第18話:なんかよくわからんけど、王都に行く事になった

「へぇ、あれが噂の王都かぁ……」


 俺は弟のシュバルツと共に馬車に乗せられ王都に向かっている途中だった。そして深い森の中を抜けてようやく目の前には王都の城壁が見えてきた所だ。


「兄上。そんなに窓の外をジロジロと見てるとただの田舎者にしか見えませんよ? くすくす」

「仕方ないだろ。俺はお前とは違って王都には初めて訪れるんだからな」


 シュバルツは嘲笑いながら俺にそんな事を言ってきた。でも俺は生まれて初めて王都に行くんだから窓の外をキョロキョロと見てしまうのはしょうがない事だ。


 そして何で突然王都に行く事になったのかというと……それは数日前にクソ親父に呼び出された事が起因している。


◇◇◇◇


 数日前。ボロボロの掘っ立て小屋の中にて。


「は? 今何ておっしゃいました?」

「ふん! 貴様には耳がついてないのか!? もう一度しか言わないぞ? 貴様には王都にある貴族学院の入学試験を受けて貰う!」

「は、はぁ……?」


 クソ親父はいきなりそんな事を俺に言ってきた。でも意味が全然わからな過ぎて俺は素っ頓狂な声を出してしまった。


 だって俺はもうすぐ17歳になるけど、今まで一度もそういう学園的な所には入れて貰えてなかった。俺は今までずっと独学で勉強をしてきたんだ。


 それなのにどうして今更俺に貴族学園の入学試験を受けさせようとしてんだ?


「え、えっと、私はもうすぐ17歳になるのですが……その貴族学院とは何歳から通学するのが通常なのですか?」

「通常は15歳からだ。シュバルツがちょうど15歳になるから貴様もシュバルツと一緒に試験を受けてこい」

「なるほど? いやシュバルツが入学試験を受けるのはわかりますけど、私は二年も遅いじゃないですか。それなのに今更私が貴族学院の入学試験を受ける意味って何かあるんですか?」

「ええい煩い煩い!! 口ごたえをするんじゃない! 貴様は黙ってその入学試験を受けてこい!!」

「はぁ、まぁ父上が受けろと言うのであれば全然受けにいきますけど」

「ふん、それで良いんだ。それでは貴様とシュバルツは一緒に貴族学院の入学試験を受けて貰う。ちなみに試験は魔力測定、体力測定、面接の三種類だ」

「はぁ、なるほど……って、はぁっ!? 魔力測定!?」


 いやそんなの測定されても困るんだけど。だって俺の魔力値って0だぞ。魔力適正ないと駄目って事は俺は絶対に入学出来ねぇじゃん。


「もちろん貴様は由緒ある貴族家のアルフィード家の長男なんだ。だから主席合格して当然だよな?? なぁ、セラス??」


 そしてその瞬間、クソ親父は嘲笑を俺に見せながらそう言ってきた。


(なるほど、そう言う事か)


 俺は親父の嘲笑を見て全てを察した。親父も俺の魔力値が0なのは知っている。だって今まで十数年間ずっと魔術訓練をしてきたのに一度も魔術が発動出来てないんだから。


 だからこそクソ親父は俺をずっと無能なゴミクズだと言って隅っこに追いやって、代わりに弟のシュバルツの事を懇切丁寧に育ててきたんだ。


 そしてそんな丁寧に育ててきたシュバルツを周りから一目置かれる存在にして学園に入学させたいという思惑があるんだろうな。だから俺はシュバルツの当て馬に使う気なんだろう。


(という事は……クソ親父の作戦はおそらくこんな感じかな?)


 俺は入学試験の魔力測定でほぼ確実に最下位の結果を叩き出すので、俺は周りの受験者達から馬鹿にされる事になる。


 でも弟のシュバルツが魔力測定で最上位の成績を叩き出せば、無能な兄と超優秀な弟というレッテルを周りの受験者や試験監督に見せつける事が出来るだろう。


 そうなれば必然的にシュバルツは周りから一目置かれた存在として貴族学院に入学する事が出来るだろうな。


(それはクソ親父やシュバルツにとっても最高の状況になるな)


 だって貴族学院の役割は俺もちゃんと理解している。貴族学院の役割というのは勉学だけではなく、婚約相手の探し場所でもあるんだ。


 だからこそシュバルツがとても優れた男だというのを入学試験の時に見せつける必要があるというわけだ。良い家系の御令嬢と婚約を結ぶためにもな。


「おい、聞いてるのかセラス! 貴様も入学試験を受けるんだ! そこでセラスは好成績を取って必ず貴族学院に入学するんだぞ! 良いな!!」

「はい、わかりました」


 俺はそう言いながら素直にクソ親父に頭を下げていった。どうせ俺が試験を合格出来る訳ねぇと思ってるのに……どうしようもない狸ジジイだな。ま、でも……。


(王都といえばゲーム本編で何度も行く思い入れのある場所だし、いつか行ってみたいと思ってたから丁度良いわ)


 という事で俺は入学試験を受けに行くというよりも、軽いプチ旅行をする気分で王都に向かう事となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る