第26話:フランツにそれらしい理由を言って誤魔化していく

 さてと、それじゃあどうやって誤魔化していこうかな?


(うーん……って、あ、そうだ!)


―― 実はここ数年前から……魔王が復活する兆候が出ているのです。


 そうだ。そういえばレインがそんな事を言ってたっけ。よし、それじゃあそこら辺の話を使って適当に誤魔化していく事にしよう。


「鍛錬を頑張って続けてきた理由なんて……そんなものは決まってます。我が祖国であるこのレティシア王国に住む善良なる人々を守るためです!」

「人々を守るため? 是非とも続きを聞かせてくれ」

「はい。私は幼少の頃より母であるレイン・アルフィードから魔物の大量発生が起きており、それが魔王の復活の兆候だと考えられている事を教えて貰いました。なので私はこの誇りあるレティシア王国の貴族に生まれた者として……この国に暮らす人々を守るために私は今までずっと鍛錬を行ってきたのです。いつかまた魔王との争いが始まってしまった時に、力を持たない人々を守るための力を得るために……私は今まで血に滲む思いで毎日必死に頑張ってきたのです!」

「……」


(……自分で言ってみてアレだけど、流石にちょっとクサすぎるセリフだな)


 まぁでもゲーム本編をプレイしてるから魔王がこれから復活するのは知ってるし、これから混沌の世界が始まるのも知ってるしな。


 だから俺はそんな魔王復活の事を理由にしてフランツに話していってみた。するとフランツは……。


「……素晴らしい」

「……え?」


 するとフランツは急に涙を静かに溢し始めてきた。


(え、ま、まじで?)


 どうやら俺の言葉を聞いて涙を流し始めたようだ。でもそんな感動的な事を言ったつもりはなかったんだけどな? ってか完全にクサ過ぎるセリフだったし。


「え、えぇっと、フランツさん……?」

「え? あぁ、ごめんごめん。君のような“本物の貴族”に出会えた事がとても嬉しくて……つい涙を流してしまったよ。君の事はまだまだ子供だと思っていたが、しかし……そのような気高き貴族の心を持っているだなんて……本当に感動したよ。君は本当に素晴らしい貴族だ」


 フランツは涙を静かに溢し続けながらそう言ってきた。


「え、えぇっと、そんなに私の考え方って珍しいんですかね?」

「うん、そうだね。こんな事を貴族学園の試験官である僕が言うなんて絶対に駄目だと思うけど……今の貴族というのは自分達の利権確保に全力を注いでる人が大多数だね。まぁ魔王がこの世にいなくなってだいぶ経つし、この平和な世界にも慣れきってしまったんだろうね。だから今では私腹をこやして自分に都合の良い奴隷を買い漁っている変態貴族なども少なくないからね……」

「あ、あぁ、なるほど……」


 フランツのそんな話を聞いて俺は大きく頷いていった。だってゲーム本編だと俺は変態貴族に買われて毎日ケツ穴を掘られる事になってるんだからな。


 というか俺のクソ親父だって俺の教育費を全部ぶっこ抜いて街に住んでる若くて可愛い女の子をメイドに雇って毎晩のようにエロイ事してるし……って、いやそう考えたら俺のクソ親父も変態貴族の内の一人じゃん!!


「だけど近年はセラス君の言う通り魔物の数も多くなってきてるし、魔王復活の兆候も出てきてるからどんどんと不穏な空気が流れて初めてるんだよ。それなのにその事実を知らんぷりしてる貴族が非常に多いんだ。自分達の利益が一番大事だっていう考え方の貴族ばかりなんだよ……」

「そうなんですね……」


 そしてそんな話を聞いていたらいつもレインが眉間に皺を寄せながら厳しい表情で外交仕事をやっている理由が何となくわかった。


 そりゃあこの国の未来を考えない貴族達との話し合いを毎日のように強いられるなんて、頭も痛くなるし眠れなくなる日々が続くに決まってるよな。本当にレイン義母さんだけは報われて欲しいわ……。


「うん、そうなんだ。本来ならば今は人類全員が結束しなければならないというのにね。だからこそ……」

「だからこそ?」

「うん、だからこそ……君のような本物の貴族の心を持っている若者こそがこのレティシア王国に必要なんだ。そして君のその善良なる人達を守りたいという想いから生まれたその力を……是非とも我がレティシア王国に捧げてくれないだろうか?」

「はい、そんなのはもちろんです。今はまだまだ未熟ではありますが……しかしこれからも鍛錬を続けていって、祖国であるレティシア王国のためにこの剣を捧げていきたいと思っております」


 俺はそう言って模造の片手剣を掲げていった。するとフランツはその様子を見てゆっくりと頷いてきた。


「……うん。君のような素晴らしい若者とこの試験で出会えて本当に良かった。それではセラス君の体力測定と面接に関しての結果を口頭で伝えさせて貰うよ。文句無しに共に100点だ」

「え、ほ、本当ですか? と、というか……今のが面接だったんですか?」

「うん、そうだよ。やっぱり面接は受験生の素の声を聞く事が一番重要視されてるからね。だから試験説明の時に面接は具体的にいつ行うとかは一切言わないようにしてたんだ」

「な、なるほど。そうだったんですね」


 確かに面接対策をバッチリとやっていてお行儀の良い回答しかしてこない受験生とかもいるだろうしな。だからこうやって不意打ちの面接が行われるわけか。


 でも俺も正直かなり適当な事しか喋ってないと思うんだけど……ま、いっか。


「うん、という事でセラス君の入学試験についてはこれで終わりだよ。合否に関しては全ての試験を総合的に見て判断される事になるけど、セラス君の試験結果なら間違いなく合格だろうね。せっかくだから僕からも推薦状を送ってあげるよ。セラス君はこの国に必要な素晴らしい若者だってね」

「はい、ありがとうございます! フランツさんにそう言って貰えると嬉しい限りです!」

「うん、そう言ってくれると僕も嬉しいよ。それじゃあ貴族学園に通うようになったら、これからは何かあったらいつでも僕の事を頼ってくれて構わないよ。普段は王都にある軍の詰所にいる事が多いから、困った事があったらいつでも尋ねてきてくれ。軍の詰所には君の名前を言ってくれれば僕の所に通してくれるようにしておくからね。剣の修行などをしたい時は僕の事を尋ねてくれて構わないよ」

「はい、ありがとうございます。何から何まで本当にありがとうございます!」

「うん。それじゃあこれで今度こそ今日の試験は全て終了だよ。お疲れ様セラス君。これからは君と王都で会えるのを楽しみにしているよ」

「はい、こちらこそです!」


 こうして俺は剣聖フランツ及びレティシア王国の軍とも深い繋がりを得ていく事が出来たのであった。これは非常に頼もしい限りだな!

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