第27話:セラス君と別れた後(フランツ視点)

「うん。それじゃあこれで本日の試験は全て終了だよ。それじゃあお疲れ様。また今度、王都でまた会えるのを楽しみにしているよ」

「はい、こちらこそです。それでは失礼致します」


 そう言ってセラス君は試験会場から退出していった。そして試験会場に一人になった僕は笑みを浮かべながらこうポツリと呟いていった。


「ふふ、彼のような素晴らしい若者がいるなんてね……」


 僕はそう呟きながらセラス君が出ていった扉の方をじっと見つめていった。あんなにも貴族の矜持を持っている受験生を見たのは久々だった。


 実は近年はこの貴族学園を社交の場だと勘違いして、良い家柄の婚約者を探すためにこの貴族学院に入ろうとする受験生が非常に多くて困っていたんだ。


 でもこの貴族学園が設立された理由は社交の場のためなんかでは決してない。


 この貴族学園はこの国をより良い方向に導くために、未来ある貴族の子供達のリーダーシップ性や指導力を育むために設立されたんだ。


 そもそも“貴族”とは弱き人々を守るために存在するとても高尚な者達なんだ。だから貴族として生まれた子供達に早い段階でこの国を導くための力や心構え、矜持などを学ばせたいという想いから先代の国王がこの貴族学園を設立されたんだ。


 それなのに平和な時代がずっと続いてしまった事で、貴族達はその国民を守るという矜持プライドを忘れてしまい、守るべき国民から金を巻き上げ私腹をこやす者がどんどんと増えていってしまっている。


 さらにタチの悪い事に、貴族の中には高位な者であるという矜持すら忘れて奴隷を買い漁って性奴隷を作っている変態貴族などもいるようだ。


 貴族の矜持や使命を忘れてそんな低俗な事をしてるなんて本当に嘆かわしい事だと思う。


「だけど……セラス君のような若者がいるなら安心だな」


 先ほどのセラス君にはそのような現状の私利私欲に塗れた貴族達とは一線を画すような本物の信念や意思を感じ取った。あそこまで血に滲むような努力を続けてきたなんて本当に凄い事だからね。


 そして今現在、魔王復活の兆候が出てきているのは事実だ。そしてそれは全国にいる貴族たちにしっかりと伝えているのに、それを知らんぷりしてる貴族が非常に多いのも事実だ。


 だから魔王が復活したらすぐに混沌の世界が始まってしまうのではないかと不安に思っていたが……でもセラス君のような若者がいるのなら安心だ。


「ふふ、きっと彼のような若者こそが将来復活するであろう魔王を倒す逸材となるのだろうな……僕の“師匠”のようにね」


 僕の師匠は王族の身でありながら勇猛果敢に勇者パーティに加わって先代の魔王を打ち倒したんだ。だからきっとセラス君も僕の師匠と同じように勇猛果敢に魔王討伐に参加してくれる事だろう。


 よし、それじゃあ僕も……そんな素晴らしい若者達を導く一人の大人として、これからの僕に出来る事をしっかりと模索していく事にしよう。


「……あ、そうだ。せっかくだし今日の出来事はアーシャにも話してあげようかな」


 先ほども言ったようにアーシャは今は隣の領地で聖女の仕事をしている最中だ。でも明後日にはアーシャも久々に王都に帰ってくる。


 そしてアーシャは今でもセラス君との思い出を楽しそうに話しているんだ。だからせっかくだし明後日はアーシャと再会出来たらセラス君と入学試験で会った事を教えてあげよう。きっとセラス君の話をしたらアーシャも喜ぶに違いないからね。


「あぁ、でも……ふふ、もしかしたらアーシャに怒られてしまうかもしれないなぁ」


 僕一人だけがセラス君と会ったなんてアーシャに言ったら怒られてしまいそうだけど……まぁでもアーシャにも大切な仕事があったんだからしょうがないよね。


 それにきっとセラス君は貴族学院に通う事になるだろうし、そうなったらアーシャも毎日セラス君と会えるだろうからね。


 だから後しばらくだけはセラス君と再会出来なかった事は我慢して貰う事にしよう。


「あとは……あぁ、そうだ。今日の出来事はアーシャだけじゃなくて“師匠”にも話しておかなきゃだな」


 それにきっと師匠もセラス君のような若者は好きだと思うし、近い内に師匠にセラス君の事を紹介してあげる事にしよう。

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