第25話:剣聖フランツとの手合わせ

「そういえばセラス君は武器は何を使うんだい? ここには一通りの模造武器が揃っているからセラス君の使いたい武器を教えてくれれば取って来てあげるよ」

「わかりました。それでは片手剣をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「うん、片手剣だね。それじゃあ……はいこれ。さっきも言ったけど模造の武器だから殺傷能力はないよ。だからセラス君は僕に気にせず本気で攻撃してきてくれて構わないからね」

「はい、ありがとうございます!」


 全力で攻撃をしても良いだなんてそれはとてもありがたい。剣聖であるフランツに俺の剣技を見て貰う絶好のチャンスだ。


 という事で俺は模造の片手剣を手に持って早速構えていった。フランツも俺と同じく模造の片手剣を手に持ってじっと俺の事を見つめてきていた。


「セラス君の準備は大丈夫そうだね? それじゃあいつでも好きなタイミングで来てくれ!」

「はい、わかりました。それじゃあ……いきます!」

「うん! わかった……って、なっ!?」


―― ビュンッ!


 俺はフランツに一気に近づきそのままフランツの頭に目掛けて剣を振り落としていった。まぁやっぱり戦う時は急所を狙うのが一番だしな。


―― ガキンッ!!


 しかし俺の振り下ろした剣はフランツの持つ片手剣でいとも容易く受け止められてしまった。


「はは、やっぱりこんな子供騙しな攻撃では簡単に受け流されてしまいますよね?」

「え? あ、あぁ、まぁね……?」

「流石はフランツさんですね。よし、それじゃあもうここからはもう少し早く動いてみますね!」

「え……って、えっ!? こ、これ以上早く動けるのかい!?」

「はい、もちろんです。それじゃあ……いきます!」

「えっ!? あ……ぐっ!?」


 俺はそう言ってさらに速度を高めていきながらフランツの身体に目掛けて何度も斬撃を繰り出していった。


―― ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ!


 しかしフランツは先ほどと同じように俺の斬撃を全て完璧に受けきってみせていった。やっぱり俺みたいな子供の攻撃なんて全部簡単に対処できるに決まってるよなぁ。


 あれ? でもよくよく見てみると……何故だかフランツは額に汗をかき始めていっていた。


(はは、もしかして俺のためにわざと辛い表情を浮かべてきてくれてるのかな?)


 そんな事を思いつつも俺は剣を振るうのがどんどんと楽しくなってきたので、そのまま笑みを浮かべながらフランツに向けて猛攻を浴びせ続けていった。そしてその猛攻によってフランツには一瞬の隙が生まれた。


 なので俺はその隙をついてフランツの背後に回り込んでいき、今度こそフランツの後頭部に目掛けて大きな一撃を食らわせていこうとしてみせた。


「なっ!? くっ……!!」


―― ガキンッ!!


 しかし俺の動きを目で捕らえていたフランツは急いで身体を反転させていき、そのまま後頭部に目掛けた俺の一撃もしっかりと片手剣で受けきられてしまったのであった。


 やっぱり“剣聖”の称号は伊達ではないようだ。よし、それじゃあ……。


(よし、それじゃあ……俺の全力をぶつけてみるとしよう!)


「……ふぅ」

「?」


 という事で俺は一旦フランツへの攻撃を中止して距離を取った。そしてほんの一瞬だけ全身の力を完全に脱力させていき……そして――!


「ふんっ!」

「え……って、なっ!?」


―― ビュンッ!


 俺は再び全身に力を込めて全力でフランツに近づき、フランツの頭、喉元、胴体に目掛けて無拍子の三連突きを繰り出していこうとした。しかし……。


(って、あれ?)


 しかしフランツは何故か俺の三連突きを受け止めようとする動作が一切見られなかった。先ほどまでは俺の攻撃を全てちゃんと受け止める動作をしてたはずなのに。


 なので俺は慌ててその三連突きを寸止めしていった。いくら模造の剣だと言っても人体の急所を突かれたら怪我をしてしまうかもしれないしな。


 そしてそのまま俺はフランツに向かって急いで頭を下げていった。


「す、すいません。こんなにも剣を思いっきり振れる機会なんて一度もなかったので、楽しくなり過ぎて調子に乗ってしまいました。でも何故今の攻撃をフランツさんは受け止めようとしなかったんですか?」

「えっ? あ、あぁいや、違うんだ。今の最後の剣技があまりにも凄すぎて……正直僕には見切る事が出来なかったんだ。あんな無拍子の三連突きなど誰にも避けようがない。もしもこれが実践だったとしたら僕は確実に致命傷を負わされてた……それほどまでに凄まじい攻撃だったよ。本当に素晴らしい剣技だったよ」

「えっ? そ、そうだったんですか? あ、ありがとうございます。軍人であるフランツさんにそこまで褒めて頂き光栄です」


 フランツは俺に向けて盛大なる賛辞を送ってきてくれた。でもまさかここまでの賛辞を貰えるなんて思わなかったのでちょっとだけビックリとしてしまった。


「うん、本当に凄かった。でもセラス君はこんなにも凄い力をどうやって身に着けたんだい? もしかして誰か有名な剣のお師匠さんでもおられるのかな?」

「あぁ、いや、これらは全て独学で身に着けました」

「へぇ、そうなん……って、な、何だって!? これを全て独学で!?」


 俺がそう言うとフランツは途端に驚愕としたような表情を浮かべてきた。そして驚愕とした表情のまま続けて俺にこう言ってきた。


「……僕も剣士の端くれだ。だからセラス君がこんな凄い力を身に着けるためには、おそらく幼少の頃から血に滲むような思いで必死に鍛錬を続けてきたという事は容易に想像つくよ。そんな努力を感じさせる程に凄まじい力だったからね。そしてそのセラス君の努力は本当に素晴らしい事だと思うよ」

「あ、ありがとうございます。恐縮です」

「だがしかし……セラス君は一体何故ここまでの力を身に着けようとしたんだい? こんな凄い力を得るために幼少の頃から血に滲む思いで修練を続けてきたその理由を僕に教えて欲しいんだ」

「えっと、それは……」


 理由なんて言われても“野盗に襲われて変態貴族にケツ穴を掘られたくないから鍛錬を始めました!”なんて本当の事を言ってもヤバイ奴にしか見えないよなぁ……。


 それに今はどっちかというとモンスターをサクっと倒せるようになりたいっていうゲーム脳な目的で鍛錬を頑張っているんだ。でもそんな邪な気持ちで剣の修行をしてるって“剣聖”相手に言うのも何かアレな気がするよな。


 という事で俺はそれらしい理由を適当に考えて誤魔化していく事に決めた。

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