第16話:いつものように回復薬を冒険者ギルドに卸しにいく

 レインが外交仕事のためアルフィード家から出ていって数日後。


 俺は今日も変わらず冒険者ギルドにポーション薬などを卸すために街に向かって行っていた。


「おー、相変わらず今日も街は人で賑わってるなー」


 街に到着すると街並みには多くの人で溢れかえっていた。


 ちょっと前までは人の少ないノンビリとした田舎街だったのに、今では多くの人々がこの街に訪れるようになっていた。特に冒険者や軍人などの屈強な身体をしている人が多く目立っている。


 そしてもちろんそういう職業の人達がこの街に多くやってくるのには理由はある。それはこの街で売られている回復薬の品質が高いからだ。


 この街では普通の体力回復薬の“ポーション薬”だけでなく、中品質の“ハイポーション薬”や高品質の“メガポーション薬”など幅広い品質の薬が売られている。


 それだけでなく魔力回復薬の“マナポーション”や状態異常を回復するための各種アイテムも全種類売られている。こんなにも幅広くて高品質の薬が揃っているなんて、他の街では絶対にありえない事だ。


 そんなわけでモンスターなどと戦ったりする人達にとって必需品となる回復アイテムがこんなにも高品質な状態で沢山売られているという事で、その噂を聞いた冒険者や軍人がこぞってこの街にやって来るようになったという事だ。


 そして沢山の人がやって来てくるようになれば必然的にこの街の宿屋や武器屋、食堂などの利用客も大幅に増えるため、この街に建てられてる様々な施設の収益もここ数年で跳ね上がったというわけだ。


 これが前に言った“この街の税収がここ数年で思いっきり上がった理由”だった。つまりはこの街で売られてる回復薬目当てに利用する人が大幅に増えたという事だ。そしてそれはもちろん……。


(いやー、でもまさか手当たり次第に調合しまくってただけでこんなにも凄い事になるなんてな)


 そしてもちろんなんだけど、実はこの街で販売されている回復薬のほぼ全ては俺が“調合”で作り出してきた物だった。


 俺はこの数年間、調合システムのレベルをカンストさせたいという純粋なるゲーム脳で色々な回復アイテムを調合しまくって遊んでいたんだ。それで作り終えたアイテムを軒並み冒険者ギルドに売り払っていたんだ。


 それで冒険者ギルドを経由して回復薬を購入した冒険者や軍人がこの街の回復薬は高品質で素晴らしいという口コミを流していってくれた事で、この街の利用客がどんどんと増えていったという事だ。


 まぁ俺はただ調合システムのレベリングをやっていただけだから、街に訪れる人々を増やしたいなんて事は一切考えてなかったんだけど……それでも俺の住んでる街がどんどんと活気が出てくるのは嬉しいものだ。


◇◇◇◇


 それから程なくして。


―― ざわざわ……


「……ん?」


 冒険者ギルドに到着すると、何だか今日はギルド職員が思いっきりざわざわとしだしていた。


 俺はそんなギルド内の様子が気になったので近くにいた支部長のダグラスを見つけて早速声をかけていってみた。


「ダグラスさん、何かあったんですか? 何だかギルド職員が皆ざわざわとしてますけど?」

「ん? って、おぉ、セラ坊主か……お疲れさん……」


 俺はダグラスに声をかけていってみたんだけど……しかしいつも凄く豪快なダグラスが今日はかなり落ち込んだ様子に見えた。


「お、お疲れ様です。えっと……本当に何かあったんですか? ダグラスさんも何だか顔色が悪い気が……」

「えっ? あ、あぁ、いや、実はなちょっとな……今かなりの緊急事態が起きててその……大至急エリクサー薬が必要になってな……」


 ダグラスは酷く顔色が悪い様子でそんな事を呟いてきた。


「エリクサー? それって“万物の秘薬”と呼ばれてるあの最上級の薬の事ですか?」

「そうそう、その秘薬の事だよ。セラ坊主はまだまだ若いのによく知ってるな。はは、流石は毎日調合や薬の勉強を沢山してるだけあるな……」


 ダグラスが今言ったエリクサーというのは別名“万物の秘薬”と呼ばれている最上級の薬の事だ。


 エリクサーは“死”以外の病気や怪我は何でも治せると言われている凄まじい薬らしい。ちなみにゲーム中で使用すると味方全体のHPとMPと状態異常を全回復させる事が出来たので、まさに最強の回復薬と呼べる代物だった。


 ちなみにエリクサーの入手方法は最難関のダンジョンの宝箱から低確率で入手するか、もしくは低確率ドロップの超レア素材を消費して“調合”で作り出すかの二つだけだった。


 まぁそんなわけでソードファンタジアではエリクサーの入手難易度はかなり高いんだ。だから大至急エリクサーが必要になったという事でギルド職員達がこんなにもざわざわとしているんだな。

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