第10話:アーシャと一緒に過ごしていく

 それからしばらくして。


 俺達は街の中心部に戻ってくる事が出来た。でも……。


「ぐすっ……ぐす……」


(うーん、どうしたら良いかな……)


 街の中心部には戻ってこれたのは良いんだけど、でもアーシャはひたすらと涙を流し続けたままだった。どうにかして涙を止めてあげたいんだけど……。


「うーん……って、あ、そうだ! ねぇ、ちょっとこっちに来て!」

「ぐすっ……う、うん……?」


 俺はアーシャの手を握りしめながら街の中にある露店通りへとやってきた。


 そしてその露店通りにあるジュース屋さんで俺は冷たい飲み物を購入してそれをアーシャに手渡していった。


「はい、これ!」

「ぐすっ……え? な、何これ……?」

「これはハチミツとレモン果汁を炭酸水で割った飲み物だよ。凄くしゅわしゅわーってして甘くて美味しいよ。だから良かったら飲んでみて!」

「ぐすっ……う、うん……あ、ありがと……そ、それじゃあ、頂きます……」

「うん、どうぞどうぞ」


 という事でアーシャは涙を溢しながらも飲み物が入ったコップに顔を近づけていき一口飲んでいってみた。すると……。


「……ん、んん!?」


 するとアーシャは一瞬で涙が引いていき、途端に目を輝かせていっていた。そして目を輝かせたままアーシャは真っすぐと俺の事を見つめながらこう言ってきた。


「すごいすごい! すっごく甘くて美味しいよ!」


 アーシャは一瞬でパァっと顔を明るくしながらそう言ってきた。どうやら思ってた以上にとても美味しいと感じてくれたようだ。


「あはは、それなら良かったよ。ここら辺の地域には有名な養蜂場が沢山あるんだ。だからこの街でも美味しいハチミツ料理が沢山食べられるんだよ」


 俺が住んでいるここら辺はアルフォンス領と呼ばれる田舎な地域であり、農業や畜産業などが盛んで美味しい食べ物が沢山揃っている事でも有名な地域だ。


 という事で毎日自分でご飯を用意しないといけない俺にとってはとてもありがたい地域だった。


「へぇ、そうなんだ! でもこんなにも美味しいハチミツを沢山食べられるのは羨ましいよ! 私、ハチミツすっごく大好きなんだ!」

「はは、そんなに気にいってくれたのなら俺も嬉しいよ。って、あぁ、そうだ。そういえば君の名前なんだけど……」

「え? って、あっ! ご、ごめんなさい! そういえばまだ自己紹介をしてなかったよね。私はアーシャ・グレイスって言うの! そういう君のお名前は何て言うの?」

「あぁ、俺の名前はセラス・アルフィードって言うんだ。それじゃあ改めてよろしくね、アーシャ」

「うん、こちらこそ! 改めてよろしくね、セラス君!」


 そんな感じで俺はとても気さくな感じを装いながら自己紹介をしていった。でも心の中では物凄い興奮をしていっていた。


(や、やばい……あの最推しキャラのアーシャと自己紹介をしていくなんて凄すぎるだろっ!)


 しかも俺はゲーム本編だと俺はアーシャの事を惨殺する胸糞過ぎる大悪党なんだぞ? そんな大悪党の俺と聖女のアーシャがこんな仲良さげに会話するなんて……こんなのゲーム本編だったら絶対にあり得ないシーンだぞ!


 そんなわけで俺はアーシャとの邂逅に凄く感動をしていきながらも、その後も俺達は一緒にハチミツ炭酸水を飲みながら他愛無いを続けていった。


「えっと、それで? アーシャは何でこんな田舎の街にやってきたの? 多分だけどアーシャってここら辺の地域に住んでる子じゃないよね? ここら辺に住んでる子供だったら流石に俺も知ってるはずだしさ」

