第9話:アーシャを助けていく

「へへ、お嬢ちゃんさー、こんな所にいたら駄目だろー??」

「あはは、そうだよなー! そんな綺麗な身なりで街の裏路地に入ってきたら身ぐるみ剥がされても文句言えないぜー?」

「……て、手を放してください……」

「あはは、もちろん良いぜー? でもお嬢ちゃんが今持ってるお金を全部俺達に渡してくれるならだけどなー?」

「……わ、私はその……お金なんて持ってないです……」

「あはは、そんな嘘をついたら駄目だぜー? 腕にそんな高級そうなブレスレットを付けておいて、それでお金を持ってないっていうのは流石に無理があるだろ? とりあえずそのブレスレットは俺達に寄こして貰おうか?」

「……だ、駄目です……これは凄く……大切なブレスレットなので……」

「あはは、渡すか渡さないかはお嬢ちゃんが決める事じゃねぇからな? なぁ、せっかくだしお嬢ちゃんが着てるこの綺麗なドレスも貰わねぇか? 多分これめっちゃ高いドレスだぜ?」

「……えっ……ドレスもって……そ、そんな……」

「おぉ、良いなそれ! 確かにそのドレスってシルク製だろ? はは、そんなん絶対に高く売れるよなー!」

「あぁ、そうだよな。よし、それじゃあ早速その高そうなドレスを脱い――」

「その女の子から手を離すんだ」


―― ぎゅっ……!!


「……えっ? ……って、うわっ!? い、いてぇっ!?」


 俺はそう言ってアーシャの手を掴んでいるチンピラ男の手首を思いっきり力強く握り込んでいった。するとニヤニヤと笑っていた男は途端に苦痛の顔を浮かべ始めていった。


 この一年間毎日鍛錬を行ったりスライム退治をやりまくってきた事で、今の俺はそれなりに高いステータスを持っていた。


 もちろん野盗や強盗などを生業にしている本物の悪党にはまだ叶わないだろうけど、それでも街のチンピラ程度には負けないくらいの力は既に身に着いている。


「な、なんだテメェ……って、ぐわぁっ!?」

「あ、アニキ!? な、何なんだよテメェは!? その手を放せって!! アニキが痛がってるだろ!!」

「いや、そんな涙目になるほどの力で握ってなんかいないんだけど……ま、いいや。そんなに痛いのなら離すよ」


 俺はそう言いながらチンピラ男の手首から手を離していった。どうやら本当に痛かったようで男は若干涙目になっていた。


 そしてチンピラ男はアーシャから手を離して一旦俺から距離を少し取ってきた。そのまま俺にガンを飛ばしながら苛立った声で俺にこう言ってきた。


「ぐっ……く、くそぅ……こ、このクソガキが!! テメェ一体誰なんだよ?? 俺達にこんな事をしておいてタダで済むと思うなよ!!」

「あ、あぁ、そうだ! ガキのクセに生意気じゃねぇか!! クソッ! 今すぐ八つ裂きにしてやる! 脅しじゃねぇぞ!」

「殺されたくなけりゃテメェも有り金を全て置いてけよ! このクソ生意気なガキが!!」


 そう言ってチンピラ達は服のポケットから携帯ナイフを取り出してきた。でも俺はそんなチンピラ達の動きを見てため息を付いてしまった。


(はぁ……駄目だこいつら)


 だってナイフの持ち方が初心者過ぎるし、腰もかなり引けている。威勢よく俺の事を殺すと言ってるけど、でもおそらく今まで一度も誰かをナイフで傷つけた事なんてないレベルの素人だと容易に推測する事が出来た。


(こんな簡単に見破られるようじゃ脅しにもなんねぇよなー)


 という事で俺は心の中でそんなツッコミを入れていきながらチンピラ達にこう言っていった。


「まぁ俺がクソ生意気なガキなのは認めるけど……でも良いの? アンタらがナイフを手に持って俺を殺そうとしてきてるって事は、逆に俺に反撃されて殺されても文句はないって事だよ?」

「は、はぁ!? 何いってんだよ? ってか何でお前は怯えた態度を取らねぇんだよ?」

「そ、そうだそうだ! 俺達は武器を持ってんだぞ! テメェみたいなクソガキなんざ簡単に殺せるんだぞ! それなのに何余裕ぶってんだよ!! テメェ馬鹿なんじゃねぇのか!?」

「はは、そんなナイフの握り方もわかってない素人に怯えるわけないよ。それに俺はこの街を自治するアルフィード家の長男であるセラス・アルフィードだからね? だからこれ以上騒ぎを大きくするっていうのなら、アンタらとその家族友人まとめて今すぐ全員牢屋にぶち込めるんだけど……どうする?」

「え……って、は、はぁっ!? アルフィード家だって!? や、やべぇ……この街の権力者じゃねぇかよ!! お、おいお前ら、ずらかるぞ!!」

「え? ま、まじっすか!? ちょ、ちょっと待ってくださいよアニキ!!」


 そんな捨て台詞を吐いてチンピラ達は急いで裏路地の中に走り去っていった。


 実はこの街はアルフィード家が統治しているんだ。だからアルフィード家の名前を出せば大抵のチンピラはビビってくれると思ったので俺は家名を利用させて貰った。


 まぁでもクソ親父は俺に対して簡単に“死ね”って言ってくるようなドクズだから、こんな事を報告してもさっきのチンピラ達を牢屋にぶち込めるわけないんだけどさ……。


 でも危ない輩を放置しておくのは良くない事なので、今のチンピラ達に関しては冒険者ギルドのダグラス支部長に連絡をしておく事にしよう。冒険者ギルドは街の治安活動も行っているのできっとアイツらに対して処罰もしてくれるだろう。


(……って、今はそんな事をノンビリと考えてる場合じゃない! 今はアーシャの事だ!)


 という事で俺は急いでアーシャの方に声をかけていった。


「えっと……大丈夫だった? 何か変な事とかされなかった?」

「え? あ、う、うん……ありがとう……ございます。って、あ、あれ……?」


―― ぽろぽろ……


 俺がそう言うとアーシャは静かに涙を溢し始めていった。


 まぁでもそうだよな……だってアーシャはゲーム本編では心優しいお姉さんキャラだったけど、でも今のアーシャはまだ10~11歳くらいの女の子だ。


 そんな幼い女の子がいきなり街の悪そうなチンピラ男に囲まれたら怖くて泣きたくもなるに決まってるよな。


「うん……ぐすっ……ぐすっ……」

「うん、怖かったよね。今までずっと泣かないでよく頑張ったね。でもここら辺はまだまだ危ないし、とりあえず街の中心部に戻ろうか。それじゃあ……ほら、俺の手を掴んでくれていいよ?」

「ぐすっ……え?」

「君が怖い目に絶対に遭わないように、俺が君の事を必ず守ってあげるからさ。だから俺とはぐれないように俺の手を掴んでおいて良いからね?」

「ぐすっ……うん……わかった……」


―― ぎゅっ……


 という事でアーシャは大粒の涙を溢しながらも俺の手をぎゅっと握りしめていってくれた。本当に怖かったようで、アーシャは凄く力を込めて俺の手を握りしめていった。


「うん、ありがとう。よし、それじゃあ急いで街の中心部に戻ろうか!」

「うん……わかった……ぐすっ……」


 という事で俺達は手をしっかりと握りしめたまま街の中心部へと戻っていった。

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