりますが……」

「は……はぁっ!?」


 俺が予約していたアルフォンス領行きの馬車が見つからなかったので、受付の人に話を聞いてみたんだけど……どうやらシュバルツが一人でその馬車に乗り込んでそのままアルフォス領に既に旅立ったらしい。


(あ、アイツ……俺の事を置いていきやがったのか!?)


 アイツまじで最近性根が腐り過ぎててやべぇだろ! クソ親父と何ら変わんねぇじゃねぇか!! 絶対に許さねぇからな!!


「ご、ご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ございませんでしたっ! ご予約のお客様に“客は僕一人だから早く出発しろ”と言われましたので、我々はその指示に従ってすぐに馬車を出発させていったのですが……ま、まさかお連れ様がいたなんて……」

「え? あぁ、いえ、そんなの全然気にしないでください。別に怒ってるわけじゃないんで」


 受付の人は凄く申し訳なさそうな顔をしながら俺に向かって深く頭を下げてきた。どうやら俺が相当ブチ切れてると思ったようだ。


 でも俺は馬車の業者に対してブチ切れてるわけじゃないので、そんなのは気にしないでくれと言っていった。でもシュバルツだけは絶対に許さん。


「そ、それでその、大変申し訳ないのですが……今日は他の馬車も全て稼働しているため、アルフォス領行きの馬車の今から用意するとしても半日以上はどうしてもかかってしまうのですが……」

「あぁ、そうなんですね。わかりました。それじゃあ今日はこのまま走って帰るので大丈夫です。こちらこそ弟がご迷惑をおかけしました」

「は、はい、わかりま……って、えぇぇぇえっ!? 走ってアルフォンス領に帰るですって!? む、無茶ですよ!! 王都からアルフォス領まで一体どれくらいかかると思ってるんですか!?」

「大丈夫ですよ。ほら、俺は手荷物とか全然持って無いですし、だからアルフォンス領までは快適に手ぶらで走っていけると思いますよ」

「いやいや! そう言う問題じゃないですって! 私は王都からアルフォス領までの“距離”の事を言ってるんですよ! 王都からアルフォンス領まで走って向かうなんて距離的に絶対に無理です! だって歩いてでも3~4日は絶対にかかってしまう距離なんですよ!? だ、だから考え直してください! たった半日だけ王都で待って頂くだけで馬車は用意できるんですから!!」

「はは、大丈夫ですよ、こう見えて身体は丈夫なんで! それじゃあ失礼致します!」

「えっ!? あ、ちょ、ちょっと!! お客様!?」


 俺はそう言って馬車の停留所を後にした。まぁせっかくだしこれも鍛錬の一環という事で走ってアルフォンス領に帰るのも良いだろう。


 それに早くアルフォンス領に帰った所でクソ親父からのお小言が待ってるだけだしな。それならノンビリと帰ってこの世界をじっくりと堪能するのも良いと思ったんだ。


「それにしても……王都に来れて本当に良かったよなー」


 俺は王都の風景をゆっくりと眺めながらそんな事を呟いていった。だって王都ってゲーム本編で一番行く事になるマップだしさ。だからこの数日間は聖地巡礼をしている気分が味わえてとても楽しかった。


 でもだからこそたった数日間しか王都に滞在出来なかったのはちょっと悲しい気持ちにもなるよな。もちろん貴族学園に合格していたらまた近い内に王都には戻ってこれるんだろうけど、でも……。


「……ま、本当に合格してるかなんてわからないからなぁ……」


 フランツは大丈夫だって言ってくれたけど、でも俺の魔力測定に関しては完璧に0点だったわけだしさ。だから本当に試験に合格しているかどうかなんていうのは最後まで待ってみなければわからない。


 まぁでも試験に不合格だったとしても、その時は今まで通りアルフォンス領で生活するだけだから別に何も問題はないか。


 それに俺はこの六年近くもの間、毎日頑張ってモンスター討伐をし続けてきた事で貴重なアイテムも沢山集めてきたし、調合システムのおかげでお金もかなり稼いできた。だから貯金も相当に貯まっている。


 だから試験が不合格だったらしばらくは何の仕事もせずに家の中でノンビリとスローライフな生活を送るってのも悪くないかもしれないな。家の中にずっと引きこもってたら流石に野盗に襲われる事もないだろうし。


「……うん、そうだよな。試験が合格でも不合格でもどっちに転んでも今の俺なら貯金も沢山あるし何とでもなるよな! だからとりあえず今は試験結果を楽しみに待つ事にしよう!」


 という事で俺はそんな事を言っていきながら、早速アルフォンス領へと向かって全力で駆け出していった。よし、それじゃあ今日も鍛錬を頑張っていくぞ!

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