第21話:国王様と一緒に墓参りに行く

「はい、それじゃあこれで全部ですね」

「あぁ、ありがとう、少年。凄く助かったよ」


 俺は地面にばら撒かれた花をかき集めておじいさん……というか国王様に手渡していった。


「いえいえ、当然の事をしたまでです。でもこんな街中で転んでしまうなんて災難でしたね。何かにぶつかってしまったとかですか?」

「いやそういうわけじゃないんだ。今日は久々に外出をしてみたんだよ。そしたら足腰がだいぶ弱っていたようでね、それで普通によろめいてしまっただけなんだ」

「え、そうだったんですか? もしかして最近まで体調を崩してしまっていた感じですか?」

「あぁ、そうなんだよ。実はちょっと前に流行りの病に罹ってしまってね。それで今までずっと家のベッドで生活を送っていたんだけど、つい先日にようやくその病気が治ったんだ。それで今日は久々にこうやって外に出てみたというわけさ」

「へぇ、そうだったんですね。流行り病が治ったようで本当に良かったです。でも病気は治りかけが一番危ないですから、これからも十分に気を付けてくださいね」

「あぁ、うん、ありがとう。少年。これからもしっかりと気を付ける事にするよ」


 どうやら国王様は少し前まで流行り病に罹っていたそうだ。


(まぁ流行り病っていうくらいだし風邪とかそういうのかな?)


 という事はまだ現時点では不治の病に侵されている訳ではないって事だな。うん、それじゃあ国王様が病で亡くなってしまうのはまだまだ先の事なんだろう。


「はい。気をつけてくださいね。あ、それで、えぇっと……おじいさんは今は何をされていたんですか? 花束を買いに来ただけなんですかね?」

「あぁ、いや実は今からちょっと古い友人の墓参りに行こうと思ってね。ほら、今までずっと病気だったから中々友人の墓参りに行けてなくてさ。だからこれを機に墓参りに行こうと思ってまずは花束を買いに来たんだ。そしたら足腰がだいぶ弱ってたようでうっかりと転んでしまったという訳さ。はは、本当に恥ずかしい限りだよ」

「あぁ、そうだったんですね。なるほど、そういう事でしたら……私も良かったらそのお墓参りについていってもよろしいでしょうか?」

「え? 君も一緒にかい?」


 俺がそんな提案をしていくと国王様はちょっとだけビックリとした表情でそう尋ね返してきた。


「はい、おじいさんがまた倒れてしまう可能性もあると思いますし、良かったら私にもそのお墓参りを一緒に手伝わせて頂きたいんです」

「うーん、そう言って貰えるのは嬉しいが……しかし良いのかい? 少年はこのあとは予定とかはないのかい?」

「はい、全然大丈夫です。予定なんて何もありませんし。それに私も祖国の先人達を敬う気持ちは持っていますからね。だから是非ともおじいさんのご友人のお墓参りを私にも手伝わせてください」

「……そうか。うん、私の友人達の事をそんなにも敬ってくれるなんてとても嬉しいよ。きっと天国にいる友人達も喜んでくれるだろうな。ふふ、それじゃあ一緒に墓参りを手伝ってくれるかい?」

「はい、わかりました」


 という事で俺はこうして国王様のお墓参りを手伝う事となった。


◇◇◇◇


 それから程なくして。


 国王様の案内によって目的地である墓地に到着したので、俺はそのままお墓参りの手伝いを始めていった。


 お墓周りの清掃や花の入れ替え、水やりなど出来る手伝いは全部行っていった。


 そしてお墓参りの手伝いを開始してから数時間が経過した頃、ようやくお墓参りの仕事を全て終える事が出来た。


「うん、今日は助けてくれて本当にありがとう、少年。本当に凄く助かったよ」


 無事にお墓参りを終える事が出来た国王様は俺に向かって深々とお辞儀をしてきてくれた。


「いえいえ、目上の方を敬うのは当たり前の事です。私もおじいさんの役に立てたのなら何よりです」


 俺はそんな国王様に向かって柔和な笑みを浮かべながらそう返事を返していった。


 でも国王様相手にこんなフランクに接するなんて明らかに不敬罪な気がするけど……でも国王様は別に身分を明かしてるわけじゃないしな。だから俺はこのまま最後まで国王様だと知らない事にしてフランクに接し続ける事にした。


(でも結局の所……このお墓って誰のお墓だったんだろう?)


 結局誰のお墓かはわからなかったけど、でも国王様の病気が治ってすぐにお墓参りに来たって事はきっととても大切な友人だったんだろうな。


「……ふふ。君は本当に凄く優しい心の持ち主なんだね。それにその口に聞き方や佇まいを見るに……もしかして君は貴族なのかな? もしそうなら良かったら家名を教えて貰う事は出来るかい?」

「あぁ、はい。私はセラス・アルフィードと申します。ここから北西部にあるアルフォンス領を統治している伯爵家の息子です」

「アルフィード……あぁ、なるほど。アルフィード家と言えば確か魔術の名門家と呼ばれている所だね……って、うん? セレス? 君の名前はセラス・アルフィードと言うのかい?」

「え? あぁ、はい、そうです。私はセラス・アルフィードと申しますが?」


 俺の名前を聞いた国王様は唐突にかなり驚愕としたような表情をしてきた。いや俺の名前はそんな変な名前ではないとは思うんだけどな?


「そうか……君があの……」

「? どうかしましたか?」

「えっ? あぁ、いや、なんでもないよ。ただの独り言さ。だが……なるほどね。まだまだ子供ながらその礼節を重んじる心を持っているとは、中々に素晴らしい少年だ。うん、それじゃあそんな君に感謝の気持ちとして……これをプレゼントしよう」

「ありがとうございます。えぇっと、これは……もしかして短剣でしょうか?」


 そう言って国王様は俺に小ぶりの剣をプレゼントしてくれた。中々に高級感のあるオシャレな感じのナイフだった。


「あぁ、その通りだよ。良かったら護身用に使ってくれて構わないよ。それと今後何か困った事があればその短剣を持ってこの王都にある冒険者ギルドを尋ねると良い。そうすればそこのギルドマスターが何でも話を聞いてくれるはずだからね」

「え……って、えぇっ!? この王都のギルドマスターがですか!? そ、それってつまり……全国にある冒険者ギルドのトップって事ですよね?」


 全国至る所に存在している“冒険者ギルド”という施設だが、その総本山がこの王都にある冒険者ギルドだ。そしてそこのリーダーを務めている者こそが全冒険者達の頂点に立つギルドマスターだ。


 だからギルドマスターは支部長のダグラスよりも遥かに偉い人という事になる。ちなみにゲーム本編だとそのギルドマスターは仲間になるキャラでもある。


「あぁ、そうだよ。ふふ、実は私はこう見えて若い頃は凄腕の冒険者だったんだ。それでその時の功績もあって今でも私は冒険者ギルドには顔が利くんだ。だから君が何か困った事があったらその短剣を持って冒険者ギルドに尋ねると良い。きっと何でも話を聞いてくれると思うからね」

「あ、ありがとうございます! それは凄く助かります!」


 という事で俺は国王様から滅茶苦茶に貴重な短剣を貰う事が出来たのであった。


 これはきっと俺にとっていつか必要になる日が来るに違いない。それほどまでに重要なアイテムを手に入れる事が出来たんだ!


(でも何で墓参りの手伝いをしただけでこんなにも凄い物を俺にくれたんだろう?)


 お墓参りを手伝っただけでこんな国宝級のアイテムを貰えるなんて、何だか不思議な感じだけど……まぁでも今はありがたく頂戴する事にしておこう。

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