第二章:貴族学院の入学試験を受けさせられる(16歳)

第13話:それからさらに五年後

 あれから五年が経過した。


 気が付けば俺は十六歳になっていた。というかもうすぐ十七歳になる頃合いだ。


 それで十六歳になった俺は今何をしているのかというと……。


「ふん……ふん……!」


 俺は今も変わらずボロボロの掘っ立て小屋の前で剣の素振りを行っていた。もうかれこれ六年以上もの間自分の身体を鍛え続けていっていた。


 だけど当初は野盗を返り討ちにするという目的で鍛錬を始めていったはずなんだけど……正直今はもうそんな理由で鍛錬なんてしていなかった。


 今は純粋にこのソードファンタジアの世界を楽しむために鍛錬をひたすらと行っていた。


 だって正直な話さ……冒険者として周辺のモンスターを倒していったり、調合しまくって調合レベルを上げたりするのが滅茶苦茶に楽しすぎるんだよ。


 だから今の俺は野盗を返り討ちにするためというよりも、低確率でレアアイテムをドロップする強いモンスターをサクっと倒せるようにひたすらと鍛錬を続けている感じだった。完全なるゲーム脳である。


 でもそんなゲーマー脳だったおかげで今の俺は相当に強くなった。この周辺のモンスターなら俺一人で余裕で倒せるし、調合レベルも既にカンストしているので、今の俺に作れない調合アイテムは一つもない。そのおかげで金策もかなり順調だった。


 という事で俺はこの五年間はひたすらにソードファンタジアのレベリングやモンスター討伐RTAをやってる感覚だったので凄く楽しかった。


 でもこの五年間は楽しかった記憶だけではなかった。もちろんちゃんと辛い事も沢山あった。


 具体例に言うとクソ親父による魔術訓練という名のサンドバッグ役を未だに毎日やらされていた。この世界に転生してから六年間毎日のように親父と弟の繰り出す業火の魔術に身体を焼かされる日々を味わってきていた。


 そのせいで俺の背中にはおびただしい程の火傷の跡が沢山付いてしまっているけど、まぁでも火傷の痛みにも慣れてしまったので最近はどうって事はなくなってきている。


 でも火傷の痛みを全然感じなくなってきたって事は、もしかしたら毎日クソ親父達の魔術を食らってきたおかげで、俺の魔術耐性がかなり付いてきたのかもしれないな。……って、あれ?


(いや、でもさ……ゲーム本編でセラスのステータスの魔法攻撃力は0だったのに、魔法防御力がカンスト状態だったのって……もしかしてこういう理由だったんじゃ?)


 もしそうだったとしたらあまりにも可哀そう過ぎるだろセラスって……。


 まぁでもそんな自己鍛錬やらモンスター討伐やらクソ親父のサンドバック役を毎日こなしてきたおかげで、俺のステータスは攻撃面も防御面も大幅に向上していたのであった。


「ふぅ……今日はこれくらいにしておこうかな」


 という事でこの五年間の日々の振り返りを終えた俺はそう呟きながら剣の素振りを止めていった。そして剣を鞘にしまってから俺は背伸びをしていった。


(うーん、でも時期的にはそろそろ俺が野盗に襲われる時期な気がするんだけどなぁ……)


 俺は背伸びをしながらそんな事を思っていった。


 セラスが野盗に襲われるのは確か十六歳前後の出来事だったと作中で語られていた。だからそろそろその超重要イベントが発生すると思うんだけど……。


 でも具体的な日にちまでは作中で語られてなかったので、俺は明確にいつ頃に襲撃されるかまではわかっていなかった。


「まぁでも……今の俺なら正直なんとかなるだろ」


 流石にここまで鍛えてきた今の俺なら野盗くらい返り討ちに出来るという自信はあったので、その野盗襲撃イベントに関して正直そこまで不安に思ってはいなかった。


 というかむしろ今はそんな事よりもクソ親父関係の方がよっぽど俺のメンタルに来てんだよな。あのクソ親父、日に日に態度が増長しててヤベェんだけど……。


 実はここ数年でアルフォンス領の収益は飛躍的に伸びていて、アルフォンス領を統治するアルフィード家への税収もたっぷりと入って来るようになったんだ。


 その結果としてクソ親父は俺に対してようやくまともな生活費を支援してくれるようになった……なんて事は一切なかった。


 クソ親父はたっぷりと入ってきた税収を使って沢山の若い女性を囲ったり、旅行に出かけたり、高級な料理を食べたりなど……まさに酒池肉林を味わう生活を行っていた。


 そして弟のシュバルツも最近はクソ親父と同じように酒池肉林を味わうようになったため、態度がどんどんと親父に似てきていた。最近だと若くて可愛いメイドに命令して無理矢理童貞を卒業したらしく、それからさらに憎たらしさが増長してきている。


『えっ!? 兄さんってまだ童貞なんですか!? 貴族は沢山の世継ぎを後世に残すのが仕事なんですよ? それなのに未だに女を抱いた事がないなんて……はぁ、本当に哀れ過ぎですね、兄さん』


『あぁ、良かったらそんな哀れな兄さんに女の一人や二人でも紹介してあげましょうか? まぁ三十過ぎの何の魅力もない年増のオバサンで良ければですけどね? だって無能なゴミクズである兄さんに若くて可愛い女を紹介するなんて流石に勿体ないですしね。ぷぷっ』


 シュバルツは思いっきり見下した態度でちょっと前に俺に向かってそんな事を言ってきたんだ。いやマジでふざけた事をぬかしやがるよな。


(はぁ、全くさぁ……三十過ぎは全然オバサンじゃねぇだろ! ってか三十代の女の人とか一番エロい身体してんだろうが! 最高過ぎるだろ!)


 という事で俺はシュバルツに童貞を馬鹿にされた事よりも三十過ぎたらオバサンとかいう頭の悪すぎる発言をされた事に俺は憤慨していた。


 そもそも俺は元の世界では二十代後半だったし、お姉さんとか人妻とか未亡人みたいな年上ジャンルがドンピシャに大好きだったという事もあったので、シュバルツの三十過ぎはオバサンとかいう発言は完全に許せなかった。マジでわかってねぇよな。


「はぁ、全く……まぁでも十五のクソガキには三十過ぎの大人の女性の魅力なんてわかんねぇか……」

「ふむ? わからないとは一体何がでしょうか?」

「いやそんなの……って、えっ?」


 俺は独り言を呟いたつもりだったんだけど、何故か唐突に俺の後ろから誰かの声が聞こえてきた。


 なので俺は少しビックリとしながらもすぐさま後ろを振り返ってみた。するとそこには……。


「え……って、あっ!? れ、レイン義母様!? 帰ってきてたんですかっ!?」

「はい、ただいまです。セラス君」


 すると俺の後ろにはなんと……シュバルツの母親であり、俺の継母でもあるレイン・アルフィードが凛とした姿で立っていた。

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