「あぁ、うん、私は王都から来たんだ! 私、今回生まれて初めてアルフォンス領に来たんだよ!」

「あぁ、やっぱりそうなんだ。アーシャは凄く可愛い顔立ちをしてるからもしかしたら都会からやって来たのかなって思ったけど、やっぱり王都から来たんだね」

「え……って、えぇっ!? ふ、ふぇっ!? か、かわいい……? ほ、本当に?」

「え? うん、アーシャはすっごく可愛いと思うよ?」

「え、えっと……そ、そっか。それなら嬉しいな……えへへ」


 俺がそう言っていくとアーシャはとても嬉しそうに笑みを浮かべ始めていった。何だかわからないけど、まぁアーシャが嬉しそうにしてくれたのなら良かった。


「それで? 結局アーシャはなんで王都からこんな田舎の街にやって来たの? もしかして観光とかかな?」

「あ、ううん、そういうわけじゃないの。実はその……おじい様が最近ずっと体調に優れないらしくて、私すっごく心配で……だからおじい様に何か栄養があって美味しい物を買ってきてあげたいって思って、それで美味しい食べ物が沢山ある事で有名なアルフォンス領に来たんだ。それでさっきの人達に美味しい名物のご飯があるよって言われたから、それを信じて裏路地の方に付いて行ったんだけど……」

「あぁ、なるほどね……それは本当に怖い目にあったね……」

「ううん! 全然大丈夫だよ! だってセラス君が私の事を守ってくれたから! だから本当にありがとう、セラス君!」

「うん、俺もアーシャの事を守れて本当に良かったよ」


 アーシャは満面の笑みを浮かべながら俺に感謝の言葉を伝えてきてくれた。アーシャの満面の笑みを見る事が出来たのが嬉しくて俺も一緒に笑みを浮かべていった。


 うーん、それにしても……。


(……アーシャのおじい様って誰の事だろう?)


 ゲーム本編にはアーシャの身内キャラは誰一人として登場しなかったので、アーシャの身内の話が出てきたのはちょっと新鮮な感じだ。


 だからアーシャのおじい様と言われてもそれが誰の事を指しているのかはよくわからなかった。もしかしたらゲーム本編に登場してるキャラだったりするのかな?


(うーん、まぁでも身内が体調を崩しちゃっているのは本当に悲しい事だよなぁ……)


 幼い頃に実の母親を亡くしてしまったセラスとしては、今のアーシャの状況に多少思う事があった。


 なので俺はそんな悲しそうな表情をしているアーシャに向けてこんな提案をしていった。


「そうだ。それじゃあさ、良かったらお爺さんにこの街のハチミツをプレゼントしてあげたらどうかな? ハチミツは凄く美味しいし栄養価も高いから体調を崩してる人にもオススメだよ!」

「あっ、そうだね! 確かにハチミツって栄養たっぷりって言うもんね! それにここの街のハチミツはすっごく美味しかったし……うん、それじゃあそうする事にするよ!」


 俺がそんな提案をしていくとアーシャはとても嬉しそうな笑みを浮かべながら頷いてきてくれた。


(きっとアーシャはお爺ちゃんの事がすっごく好きなんだろうな)


 アーシャの凄く嬉しそうにしている様子から俺はそんな事を察していった。実のお爺ちゃんの事をここまで労わってあげる気持ちがあるなんて本当にアーシャって心優しい女の子だな。


「そっかそっか。それじゃあせっかくだしさ……良かったら俺からこの街で一番オススメのハチミツをアーシャにプレゼントしてあげるよ!」

「え……って、えぇっ!? い、いいの? で、でもそんな……今日初めて会ったばかりなのにプレゼントまでくれるなんて凄く悪いよ……それにセラス君はさっきも私の事を助けてくれたっていうのに……」

「あはは、そんなの全然気にしないで良いよ。せっかくこうやってアーシャとお友達になれたんだからさ、だから今日はその記念にこの街の名物をしっかりと持って帰って欲しいんだ。それでこの街のハチミツが気に入ったらまたいつでも遊びに来て欲しいな!」

「セラス君……うん、わかった! それじゃあ絶対……また遊びに来るよ! それでお爺様の病気が治ったら、今度はお爺様と一緒に来るから……だからその時はまた観光案内をして欲しいな……」

「あはは、それくらいお安い御用だよ。うん、それじゃあまた是非ともこの街に遊びに来てね。約束だよ」

「う、うん! 約束だよ! 絶対に約束だからね!」


 俺がそう言っていくとアーシャは顔をちょっと赤くしながらも満面の笑みを俺に見せていってくれた。


 という事でまたいつか会うという約束を交わしていった後、俺はすぐにオススメのハチミツをアーシャにお土産としてプレゼントしてあげた。

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